第37話 『一度ならず、二度までも…』


<優衣子side>



そこに眠っているのは誰…?



何でみんなそんな所で寝てるの…?



赤也…ジャッカル…柳生…仁王…真田…蓮二…。








何でそんな所に…倒れてるの…――?













『気を付けて帰って下さいね』



『構わん。お前は自分の体を心配しろ』



『優衣子を何だと思ってるんだよ、アイツ等』



『俺達の覚悟も、そんなに甘いものじゃない』



『俺…アンタにもう一回、笑って欲しいんッスよ』



『優衣子には、それがあるじゃき』



『よくも優衣子を虐めてくれたよな』



『これでこそ、優衣子先輩ッスよ!』



『そうですね、外見は少し変わりましたけど』



『まったく、何故此処まで無茶をするんだ』



『ストレス溜まらんのか?』













『優衣子は我が立海テニス部のマネージャーだ』

























――…プツッ…――





























…消えろ





もう許さない。


今此処でアンタを…殺す。






『お嬢様…!』




一斉に私に集中するゴツイ図体達。

弱小ボディーガードが10人も居たって意味が無い。

私の家のボディーガード一人にだって及ばない弱さ。

一人、また一人と…私のパンチで倒れ込んでいく。


こんなのがボディーガード…?

笑わせんじゃない。

人一人守れないようじゃ、ボディーガード失格。





そしてラスト一名…悲劇のお姫様が残ったね?






『キャッ…!』



そう言って目を瞑った小南愛理を殴り倒す。


こんな奴、生きてる価値もない。

作った傷も、作った面も、作った声も、全部…憎い。


私の大切なものを奪うと言うのならば…私はアンタの大切な命を奪う。




『痛い…ッ!』



私は節操なく小南愛理を殴り続けた。


みんなが…私が…傷付いた痛さは、こんなもんじゃない。

例えこの手が血まみれになろうとも、私はアンタを殴る。



『お願い、やめ…っ』



ねぇ、良かったね?

作った傷が本物になっていくんだよ?



これで疑われないで済むんだもんね――?





『カハッ…!!』



血を吐くぐらいじゃ生温い。


もっと…ズタズタに…原型が無くなるくらい…

アンタを苦しめるんだから。




『ごめっ…なさ…!』



ごめんなさい?今更謝ったって遅い。

私の大切なものを、たくさん傷付けたの。

それは重罪、当然…死刑。




「…あ」



私の視界に移ったもの…ノートパソコン。

蓮二の血が付着している、あのパソコン。




「…蓮二」


パソコンを手に取り、小南愛理を見てニヤリと笑うと、そこには脅えた顔。

私はパソコンを振り上げた。







ねぇ、小南愛理。





他人を傷付けた物で傷付けられるのって…


どんな気持ちなのかな――?








やめろ、姫島ッ!!


「――ッ…!」









どうして…?




どうしてアンタはいつも邪魔するの?宍戸…。


アンタだって、この女が憎い筈でしょ?





なら、殺させてよ…!






『こんなやり方、お前らしくねぇよ!』

「うるさい!どんなやり方でも、私はこの女を殺せるならそれで良い!」

『そんな事して、コイツらが喜ぶとでも思ってんのかよ!?』



宍戸の言葉に、ハッと気付かされる。

こんな所で小南愛理を殺してしまったら、今までの計画は水の泡。

肉体的に悲痛を味わわせる事が出来たとしても、それは私の望みでは無い。


私がすべき事はただ一つ。

"亜美の明るい未来を奪った氷帝テニス部に復讐する"と言うこと。


氷帝テニス部だけにこの女の正体をこっそりバラすつもりだったけど…気が変わった。

全校生徒にアンタの本性、バラしてやる。

その時は…覚悟しなさい、小南愛理…。





「………」


私は黙って小南愛理から離れた。



『愛理!』



それとほぼ同時に、宍戸と共に駆け付けた氷帝レギュラー陣が小南愛理の元へ駆け寄る。

目を潤ませて"恐かった"と言えば、それだけで奴らは虜。

本当に馬鹿馬鹿しくて、憤りを感じた。



その時、扉の向こうにチラッ見えた立海のジャージ。

その人影は紛れもなく、ブン太と精市だった。



『…ッ、みんな…!』



ブン太は倒れているみんなの元へ駆け寄った。



「ブン太…救急車!」

『え、あ、あぁ…!』



ブン太はテンパっていたが、何とか近くにある電話で119番に連絡した。

110番にも連絡したいところだけど…この状況じゃ私が圧倒的に不利だからね。

それに、今はまだ小南愛理に何の苦痛も与えてない。



目的を果たすまでは、絶対に逃がしはしない――






『一度ならず、二度までも…』




黙って部屋の中を見ていた精市が口を開けた。

その表情に笑顔は無く、完全に精市は怒っていた。




『1回言っただけじゃわからないのかい?小南愛理…』



いつもは"ちゃん"を付けて呼んでいるのに、今回は何故かフルネーム。

口調は柔らかくとも、表情は真顔。

これは紛れもなく、精市がマジギレしている時…。


きっと私じゃなくても分かるだろう。



『ゆ…幸村くん…』

『それとも少し説明が足りなかったかな?』



精市は相変わらず真顔で、小南愛理にこう言った。










『その醜い顔も作り笑顔も偽りの涙も何もかもまるごとまとめて、大嫌いなんだよ

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