第5話 私に、怒ってるの――?



『優衣子を助けに来たの』





助けに来た、って…どうゆう…?




『私が大切な大切な優衣子のピンチに気付かないとでも思ったの?』

「ピンチ…?」

『さ、敵はすぐそこ!行こう?』

「て、敵って…ちょ、何!?」



訳が分からないまま、私は部室に強制連行。

もう、こんな場所に来たくないのに…。



『あら、まだ来てないようだね。なら待ってよっか』

「……ねぇ亜美。ホントの目的は何?」

『お前は黙って俺達の言う通りにしてりゃ良いんだよ』



ムスッと不機嫌そうに問う私に、跡部がそう言った。

言う通りに、って…一体何が始まるの?

まさか、アレか。

私が氷帝に行って復讐した事をまだ根に持ってるってヤツか。

三年ぶりに会った感動とかは無いのかよ。



「…なんか嫌な予感がするので私は去ります。じゃあ、ごゆっくり」

『フッ、そうはさせるかよ』



パチンと跡部が指を鳴らすと、樺地が私を抱き抱える。



「ちょ、何すんの!?」

『おとなしく…座ってください…』

「…は、はい」



駄目、私樺地の目に弱い。

この捨てられた子犬のような目で見られると逆らえないじゃない。



『そろそろ来る頃だな』

「え?」



偉そうに椅子に座って足を組む跡部がそう言った時、




――ガチャッ。





本当に扉が開いた。

この人…エスパー、なのかな?






『…………へ?』



最初に入って来たのは赤也。

気の抜けた間抜けな言葉を発する。



『お疲れ様、赤也v』



そして赤也にそんな言葉を発した亜美に私は驚く。

"赤也"って、君達そんな仲でしたっけ?



『赤也く〜ん、凄かったね〜さっきのサーブ。かっちょE』

『俺のスカッドサーブより良いの打ってたじゃないか、赤也』

『赤也も成長したんやなぁ。お兄さん嬉しいで』



…アレ?

君たちまでそんな呼び方してましたっけ?

いつの間にそんなに親しくなったんですか?



『赤也赤也って、俺アンタ達にそんな呼び方されてませんけど』

『なんや赤也、冷たいやっちゃなぁ。仮にも同じ学校の生徒やねんから、仲良うしようや』



あぁ、なるほど…。

君達が赤也って呼んでる理由はそれですか。



『無理ッス。いくらそんな親しげに名前呼ばれても、アンタ達は他校の人ッスから』

『…チッ、バレてもうたか』

『バレバレッスよ。つーか隠す気ないっしょ?』



ごもっともだよ、赤也。

正体隠したいならヅラでも被って単体で現れろって感じだよね。

赤也にもまともな感覚あるんだ、一応は。



『あ、お前…』



ブン太が亜美を指差す。



『どうも、お久しぶりです☆清水亜美と申します!』

『何でお前が此処に居んだよ?氷帝の奴らも』

『愛理ちゃんの件ではお世話になりました、ということで。今回は私達がお世話しに参りました』

『…お世話?一体何の事だよ?』

『まぁまぁ、丸井君。こっちにも順序ってものがあるんだから』



そう言って亜美は扉の方を睨む。



『とりあえず出てきなよ、栗原サン?』



部員に混じって隠れている栗原さんを呼ぶと、栗原さんはひょこっと顔を出した。



『何ですか〜?』

『あぁ…、ちょっとムカツクからやめて。その語尾




…亜美、暫く見ないうちにパワーアップしたね。

この3年間で一体何があったんだろう。



『樺地、お願い』

『ウス』

『ちょっと、何するの!?』



樺地は栗原さんの両腕をしっかりと掴む。



おい、やめろよ!



そして一部員が樺地に掴みかかろうとすると、




――ダンッ!!




彼は見事亜美に投げ倒される。

凄いよ、亜美。

さすが裏の長。




『ってぇ!何すんだよ!?』

『あら、ごめんなさい。大事な友人が傷付きそうだったから』

『テメェ…暴力なんてサイテーだぜ!』

『暴力?やだなぁ〜、勘違いしないでよ。これは正当防衛、暴力なんかじゃないし』

『何が正当防衛だ!テメェなんかぶっ倒してやる!』

『…勝手にどうぞ』



亜美は溜め息を漏らす。

名前知らないけどそこの君。

相手を間違ったんじゃないかな?

亜美を倒せたら君はきっと世界一強い男になれるよ。



『少し落ち着いたら?』



殴り掛かろうとする彼の手を精市が掴む。

…怒ってる…怒ってる…!

精市のこの顔は怒ってる顔!

もしかして…私に…?


私に、怒ってるの――?





「ねぇ、もうやめようよ」

『え?』

「みんな練習しなきゃいけないのに…こんなの時間の無駄だよ…」



みんなの重荷になりたくないの。

みんなに嫌われたくないの。

だから、私の疑いが晴れるまで…触れちゃ駄目なんだよ…。



『優衣子…。ごめん、そうゆうわけにはいかない』

「え…?」

『私…頼まれてるから』

「た、頼まれてる…って、何を…?」

優衣子を助けてって



亜美はそう言って、何処かを見て微笑んだ。

私はその目線を辿ってみる。



『ね、そろそろタネ明かししても良いでしょ?』



亜美の目が向かうその目線は他でもなく











――幸村くん?



精市に向けられていた。

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