第4話 事態は最悪。


『やめろって!』


ジャッカルと他4名の部員によって私の手が彼女の首から離れる。

部室ごと破壊してしまいそうな勢いで、私は暴走していた。



イライラする。


半端無いくらいに…。





『ごほっ…げほっ!』




咳き込む栗原さんを見て、少し我に返った。

それでも彼女への怒りは消えない。



『どうなってんだよ、コレは…』



無惨にも床に散らばるトロフィー達を見て、ブン太が唖然としていた。



『せっ、先輩が…昨日の事許さないって…暴れ出して…ッ』



栗原さんがそう言うと、みんなが私の方を注目する。



「違う…私はやってない!」



無駄だって分かってても、それでも…否定したかった。

だけど、みんなの私を見る目が…怖い程に冷たくて。

否定すればするほど、私の抵抗が意味のないものになっていく。



『最悪だぜ、姫島…』

『この状況で誰がお前を信じるんだっての』

『ひでぇよ。先輩達の…俺達の、努力が…』



私を罵倒する色んな声が聞こえる。

ここから逃げ出したい、そんな衝動に襲われた。



『どうした?何があった?』



真田と精市が遅れて登場。

事態は最悪。

今私を信じてくれる人なんて…居ない。



『優衣子、俺は君に謹慎だって言った筈だけど』



精市が無表情でそう言った。




――やめてよ…。



精市の言葉は、いつだって重いんだから…。

今の私には…精市の言葉を支えきれる気力が無い。

これ以上、傷付きたくないの…。



『優衣子、お前がやったのかよ?』



ブン太がそう言った。

あぁ…ブン太も、私を疑ってるんだ。

栗原さんを信じてるんだ。

小学校から一緒に居て、何で気付いてくれないの…?


お前を守るって言ってくれたのは…嘘だったの…――?









「………フッ」



自然と笑みが漏れた。

何だかもう何もかもがどうでもよくなってきた。



「ハハッ…」

『何笑ってんだよ…?』

「全部…私がやったの。トロフィー壊して煙草を部室の前に捨てようとした。それでバレそうになったからこの子を口止めしようとしたの。どう?これで満足?」

『ふざけんなっ!真面目に答えろよ!!』

じゃあ否定したら信じてくれるの!?



私の言葉に無言になる一同。

何でみんな黙り込むの…?

ホラ、やっぱりそうなんだ。

否定したって、誰も信じてくれないって事なんでしょ?



「…嘘ばっかり…」

『優衣子?』

「何があっても私を信じるなんて、嘘なんじゃん!ブン太の質問に私がNoって答えても、どうせ信じてくれないんでしょ!?Yesってしか言わせないなら、最初から聞かないでよ!」



結局仲間なんて綺麗事なんだ。

それならもう良い、何を言ったって無駄。




『優衣子!』

うるさい!



真田に掴まれた腕を振り払う。



「ちょっとでも…信じてくれると思った、私が馬鹿だった」



そんな言葉を残して私は部室を出る。

こんな事になるんなら、此処に来なければ良かった。



「――ッ…」



悔しくて涙が溢れる。

こんなの、涙の無駄遣いだ…。



「くっ、そー…」



氷帝に居た時の強気な私は何処へ行ったんだろう?

私は…強いんじゃ、なかったの…?

結局、仲間が居ないと何も出来ないんだ。

強がってるけど、ホントは物凄く弱いんだよ…。


だから…だれか助けてよ――




















『――、…優衣子っ!』

「……っは!」



誰かに呼ばて、私は飛び起きた。

中庭で芝生に飛び込んで、いつの間にか寝てしまってたんだ。



『優衣子、大丈夫?』

「…ん、大丈夫、………っえ?



霞む視界で私は幻覚を見た。



「…亜美…に見えるけど、違うか。…顔、物凄く亜美に似てる」

『うん、だって私亜美だし』

「だよね〜…」



ぼーっとしたままそう答え、目線をずらす私。

そして冷静になって頭を働かせると



「……って、えぇぇえええ!?



ようやく事の内容を理解した。

いや、完全には理解仕切れてないんだけどね。

取り敢えず私の隣に居るのは…亜美…ってこと?



「せ、制服…それ…立海の…ッ!」

『うん、買ったのv似合う?』

「似合いすぎて違和感なかったよ…!」

『あら、嬉しいvあ、お供も居るよ☆』

「…え?」



亜美の目線を辿り、後ろを見てみると



『良い球打つじゃねぇか、なぁ樺地?』

『ウス』



立海の制服を着た跡部と…樺地。

何をしてるんだ、コイツらまで。



「…跡部に、樺地…」

『おいおい、俺達も居るぜ』



そして跡部の隣には宍戸、鳳、忍足、向日、あくたが……って、全員いるし。



「みんなしてコスプレ?」



苦笑してそう問いかけてみれば、氷帝陣は呆れた顔をしていた。



『ばーか、偵察だ偵察』

『違うでしょ、景吾』



澄ました顔で言った跡部にツッコミをいれる亜美。

ホントに何しにきたんだ?



「ええと…コスプレでも偵察でもなくて…何をしにきたの?」

『…そんなの、決まってるでしょ?』



亜美は優しい目で私を見る。

そしてこう言った。




優衣子を助けに来たの

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