本当の彼女


[白石side]



桜の花が綺麗に舞い散る風景を見つめながら、今朝の事を思い出していた。

北川さんって…あんな人やったっけ…?
















(STAGE.12 -本当の彼女-)













北川さんの事は転校してくる前々から知ってた。

全国大会で何回も会ったし、性格はあんなんでも美人やから目立ってたし。

だからと言って話し掛ける事は無かったけど。


ただ…俺の中での"北川明奈"は、もっと元気で、いつも楽しそうに笑ってて。

あんだけ弱ってる北川さんを見るのは初めてやった。

俺が彼女の事をよく知らないだけかもしれないけど、少なくとも今の北川さんは…あの時とは違う。

下ろせない重たい荷物を背負って道に迷ってる。

そんな感じ。



『白石、窓の方ばっか見て…どないしたんや?』

「謙也…」



後ろの席の謙也が話し掛けて来た。

謙也とは部活以外でも、何回も同じクラスになったり…結構深い仲だった。



「なぁ、北川さんって知ってる?」

『北川?転校して来た子か?まだ顔みてへんけど、美人らしいな』

「まぁ…そうなんやけど。ホラ、よく全国大会で見かけてたあの女の子」

『あー…って、ちょっと待て。まさかあの子が…?』

「せや、あの子が北川さん」



俺の言葉に、謙也は声も出ないくらいに驚いてた。

実際北川さんは一回テニス部内で噂になったし、知らん事は無いと思ってたけど…。


此処まで驚かれるとなんかオモロイわ。




「あの子のイメージって…どんな感じ?」

『イメージ…?そうやなぁ…一言で言うと活発』



謙也もまた、俺と近いイメージを持ってた。

どっちが本物の彼女で、どっちが偽者の彼女なんやろ?

俺には、今の彼女が偽者のように見えるのは…気のせいやろうか…?



「謙也…、後で相談乗ってくれへんか?」

『ええけど…お前が俺に相談って、珍しいな』



授業が終わると、俺と謙也は中庭に移動した。

そして俺は一部始終、話せる事は全て謙也に話した。



『へぇ…俺の知らん間にそんな事が…』

「まぁそんなわけで二週間後に強化合宿があるってわけや」

『青学に氷帝に立海か。相手にとって不足は無いけど…』



謙也は言葉に詰まる。



「けど?」

『ホンマに大丈夫なんか?北川さんは』

「大丈夫って、何が?」

『なんや跡部を敵に回すと…ヤバイらしいで?』



跡部は手段を選ばん奴。

そんな人物って事はよく知ってる。


でも…



「その時は俺らが守ってやるしか、ないやろ…?」



俺にとっても、優奈は大切な人なんや。

今のアイツが俺の事を覚えてなくても…俺は優奈を忘れる事なんて無い。



『えらい北川さんに入れ込んでるんやな?』

「だって北川さんは…優奈の姉貴やし」

『へーえ………って、は…ッ!?

「あ、俺言ってへんかった?」

言ってへんわっっ!



言わんくても普通気付くやろ…。

名字一緒やし、目の色も一緒やし……って、謙也はまだ北川さんに会ってないんやっけ?

そこまでは知らんか…。



『お前の事は…覚えてへんのか?』

「家族の事も忘れてるくらいやで?当たり前や」

『そうなんか…。しかし偶然って…凄いなぁ』

「ホンマ、最初はビックリしたわ。あの二人全然タイプ違うし」



全国大会で会ってても目の色までは見えへんかったから、姉妹なんて全然気付けへんかった。

寧ろあの子が立海のマネージャーしてる事も知らんかったわ。

ただの応援団かと…。



『北川さんは気付いてへんのか?』

「俺か優奈が言わん限り…気付けへんやろ」

『そりゃそうやな』


あれ、先輩達?



いきなり声がして、俺達は大きく肩を振るわせた。

ゆっくりと声の主の方を見てみると…そこには財前が。



『なんや、お前か。ビックリさせんなや!』

『こんな人気の無い所で密会スか?』

『あぁ?密会?そんなんちゃうわっ』

『先輩ら怪し〜』



後輩と言えども、コイツは何かとしっかりしてるからな。

この話はしといた方がええかもしれへん。

何より…理由ナシで強化合宿には参加せぇへんやろうし…。



「財前、実はな…強化合宿をすることになったんや」

『いつ?』

「二週間後や」

無理っス。心の準備出来てません』



ホラな…。

仕方ない、全部話すか。



「財前…よー聞き」

『?』





俺は財前にも全てを話した。

北川さんの事。

合宿の本当の目的。

まぁ色んな事を。



『…なら、強化合宿っちゅーのは、表向きなんスか?』

「まぁそうなるな」

『分かりました。それなら参加しますわ』



財前はあっさりオッケーした。

多分、"強化"とかそうゆう熱い合宿は嫌いなんやろう。

低血圧な男やからな、財前は。




『ほんで、全国大会でいつも見かけるあのべっぴんが四天宝寺のテニス部マネージャーとしてその合宿に参加するっちゅー事っスか?』

「そうや」

『で、その子が部長の大切な子のお姉さん』

「そうや。流石、掴み早いわお前は」

『それどうゆう事や!俺が掴み遅いっちゅー事か!?』

謙也にはさっき3回くらい話繰り返したけど

『…そうやっけ?』



と、謙也が頭をかく。

その時…












――ガシャンッ…!!




何処かから何かが倒れるような凄い音が聞こえた。

俺達は急いで、そこへ向かう。



するとそこには…





『弱っちぃくせに…気安く声かけんな!』




男三人を倒した後の北川さんの姿があった。

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