独りじゃない


[明奈side]


『北川さーん、俺らと遊べへん?』

転校早々、私は三人の男に声を掛けられた。
















(STAGE.13 -独りじゃない-)













「遊ばない」

『まぁまぁ、そんな事言わずにさぁ』



その男達はしつこくボディータッチをしてくる。

うぜぇ…。



「移動教室の途中なんで」



そう言って軽くかわそうとした。



『ええやんええやん。俺北川さん、めっちゃ好みやねん』



が、しかし、まとわりついてくる男達。

ただでさえ苛々してるのに、増長させんなよ。



「私はアンタ達みたいな男は嫌い」



私はニッコリと微笑む。

勿論その笑顔は心の底からでは無く、表だけ。

"ウザイ"の意味を込めて。



『プッ、北川さんて結構毒舌やねんなぁ!』



けれどソイツらにその意味は届かず。

楽しそうに笑う男達。

何故か知らないけど、無性に腹が立った。



「日本語通じてんのかよ?」



ドスッ、と鈍い音を立てて、私のパンチが一人の男の腹に食い込む。

すると、それまで笑っていた男達の顔が険しくなる。



『さっきから人が下手に出てりゃあ…ふざけんなよ、テメェ…!』



後ろから両手をガシッと掴まれ、身動きが取れない状態になる。

ニヤリと笑う男達。



『抵抗出来ねぇだろ?』



そう言いながら、段々と男の顔が近付いてくる。





――こうゆう時…普通の女の子はどうするんだろう。


ごめんなさいって謝るのかな。

誰かに助けを求めるのかな。

それとも、男達のされるがままにされるのかな。


優奈は…どうだったんだろう…?





『何とか言えよ。謝れば助けてやらなくもねぇぜ?』

「謝る…?」

『あぁ、"ごめんなさい"って土下座したら解放してやる』



と、私を見下ろして笑うその男に…跡部景吾の影が重なった。

ふざけんじゃねぇよ…。



「なんで私がテメェに謝らなきゃいけねぇんだよ…ッ!」



私は、背後にいる男を投げ飛ばした。

その男が二人の男に命中して、そっから先はよく覚えて無い。

とにかく我を忘れて暴れまくった。












――ガシャンッ…!!




と、凄い音がしてフッと我に返る。

どうやら準備されていたパイプ椅子の方に投げ飛ばしたらしく…。

いつの間にか私は体育館に来ていた。



『くっそぉ…テメェ……ッ!』

「弱っちぃくせに…気安く声かけんな!」



そう言って体育館を出ようとしたその時…



『…………』



白石と他二名に会ってしまった。

やべぇ…見られた。

また警察沙汰になっかな…。



『何してるんや?』



珍しく白石は怒っていた。

何でお前が怒ってるんだよ。



「言っとくけど…これは正当防衛だからな」



そして何で私は言い訳してんだよ。

私が何をしようが、コイツには関係ねぇだろ。








――キーンコーンカーンコーン



ナイスタイミングでチャイムが鳴った。



『やべっ、俺授業行くわ!』

『俺も戻りますわ』



白石と一緒に居た二人の男は、走って教室に戻っていった。



「ホラ、授業始まるぜ」



私は白石の横を通り抜けようとした。

けれど…白石は私の手を掴んで離さなかった。



「何すんだよ」

『ちょっと…こっち来ぃ』



そう言って白石は私の手を引っ張って、人気のない所に連れて行った。



「離せよ」



私は白石の手を力一杯振り払った。

すると白石は私の方を向いて、私を睨む。



『お前は一体何をしたいんや?』



白石にそう尋ねられた。


何をしたい…?

そんなこと私にもわかんねぇよ。



『妹を助けたいんちゃうんか』

「そ…そりゃ…助けてぇけど」



それとこれとは関係ねぇだろ。



『ならこんな所で無駄な体力使うなや!』

「なっ…別にアンタには迷惑かけてねぇし!つーか、関係ないだろ!」

『関係あるわ!優奈を助けられるのはお前だけなんや!』

「…………は?」



ちょっと待て、今コイツ"優奈"って言ったか?



『俺かって優奈が大事なんや、助けてあげたいんや』

「え…えっと…」

『お前の敵は氷帝だけやろ?どーでもええ奴なんか相手にするなや』

「いやいやいや、ちょっとちょっと…!



優奈が大事?

助けてあげたい?


い、一体君達の関係は…?




「も、もしかして君…優奈の彼氏…とか?」

『彼氏では無い…けど』

「けど…なんだよ?」

『優奈は大切な子や』



ちょ、優奈…!

お姉さんの知らない所でおまっ…!



「し…失礼ですが…優奈との接点は…?」

『あの子が中一の時に、テニスクラブで知り合ったんや』



私が出て行った直後かよ…っ!

そう言えばあの子、週一ペースで大阪行ってたとか何とかお母さんが言ってた気が…。



『優奈を助けたいと思ってるのは、お前だけちゃうんや』

「白石…」

『だから…一人で何でも抱え込むな』



そう言われて、胸のつっかえが取れた気がした。

悲しいのは、悔しいのは…私だけじゃないんだ。


そう思ったら、涙が自然と頬を伝った。

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