浮上した疑惑


[翔子side]



『北川明奈…不思議な奴だ』

『北川明奈を…気に入ってるんか?』



マズイ…こんな事になるなんて、予想もしなかった。

景吾も、侑士も…私を疑っている。
















(STAGE.38 -浮上した疑惑-)












まさか…景吾は記憶を取り戻しかけてるの…?

それとも…侑士が景吾に色々と吹き込んでいる…?


どっちにしても、マズイ。


このままだと私も優奈みたいに…。

いや…それだけは絶対に嫌!

保険が…必要ね。



ガチャ…



私は部屋にある電話の受話器を取り、ある人物に電話を掛けた。



「もしもし…私、翔子」

【翔子…?久々だな】

「時間が無い、お願いがあるの」



男友達はたくさん居る。

悪人、善人、そんなものは関係無く。

みんな、私の言うことなら何でも聞いてくれる。



「期限は三日間だから。宜しくね」



そう告げて私は電話を切った。

優奈と私の戦いはまだ終わってない。

北川明奈にバトンが渡っただけよ。

だから、何が何でも負けるわけにはいかないの。

私のプライドにかけても…。

もし景吾と侑士が裏切るのなら、その時は私の最終手段で…アンタを苦しめる。

仲間は氷帝陣だけじゃない、他にもたくさん居るの。

私を敵に回した時点で、優奈も…アンタも、結末は決まってたのよ。



「フフッ」



思わず漏れてしまった微笑みは、我ながら黒い笑みだった。

今まで、思い通りにいかないことなんてなかった。

誰であっても、私に逆らう人は居なかったから。

勿論、景吾も侑士も例外ではない。

お金持ちが集う氷帝も、所詮そこらの薄汚い学校と何ら変わりないってこと。



「……」



私はドアノブに手を掛け扉を開くと、景吾の部屋から静かに立ち去った。

この合宿が終わったら、こんな部は辞める。

こんな学校だって辞めてやる。

結局は私が求めているものなんて…何処にも無い。



薄暗い部屋に辿り着くと、そのままベッドに倒れ込み、深い眠りに就いた。













『翔子ちゃんは怒ってる顔の方が可愛いね』





「――…ッ!?」








眠りに就いて、どれくらい経っただろう?

ふと頭の中に浮かんだ言葉で目が覚めた。

思い出したくなかった言葉。

私はまだ…全てを手にしたわけじゃない…――?



「……」



私以外誰も居ない部屋で、歯を磨き始める。

僅かに小鳥のさえずりが聞こえるだけで、辺りはひたすら静寂。

寂しい朝だった。



『おっす、城崎』



部屋を出ると宍戸先輩に出会った。



「おはようございます」



宍戸先輩に得意の作り笑顔を向けると、私はそのままコートに向かった。



「あ…」

………げ



そしてコートの近くにある水道の所で、北川明奈に出会う。

この女は私を見るといつも、条件反射で顔を歪ませる。

尤も、私も条件反射で不敵に微笑んでしまうんだけど。



「風邪、治ったんだ?」

『お陰様で、まだ引きずってるっつの』

「なら良かった。全快されても鬱陶しいし」



嫌味たっぷりに含んだその言葉を投げ掛けると、北川明奈は私を睨む。

敵意バリバリの目で…。



「もう二重人格ごっこは終わり?」

『当たり前だろ。アンタはまだ続けてるみたいだけどな』



その言葉に、今度は私が北川明奈を睨む。

いちいち、この女の言葉には腹が立つ。

優奈の影と被るから、そうゆう理由もある。

けど何よりも…



『自分偽ったって、何の意味もねぇのに』

「……ッ…」



この女の言葉は、いつだって真っ直ぐだから。

こうゆう女は大嫌い。

優奈も、この女も…どうしてこうも素直に育ってるのか。

どうして私はこうも屈折しているのか。

この感情が"嫉妬"だと言うことに、今初めて気付いた。



「アンタも、何もかも失えば良いのにね」



正直、この言葉は心の底から出た言葉だった。

一度出始めた言葉は止まる事無く、続く。



「仲間も記憶も全て失っちゃえば?そしたら優奈のように楽になれ…」






――パシッ…!!



その時、壁にぶつかったかのような激痛が、私の頬に走った。

北川明奈から、二度目のビンタを食らった。

だけど昨日のものとは比べ物にならないくらい、本気のビンタ。

口の中を切ったのか、鉄の味がした。



「な…何、す……」



突然のことで、言葉が上手く出ないでいると、北川明奈が私の胸ぐらを掴んだ。



『優奈のように楽になれる?ふざけてんじゃねーよ!



力一杯私に向かって叫ぶ北川明奈。

その声を聞いて、コートに着いた人達が集まってくる。



優奈は苦しんでんだよ!お前のせいで!!

「た、助けて…ッ」

『オイ!やめろ…!!』



笑顔に続くお得意の涙を流すと、宍戸先輩が間に入った。

離された私は、鳳に介抱される。



『大丈夫?』

「お…鳳…ッ」



そして鳳の胸に顔を埋め、涙を流している振りを続けた。

何…この女。

ちょっと冗談言っただけでしょ?


どうしてそこまで北川優奈に執着しているのか…。


私には分からない。

そう、一生…――



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