彼女の訴え
[慈郎side]
「えっ?俺?」
いつの間にか、みんなが俺のことを見てた。
『ここはジロー先輩に任せてください!』
「え、ちょっ…俺分かんないC…」
(STAGE.51 -彼女の訴え-)
優奈ちゃん、それは無茶振りって言うんだよー…。
翔子ちゃんと一番関わりがあるのは、キミか跡部でしょー?
『翔子は…ジロー先輩のことが好きだったんです!』
そう、優奈ちゃんは言った。
翔子ちゃんが…俺を…何?
俺を、好き……好き…?
好きぃ!??
「え…え…
えぇ!??」
『だから翔子との思い出の場所に、行ってみてください!』
「お、思い出の場所…!?って言われても…俺ずっと寝てただけだC!」
困り果てる俺をお構いなしに、優奈ちゃんは背中をグイグイ押した。
空気的に行かないわけにもいかなかったから、とりあえず向かってはみたけど…。
思い出の場所ー?
えー…何処だろー…思い付かないC…。
氷帝に戻ってみる?
『ジロー先輩!』
にしても…翔子ちゃんが…俺を?
全然気付かなかったC。
『芥川様、お乗りください』
「えっ?いいのー?」
さすがは跡部の執事、役に立つなぁ。
なんて思っていたら、俺はいつの間にか目を閉じていた。
『――…様、芥川様』
「
んがっ!…んー…もう着いたのー…?」
『ええ。それでは、私は戻らせていただきます』
「あー…ありがとねぇー…」
なんとなーく、ぼーっと車を見送って。
テニスコートの方に向かった。
だって思い出って言ったらそっちにしかないC。
「んー…いないなぁ…」
コートには居なかった。
だとしたら……わかんないや。
ホントに翔子ちゃんは、俺のこと好きだったのかなぁ…?
ずーっと跡部のことが好きだと思ってたよー。
「…ねみぃ…」
ちょっとだけ…寝てもいいよねー?
いつもの場所行くかー。
「…あれ?」
先客…って言うより、あれは…。
「翔子…ちゃん…?」
『
!!』
俺のいつもの特等席に、翔子ちゃんが居た。
思い出の場所って…ココ!?
『ジロー先輩…なんで……』
「翔子ちゃん…」
泣いてた…?
翔子ちゃんの目は、少し赤くなっていた。
「あ、いや…翔子ちゃんを、探しに来たんだ」
『私を…?あ、そっか…仇討ちですか…』
この子は…何もかもを失った。
仲間、親友、自分の居場所…そして、地位も名誉も。
全部全部、翔子ちゃんから離れて行った。
『良いですよ。…もう…逃げも隠れもしませんから、どうぞ…』
いつもの翔子ちゃんじゃない。
彼女の奥底には、いつも強い彼女が居て…でも、今は…。
「なんで、優奈ちゃんを…」
『フッ…みんな調子が良いですよね。あんだけ優奈を傷付けておいて、今更許してって…』
「………」
言い訳を探したけど…何も言い返せなかった。
それは俺自身も、みんなを責めることが出来ない。
『それで私が悪者だって分かったら、今度は私を責めるんですか?』
薄情だ、って言われたら…確かにそう。
俺達はこの子を信じることも、優奈ちゃんを信じることも…出来なかった。
『私にも優奈にも失礼でしょ』
「…ごめん」
『私が求めるものなんて…ないの…』
翔子ちゃんの瞳が、静かに下を向いた。
凄く悲しそうだった。
でも、これが本当の翔子ちゃんのように感じた。
『私が求めるものなんて、ない…筈だった』
この子の頭の中には、今…どんな光景が浮かんでいるんだろう?
俺には想像も出来ないけど、翔子ちゃんにとっては、それがとても大事な思い出…なんだろうな…。
だからこそ、キミは今、苦しんでるんだよね…?
『ジロー先輩…私、アナタに一目惚れしたんです』
「え…一目惚れ…?」
『凄く純粋に、笑ったり、怒ったり…悲しんだりするジロー先輩を見て、素敵だなって』
一目惚れなんて…初めて言われたC…。
ちょっと照れくさい思いを隠して、平然を装おうとするけど…ちょっと口元が緩んでしまう。
『私にないものを持ってた。そんな純粋なアナタが…大好きだった』
「翔子ちゃん…」
『優奈も…あの子も…大好きだった……』
翔子ちゃんは、チャームポイントの大きな目から…涙を流す。
俺が知らないところで、苦しみと戦ってたんだ…翔子ちゃん…。
俺はそんな翔子ちゃんに掛ける言葉も見つからず、ただ彼女を見つめるだけだった。
二人の間を、強い風が通り抜ける。
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