終劇の予感


[明奈side]


優奈が置いて行ったこの盗聴器…。

楽しそうに笑う声だけが、私の耳に響いている。


「………」

『ジローの奴、生きてやがったのか』

『ホンマ…人騒がせな奴やで』

『ま、取り敢えずは一安心だな』
















(STAGE.59 -終劇の予感-)














『おい、明奈。どうした?』

「…いや、なんつーかさ…。私、余計なことしたのかもなーって」

『アァン?』

「もう優奈は自分で立てるのに、放っておけなくて手出して…いつまでも優奈をか弱い女の子だと思って…」




城崎の事だって、私が口出すような事じゃなかったんだ。

許すのも許さないのも、あの子が決める事なのに…。

感情的に行動してしまう私とは真逆で、優奈はいつも…誰かの事を考えながら行動してる。

そんな立派に成長してる優奈を見ると、嬉しくもあり…寂しくもあったりする。




『バーカ。何言ってやがる』

「あぁ?」

『お前が居たから、優奈は笑える事が出来たんだろ』

「跡部…」

『お前の真っ直ぐさは、俺も優奈も、お前のご両親も此処に居る奴らも、翔子ですら…救われたと思うぜ』




そんな跡部の言葉が、やけに嬉しかった。

目頭が熱くなるのを感じながら、この幸せを噛み締めていた。




『あれっ、明奈先輩!跡部さんに泣かされてるんっすか?』

『アァン?おい、切原…テメェふざけたこと言ってんじゃねぇ』

『アンタに任せられなくなったら、俺が明奈先輩貰いますから』

『フンッ…言うじゃねーの。まぁ、心配するな。お前にだけは渡すことはねぇよ』

『ふーん』



跡部と赤也が挑発的に笑い合う。

コイツらの話し合いの中に"私の意思"というものは少しでも組み込めないものか…。



『おい、明奈!ケーキ買ってきたぜぃ☆』



丸井が白い箱を片手に嬉しそうに近寄る。

ったく、こんな時にもお前は…。



「どーせ全部お前が食べるんだろ」

『えっ、食って良い?』

「えっ、って…わざとらしい…。良いよ、食えよ」

『ひゃっほーい☆』




どんだけ絶望的で挫けそうな時も、コイツらが支えてくれてた気がする。

こんなドロドロな状況で、私が私らしく居れたのも…立海テニス部のお陰なんだ。




『具合はどうだ、北川』

『顔色は良さそうだな』

「真田…幸村…」





「今回だけは…頼む…」

『明奈?』

「私が妹にしてやれるのは…これくらいなんだ…」





何も言わず、私の頼みを受け入れてくれた。

この二人は私の中で群を抜いて恐ろしい奴らだったけど、いざって時にすげー頼りになった。



今回、みんなの意外な一面を知れたような気がする。













『妹を助けたいんちゃうんか』


『優奈を助けられるのは、お前だけなんや!』


『だから…一人で何でも抱え込むな』




『あー、お前の相手したら疲れたわ』


『明奈、ホンマ気ぃ付けや』


『三日後の団体戦、俺らもお前の為に戦うから。…絶対負けへん』




『ワイ、四天宝寺高校一年テニス部の遠山金太郎!』


『ワイと友達になろーや!!』


『当たり前やん!明奈はワイらの仲間や!!』




『明奈、いよいよ明日ばい』


『最初はどうなる事か、いっちょん分からんかったと。ばってん此処まで成長しよるとは…』




『明奈――』
















『明奈先輩』

うわっ…財前!!ビックリすんなーお前の登場の仕方!」

『失礼な』

「わ、悪りぃ悪りぃ」

『これ、気持ちを込めて作りました。受け取ってください』




と、いつもの財前らしからぬ気持ち悪い言葉と共に渡された代物。


これは…




『八羽鶴です』

ちっちゃ!お前の気持ちちっちゃ!!




フツー千羽鶴だろう。

しかも八って中途半端な…




『何言うてるんすか。八羽しかおらんから、気持ちこもってるんすわ』

「え?」

『だいたい先輩が運ばれてから今まで、そんな時間も無いのに千羽なんて作れるわけないでしょーが』

「た、確かに…違いねぇな」




よく見れば、その鶴にはひとつひとつメッセージが書いてあった。

四天宝寺の奴ら一人一人が…気持ちを込めて作ってくれた一羽の鶴が…連なっている。




「…ありがとう…」




それを早速病室に飾った。

つっても、私はもう全然ピンピンしてるから、早く退院してーんだけどよ。





『跡部。翔子と優奈が着いたみたいやで』

『ああ』

「………」




城崎と優奈の向かう先は分かってた。

アイツらはきっと…




『岩崎遥香の…自宅…』




自分よりも先に、跡部に解かれてちょっとした悔しさを感じたが…コイツの事だ。

もしかして私以上に、この先の事…全部全部、分かってるのかもしれない。




「優奈…」

『心配だろうが、これこそ俺達が口出しする問題じゃねぇよ』

「…そうだな…」

『それよりも、俺達が出来る事があんだろ』




跡部は不敵に笑った。



短いようで長かった、私の復讐劇。



最後は、どんな形で終わるのかなんて


今の私には想像が付かなかった――




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