10(流血表現あり)

―――――なんで俺達は、、、
―――この本丸に縛られているんだろう、、、

厚樫山の一件のあと、薬研達は草薙の同僚の真壁に保護され、本丸まで帰ってきた。
本当ならば戦場で折れるつもりだったが、その意思は揺らいでいた。
だって『あの人』と生きると約束したから。
すがり付いてでも生き抜いてやる、、、大将、、、いや、あんな女の思い通りになってたまるか、と。
それに、薬研達は自身に変化を感じていた。あんなに苦しかった呼吸も重症だった傷も、ほとんど消えていた。思い当たることはただひとつ。

「あの人は、何者だったんだろうな、、、」
「はい。虎君達もすっかり治ってました」
「ああ、、、でもどのみちまた、ボロボロにされるんだろうけどな、、、」

薬研の言葉に厚と五虎退は黙りこむ。
結局、三日月宗近は手に入れられなかった。手元に残ったのは、折れている二振りの兄弟。この状況を見たら、必ずあの主は怒り狂う。最悪、自分達は破壊されるだろう。

「、、、はあ。俺っち達もつくづく不運だったな」

薬研がそう呟いたと同時に、本丸の門が開き一振りの刀が出てきた。

「おかえり、、、」
「大和守の旦那、、、ああ、帰ってきちまった」
「主が待ってるよ」
「ああ、行くぞ、二人とも」
「ああ」
「はい」
「では、私はこれで」
「ああ、世話になった」

薬研達は、真壁と別れ本丸に入っていった。


――――――――――――
―――――――

「帰ったわね。さあ、出しなさい」

薬研達が謁見の間に入ると、労いの言葉も無く手を差し出す。
この本丸の主、霞。彼女は元々見習いとしてこの本丸に来た。初めこそは大人しくしていたが、一ヶ月程たったある日、この本丸の主を殺し、乗っ取った。そして様々な手段を使い、刀剣達を操ろうとするが、殆どの刀剣達が反旗を翻した為、片っ端から破壊した。しかし、レア度の高い刀は呪術で強制的に言うことを聞かせ、自分の言うことを聞かない刀を処断させたり、夜伽を強要したり好き放題していた。つまり、呪術に操られているだけで、彼女を慕っている刀剣は一振りもいない。霞の愛刀である一期一振もその内の一振りだ。

「何を黙っているのかしら?」

低く冷たい声が室内に響いた。びくりと肩を震わせる薬研達だが、意を決した薬研は口を開いた。

「、、、三日月宗近は見つからなかった」
「はあ?あんた、手ぶらで帰ってきたの?バッカじゃない?」

声を荒げ、見下したような物言いをする霞に、かっとなった薬研はばっと立ち上がり叫んだ。

「もういい加減にしてくれねぇか?あんたはここで一兄達とイチャイチャしてるだけだろうが、こっちはあんたの無茶苦茶な我が儘に付き合わされて、兄弟が次々折れてんだ!!」
「薬研!!落ち着け!」
「や、薬研兄さん、、、っ」

慌てて厚と五虎退が止めに入るが、放ってしまった言葉は取り返せない。気味が悪いくらい無言になる霞に不安を感じた一期が声を掛けた。

「あ、主殿、、、」
「ふ、ふ、ふふはははははははははははっ!!」
「「「!?」」」

突然笑いだした彼女に、周りの刀剣達に緊張が走る。暫く笑い続けていた霞はふっ、と真顔になり、一期の方を向く。そして、残酷な命令を下した。

「私の可愛い一期一振。あの裏切者を折りなさい」
「な、、、っ主殿っ!!」
「どうしたのかしら。私の言うことが聞けないの?」
「、、、、、」
「ふぅ、、、仕方ないわねぇ、、、一期一振、あの三振りを折れ」

中々動こうとしない一期に痺れを切らしたのか、霞は禁忌である言霊を使った。途端に一期の体の自由が奪われていく。

「っく、、、あ、るじ」
「一兄、、、、」
「しっかりしてくれ一兄っ!!」
「一兄、、、そんな、、、」

苦痛に顔を歪める一期の手には抜刀された刀。それを薬研に向かい振り上げた。一期の背後では霞が歪んだ笑みを浮かべて眺めている。それを見た薬研は恐怖よりも怒りが勝った。純粋に殺意が湧いてくる、、兄弟達を簡単に折り、一期達を苦しめ、前任を死に追いやり、暖かい思い出が詰まった本丸をどす黒く汚した、この女に。霞への憎しみに満ちた目をした薬研の頭上に一期は刀を振り下ろした。

ガキンッッ

刀同士がぶつかり合う音が響き渡る。そこには一期の刀を美しく輝く己の本体で受け止める薬研の姿があった。

「ちょっ!!一期?手加減してんじゃないわよぉ!!」

ますますヒステリックに叫ぶ霞。思い通りにならずイライラしているようだ。

「もうっ!後でお仕置きだからねっ!!鶴丸!貴方が代わりにやりなさい!!」
「いや、しかし、、、」
「いいから、、、、やれ!」
「くっ!!」

一期では駄目だと判断したのか、背後にいた白い青年、鶴丸国永に言霊を使った。抗えない彼は抜刀すると一期の刀を受け止めている薬研にそのまま切りかかった。厚と五虎退は怯えて動けない。絶体絶命の状況、、、そして、

ザシュッ、、、切り裂かれる音がした。が、

「ぐっ、、、、」
「な、、、、」
「や、大和守の旦那、、、?」

血を吹き出し倒れ込む大和守を呆然と見つめる薬研達。対して斬り付けた鶴丸の白い着物には赤い飛沫が掛かり、元々色白の顔を青白くさせた。

「あああああっ!!もうっ!なんなのよなんなのよなんなのよっ!!イライラするっ!!」

地団駄を踏み、鬼女のような表情でわめき散らす霞。そんな彼女を他所に、薬研は大和守に駆け寄り虫の息の彼をおぶる。そして、真っ青になった厚と五虎退を連れ謁見の間を後にし、離れに向かい歩いて行った。

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