プロローグ

振り返ったら堕ちる。

自分の『罪』に押し潰される。

だからがむしゃらに前だけ見て生きてきた。

、、、、後悔はしていない。


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「大往生ね、、、母さん」

人里を少し離れた小さな家。
たった今、一人の老女が天に召された。

「女手一つで五人も育てて、、、、大変だったはずなのに、、、」

ベッドを取り囲み、老女の冥福を祈る。

思えば波瀾万丈な人生だった。

処刑人の家系に生まれ、人に死をもたらす死神と恐れられてきた。
一族はそれを当然と受け入れ、誇りにさえ思っていたが、私は違った。
男尊女卑な世の中。女性が当主を名乗るなど、あってはならないこと。しかし、母は私を産んですぐに世を去った。
父は再婚は考えてはおらず、次の世継ぎは期待できない。かといって家を潰えさせる訳にはいかない。

そこで先代当主はまだ幼い私を当主とした。
もちろん、女性としてではなく『男性』として。
言葉遣いや立ち振舞いや学問等の知識を教え込み、処刑人として育て上げた。

何度も何度も助手として父や祖父の仕事に同行した。
何度も何度も罪人の血を浴びた。
何度も何度も懺悔をした。
何度も何度も自分を呪った。

そう、、、何度も何度も、、、、。

、、、、そして、修業期間を終えた私は独り立ちした。とはいっても、やはり家の名前無しでは雇ってくれる所は皆無に等しい。仕方なく忌み嫌う一族の名を騙り、主を転々とした。

時代はフランス革命に突入する少し前。
冤罪も横行していたご時世、少しでも罪なき者を救うため、私は雇い主に常に二つの条件を提示した。

一、罪人の詳細な情報の提供。
二、嘘はつかないこと。

これらを一つでも破った場合は、、、、私の独断で裁くという条件を。
ごねられるかと思ったが毎度すんなりと了解され、その度に破られ雇い主を裁いた。
権力者など所詮そんなものだ。そんなことを繰り返していたが、不思議と雇いたいと言うものが後をたたなかった。
暫くそんな雇われ処刑人の日常が続いていたが、ある日終わりを迎える。

最後の仕事は年端もいかない娘の処刑だった。
物盗りだと言うことだったが、少し違和感を感じた。なので、身分を隠し町で聞き込みをし、資料を隅々まで見た。しかしこれといった手掛かりが掴めないまま、処刑前日を迎えた。

その日、私は少女の元に行った。そして見張りを退かせ、扉越しのまま最初で最後の面会をした。

『聞きたい事がある。いいか?』
「っ、、、はい、、、」
『なぜ、捕らえられた?』
「、、、、ん」
『ん?』
「分かりません、、、私、私は、、、なにもしてない、、、」
『、、、証拠は?』
「、、、証拠は、、無いです。でも、あの日は丁度仕事がお休みで、、、ずっと家にいました。本当です!!」
『、、、、』
「お願い、、、信じてっ、、、!!私、私、、、死にたくないっ!!」

ついには泣き出してしまう少女に、私はある賭けに出ることにした。その為には、、、

『、、、分かった。また明日会おう』

私はその言葉を残し少女の元から離れた。そして向かった先は領主の部屋だった。覚悟を決めた私はノックもせずに扉を開けた。が、部屋の主は不在のようだった。

『不用心だな。まあ、こちらとしては好都合だ』

机に近付き物色する。
無い、、、
無い、、、

読みが外れたかと半ば諦めながら一番下の引出しを開くと、、、

『あった、、、!』

なんと盗まれたはずのルビーの指環が出てきた。と言うことは、完全に領主の自作自演。

『一杯喰わされたな、、、だが証拠は手に入れた。私を謀った罪は重いぞ、、、?』

私はその指環を領主がいつも着ている上着に隠し、その場を後にした。

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―――――――

翌朝、少女を乗せた荷馬車が処刑場へと向かった。
私は一足早く付き、身支度を整える。それから間も無く荷馬車が到着した。それを見届け、頭にスッポリと被り物を被り、刑場に向かった。

斬首台に座る少女は小刻みに震えていた。無理もない、今から自分の首が飛ぶのだ。私は剣を持ち、少女の隣に立った。びくりと震える彼女の長い髪を徐に掴み、剣を降り下ろした、、、。

ザクッ、、、、

「、、、え、、、?」

少女はぱちくりと目をしぱたかせる。私が切ったもの、、、、それは少女を拘束していた縄だった。
困惑している少女に私は言いはなった。

『走れ!』
「え?あの、、、」
『何も考えるな、振り向かずに走れ!』

それと同時に足枷も破壊する。少女はコクリと頷くと走り去る。それと同時に野次馬からの怒号が響いた。それはそうだ。数少ない娯楽を邪魔されたのだ。しかし、、、、

『黙れ!!』

私の怒声に野次馬はしーんと静まり返る。それを確認すると、領主の方に振り返る。領主は青ざめていた。きっと勘づいたのだろう。嘘がバレたと。
その証拠に、彼の手にはあのルビーがあった。

『その指環、盗まれたんじゃなかったのか?』
「、、っく!!」
『、、、、契約違反だ。分かってるな?』
「くそっ!!お前たち、こいつを殺せ!」

領主の用心棒がわらわらと出てきたが、それを軽く捌きながら、領主を追う。そして、、、追い詰めた。

「なっ、、、、」
『逃げられると思ったか、、、私を謀った罪、その命をもって償え、、、』

そして私は領主の首を飛ばした。最後の鮮血を浴びながら、自由を手に入れた喜びに浸っていた。


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それから一族を棄て、人里離れた所でひっそりと暮らし、夫と奇跡的な出会いを果たし結婚。
夫には先立たれたが五人の子供にも恵まれ、女として母として幸せな余生を過ごした。
だから、後悔は、、、ない。

あとは、、、地獄に行き裁きを受けるだけ。

どうか、願わくば私の事は忘れてほしい。



ルシア=ランドルフ=ヴェンバッハ。

享年98歳。

彼女の血と業にまみれた人生は幕を閉じた、、、。


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