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高杉にはいつも女がいる。
それはもう昔から、常にそうだったので仕方なかった。
節操が無いと愚痴る桂に「アイツも若いんだから」「まあ俺は嫌いだけど」と助け船を出したこともある。

そして俺が素直に「好き」と言えないのも昔から。
それなりに隠してきたつもりだったが、周りからは態度でバレバレだと呆れられたのが懐かしい。
今となっては若干黒歴史である。

しかし歳をとって、環境が変わって、考え方が変わってしまった。
いつも一緒に過ごして側にいれたのに、今はできない。
隣でそれとなく高杉を見張ることができたのに、今はどこで何をしてるのかさえわからない。
アイツに女がいる、という噂を小耳に挟んでも確かめることさえできない。
このもどかしさに苛々する。




(コイツの全ては…俺が知ってるのに、)

そこで思ったのだ。
“幼なじみ”の“腐れ縁”でも、月日が経てば距離が遠くなる。
だから吉原に出向いているという噂を聞きだし、前もって用意していた部屋に男を誘き出したのだ。

腐れ縁だけじゃなく、他の何かで高杉と繋がっていたい、と。




「…まだ、気が済まねェか。」

「っ…んだよ。
初めてにしちゃ上出来だろ?」

再び硬くなり始めた性器に満足した銀時は口を離す。
そして不慣れな手つきでズボンと下着だけを脱ぎ、そのまま高杉の上に跨がった。




「ぁ………。」

自分と高杉の間に天を向く性器。
それを見ただけで下腹部がジンジンと熱を帯びていく。
だが高杉は、焦る銀時に鋭い視線を向けていた。




「高…杉…、」

「…本気かテメェ。」

獲物を狙うような、と同時に諌めるような低い声に、銀時はブルリと体を震わす。
だが銀時はニヤリと笑うだけで何も返さなかった。

歪んでるのはわかってる。
狂ってるのもわかってる。
自暴自棄で鳴るクラクション。
しかし結ばれてない奴を奪っちゃいけないなんて常識は、俺にはない。




(ヤな女…だな……)

飲み干したその苦みが罪みたいに沁みていくから。
まだ俺は、




「不器用な、ままだ。」

銀時は高杉の頬を愛おしむように撫でる。
するとその手を取られ、仕舞いには布団に押し倒されてしまった。

ふわりと体を包み込む布団。
見上げれば、乱された着物から男らしい胸板が視界に入って目のやり場に困った。
押し倒されて自分が受け手になった状況に、心臓がドキドキと高鳴っていく。




「たか…。」

「言ってみろ。」

「え?」

「俺の、何が気に食わないのか言ってみろ。」

予想外の言葉をかけられた銀時は目をパチクリとさせる。
しかし高杉は真剣らしく、銀時に冷たい視線を向けてきた。




「気に食わないって…?」

「とぼけんな。
俺に不満があるからこんな事してんだろうが。」

何年の付き合いだと思ってる。
テメェは隠し事なんざできねェ馬鹿だと自覚しろ。

そう言って、高杉が銀時の頬を撫でる。
言葉とは裏腹にその手は優しく銀時の顔を包み込んだ。
その体温をじんわりと感じながら、銀時は考える。
高杉に対しての不満、それは…。




「俺を…見ないこと、かな。」

頬を撫でるこの体温も、
苦くて熱いあの精液も、
昔から鋭いその視線も、
全てが欲しくてたまらなかった。




(なのにお前は、俺を見ない)

いや、見えてはいるが女として見てもらえない。
悪友として一緒にいた時間が長すぎて、進歩できずそのまま他の女に盗られ続けた。
よくある話である。

銀時は寂しそうな笑みを浮かべて高杉を見上げた。
すると、そこには少し困ったような顔をしている高杉がいる。




「銀時…。」

「でも違った。」

「………………。」

「高杉は、何も悪くない。」

「…………………。」

「他の女に盗られて、嫉妬して、体だけでもって思ったのは俺。」

全部、俺が悪いんだ。




「素直になってれば…結果はどうであれこんなことには、」

銀時はそこまで言って口を閉じる。
いや、フラれてたら最悪セフレでも良いからってすがりついてたかもしれない。

そんな己の欲にため息を吐きながら、銀時は高杉の手に自分の手を重ねる。
この温もりと感触が欲しい。
ただ、それだけだったのに。





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