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それから一眠りした後。
気付けば翌日の昼だったが、昨夜から降り続く雨のせいで時間がわからなくなっていた。
これだけ薄暗ければ道中に出ても気付かれないだろう。
しかし万事屋を出ていこうとすれば銀時が寂しそうな顔をしたので、もう少しだけ滞在することにした。
そこら辺は俺の匙加減だ。




(甘いな…俺も)

甘味好きな奴と付き合えば少なからず影響は受けるらしい。
自分の味覚ではなく脳内が。

そんな自分に呆れている高杉が手にしているのは、雑誌。
タイトルは『マンネリに悩まされない愛されSEX』
寝室の襖を開け、着替えやガラクタの隙間、ほこりをかぶった布の下にそれはある。
情事後の布団を新しくしようと万事屋の押し入れを探ったら、偶然見つけたものだった。




「愛される、か。」

素直じゃない銀時はなかなかその本性を見せない。
が、この隠された雑誌や漫画を見る限りはどえらいロマンチストだとわかる。

漫画の内容は幼なじみや同級生が大恋愛の末にヤっているハッピーエンドの王道ネタ。
そして雑誌は『夫婦の営みについて』『愛されるにはどうしたらいいか』『やみつきになるSEXの仕方』の特集ばかり。
どちらにせよ、今の状況に悩みでもあるらしい。




(……………で、)

何でこんなに俺が後ろめたくなるんだ。




「ったく…何が『不倫されない為の対応』だ。」

まるで俺が不倫や浮気をする前提みたいじゃねぇか。
何でそこに折り目を付けるんだあの馬鹿。
どんだけ信用ねェんだ。
しかも『時間を空けてお互いに自分の時間を作るのも大事だが、空きすぎると逆効果。でも夫だけを責めてはいけない』って、これを書いた奴を問いただしてやりたい。
痛ェとこをズケズケ突きやがって。
確かに会いたい時に会えないのはあるが、それにしたって俺が余所に走るか。
あいつはそんなことを心配してんのか。

色々と考えては頭が痛くなる。
高杉はお得意の煙管を出し、これ以上は考えないようにした。
そしてパラパラと軽く内容に目を通して元の場所に戻した。




「……………。」

高杉は後ろを振り向き、爆睡している銀時を見つめた。
あれだけ喘げば、昼間まで意気消沈になるのはわかっていた。
性交終わりに交わした口付けが、己の体液を根本から奪っていく感触。
銀時との性交は常に命懸けのようだった。




「…あほ面。」

小声で囁きながら苦笑い。
枕に頭をすり付けて眠る銀時を見つめ、自然と頬に触れた。

何かに甘えたいのだろう。
高杉は枕を取り去り、自分の胸板を貸す。
これにはさずかの爆睡でも気付いたのか、銀時がぎゅうっと抱き付いてきた。
指で髪を梳いては銀時が気持ち良さそうにすり寄ってくる。
性交直後の余韻を、まだ味わっているかのようだった。




「……………。」

「…んなに引っ付かなくとも、まだ帰らねェよ。」

「……………。」

「ゆっくり眠れ、銀時。」

伝わったのか伝わってないのか、銀時はふにゃりと笑った。
気がした。
顔は見えなくても、空気感でなんとなくわかる。




(と言っても、夜までだがなァ…)

煙を吐き、煙管を置く。
銀時が寝てようが起きようが、この時間は夜までしかない。
別れ際に寂しい思いをさせないためにはどうしたものかと考え、ひたすら甘やかすしかないと結論付けた。

起きたらまずどうしようか。
甘味だの飯だの言う前に、逃げられないよう抱き締めて愛の告白でもするか。
言い訳したら口付ければいいし、我慢できなくなれば情事に至ればいい。
そして次の約束も取り付ければ完璧だ。




「どこまでも甘くなったもんだなァ…。」

俺も、お前も。
そう呟くと、高杉も目を閉じて眠りについた。




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