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(ったく、寝顔だけは純粋なくせして)

昔から不良に目を付けられることはあったが、まさか不良を拗らせた大人に、更には見た目からして危険すぎる野郎に迫られるとは思ってなかった。
第一印象は、はっきり言ってヤのつく人。
人生とは何があるかわからないもんだなぁと、野郎もとい高杉に初めて抱かれたのが懐かしい。

法律的にアウトすぎる関係でも、見逃してくれるのがこの薄汚れた街。
治安が悪くても各々が自由にやっていける場所。
高杉に教わりながらここまでやってこれたのだから、更に変な感情も芽生えるってわけで。




「……………。」

「……………。」

ホテルから見える夜景がキラキラと光る。
ここにはどんな輩が泊まりに来るんだろうなと考えながら、抱き枕越しに眠る高杉の横顔を見ていた。




(これで終われねぇ…)

このまま寝て朝まで過ごすのも悪くない。
しかし問題は高杉が起きたら何て言い訳をすればいいか、である。
単純に「寒かった」なんて言ってもコイツは「そうかい」と返してニヤニヤしてるだけだ。
だって本心がバレるから。
なら言い訳を考えたって意味なくね?とツッコミが入るが、だからって最初から素直になれるほど俺は純粋じゃないんで。
とりあえず何かしら言ってコイツがニヤニヤしやがったら全身全霊の一蹴りをかませばいい。
本当、可愛くねーなぁ俺。




「………………。」

そうこうしているうちに、高杉が寝返りを打って背中を向けてしまった。
銀時は抱き枕の向こう側にある高杉の背中を見る。
背中と言っても高杉が羽織っているバスローブが見えるだけで、特に何も無いが銀時はジッと見つめる。

呼吸をするたびにゆっくりと動く背中。
銀時はその背中に手を伸ばし、そっと触れてみた。
手のひらからじんわりと伝わる熱や鼓動。
だが高杉に気付いてもらえないのが悔しいのか、銀時は少し爪を立ててみた。
こんな弱い力でバスローブの上から爪を立てても痕なんて残らない、それでも銀時はやめなかった。
わしゃわしゃと布を引っ掻く指の感触が伝わる。




「………なぁ高杉。」

「……………。」

「ちょっとだけ、起きてくんない?」

「……………。」

「いや…一瞬でいいから、さ。
抱き枕、案外良いから貸してやるよ。」

「……………。」

「……………。」

一緒に寝たい、構ってくれ。
その言葉が出ず、銀時はああだこうだと誘ってみる。
が、高杉は起きない。
いや、相手にしてくれないと言った方が正しい。




(可愛くねーの…)

俺もお前も。
やはりこれは俺が折れるべきなのだろう。




「………………。」

「…………しんすけ。」

「………………。」

何も返事はない。
銀時はそのまま抱き枕を後ろに追いやり、高杉との壁を無くした。
そして男らしい大きな背中に体を寄せる。

まるで見送りを名残惜しむ女のように。
背中に手を置いてそっと顔を寄せた。
静かな部屋に聞こえる高杉の呼吸、そして鼓動。
それらを感じていたら、本当に眠くなってきた。




(気づかねぇのかよ…)

せっかく人がここまで素直になったってのに。
これでも結構がんばった方なんだぞ。

そう思って銀時が目を閉じると、高杉の体がもぞりと動いた。
しかし銀時は眠気のあまり目を開けることができず、高杉の行動は見れなかった。
が、こちらを向いてくれたのはわかる。




「ン……。」

「……………。」

唇にふにゃりとした感触。
そして柔らかいものは啄むように何度も触れてきた。
次第に体が火照り始めた銀時は、ゆっくりと目を開けて状況を確認する。




(…やっと、)

高杉がこっちをむいてくれた。
それだけで胸の何かがトクンと反応する。
以前教わったが、これを世間では恋というらしい。
頭がぽーっとして息が詰まり、体や顔がぽかぽかとあったかくなる感触、それがやめられないから、恋愛とは厄介なんだと身をもって教わったのだ。

今だってそう。
暫く見つめ合ったまま唇を重ねていると、高杉の舌が銀時の唇を舐めた。
それに促されるように銀時は舌先を出し、全てを高杉に任せる。
舌を絡ませる感触に、高杉のにおい、何も考えられなくなったら、底無し沼のように溺れていくだけ。




「んン……。」

「…さっきから煩ェな。」

「はぁ……ぁ…、」

「お前が俺の快眠を妨げてどうすんだ。」

「ふふ…じゃあ何?
俺よりもコレと寝てぇってこと?」

後ろに追いやった抱き枕を前に出して、銀時は高杉に訴える。
こいつと俺どっちが大事なんだよと、一昔前のドラマのように、修羅場を煽るような感じで。
まぁ修羅場の相手は抱き枕だが、そこは割愛。

無茶苦茶な話を持ちかけられた高杉は、愉快そうに低い声で笑い、銀時の頭を撫でる。
銀時の暗に意味した言い分を理解しながら、どうしてやろうかと考えているらしい。




「お前のそのツンツンさも、大人になりゃ消えるのかもなァ。」

「何の話だよ。」

「素朴って話だ。
例え俺がいなくなっても、らしくあればお前は生きていける。」

「……………。」

「今のその感情を忘れんなよ。」

高杉は銀時の頬に手を当て、見つめる。
高杉の目が写すのは、不安か何かか。
話の趣旨は掴めないが、どうやらこの疲れ顔に何か理由があるらしい。




(高杉がいなくなっても、か)

高杉が何をしてるのかは知らない。
高杉の悩みが何なのかも知らない。
だけど俺が生きられる術を教えてくれたのが高杉なら、俺は高杉に付いていくだけ。

銀時は抱き枕を巻き込みながら高杉に抱きつき、離れないようにした。




「銀時、」

「…俺が高杉を越えるぐらい強くなれば、離れなくて良いんだろ。」

「……………。」

「高杉の側にいていいのは…俺とコイツ、どっちなんだよ。」

お前は勝手に拾って勝手に教えて勝手に惚れさせておいて、更には勝手にいなくなるのか。
胸の内に秘めていた想いを口にした銀時に対し、高杉は困ったように笑う。
そして銀時の髪を指で梳いては、くるくると巻いて遊んだ。
これは俺が好きなやつ。
抱き枕にはできないやつだ。
男から受ける愛撫も性交も、その後にくる甘く疼く感情も、高杉から教わったのだ。
今さら離れるなんてできない。




「…困ったな、勘の鋭さは女以上だ。」

「俺が抱き枕ごときで引き下がると思ってんの?」

「試したかったんだよ。
街中で必死に生きようとしてたお前を、どこまで成長させられるかってな。」

「成長?」

「そうだ。」

かつての俺がそうだったように、と高杉は言葉を濁す。
そして高杉も銀時と同じ境遇だったこと、偶然出会った師によって色々教わったこと、おかげでここまで生きてこれたこと、そして縁あって銀時と出会えたことなど。
ぽつりぽつりと出てくる高杉の話に、銀時は耳を傾けた。




「まぁ男相手に発情しちまったのは俺の勝手だったがな。」

「こんなガキにそんなに色気あった?」

「何も知らねぇって初々しさだろうよ。
初夜ん時は援交の親父になった気分だったなァ…。」

「へぇ。」

「そして俺の先生は突然消えちまった。
ある程度の成長を見届けたって事だろ。」

「……………。」

「そっからは先生の縁によって生きてこれた。
そしてお前に会えたんだ。」

「……………。」

「お前がこの世で生きていけるよう、俺なりに教えてきたつもりだったが…まさか手を出しちまうとはな。」

「センセー失格ってこと?」

「まぁな。
俺は、こっちが良いのさ。」

高杉は抱き枕を隣のベッドへ放り投げ、銀時を抱き締めた。
これが高杉の本音。
だとしたら、これで恋愛が成就したってことになるらしい。




(あー…良かった)

俺から告白しなくて済んだし。
何より俺の恋愛が無事に成就して良かった。
もし俺の想いを断られたら心中してやると物騒なことも考えていたけど、何はともあれ未来は明るいってね。

銀時は高杉の背中に手をまわし、高杉の答えを受け止める。
安心したのか、高杉の体から力が抜けた。




「高杉…。」

「名前で呼べよ、銀時。」

「……………。」

高杉が甘えてくるので、今更ながら高杉との関係に恥ずかしくなってくる。
そうだ、成就したってことは、つまり、公認で両思いってことか。
はずかし。

銀時は高杉の胸板に顔を埋めながら口をモゴモゴとさせる。
それには高杉も体を離して聞こうとするので、銀時は仕方なく「しんすけ」と一言添えた。




(アブナイ大人だってのに…)

これからは、この呼び方が当たり前になる。
街で浮かれた連中みたく、リア充になれる。
って、そんな事を思うようになったのは、全てしんすけの教育方針ってやつかもな。
はずかし。




「良いもんだなァ…好いた奴をいじめんのは。」

「いじめすぎっと嫌われるかんな。」

「ならそれ以上に惚れさせてやりゃ良いってことだ。」

「キザ男め。」

「わかりきったことを言うなよ。」

高杉は銀時の頭を撫でて、再び抱き締めた。
これは寝るという合図。
なので銀時も静かに目を閉じ、言葉も何もいらないような恋人らしい静かな夜を過ごした。




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