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※狐と高杉さんの話




いつぞやに助けていただいた狐です。
恩を返そうと探し回っててようやく見つけられました。
ですがそうこうしてる間に年を取り、病により余命が短いので、少しでも側にいてお世話をしたい。
ただ狐の姿だと不便なため、貴方様の親しい方に化けて隣にいましょう。
どうか、どうか宜しくお願い致します。





愛しい人へ






という、前代未聞の尋ね人が現れた数日前。
その時は即襖を閉じて狐と名乗るモノを視界から消したが、すぐに襖は開かれ、更にはワーワーと泣きつかれたと同時に倒れてきやがった。
なので仕方なく、本当に仕方なく、介抱しながら言い分を聞くことにしたのだ。
なお、仕方ないと思うまでに数日かかっている。
それぐらいおかしな話だった。




(これも日頃の行いか…)

確かに己の中の獣がと常日頃言っているが、それにしたってこの展開はないだろう。
獣というのは人間の内にある激情を比喩しただけで、目の前に獣が現れる事ではない。
ましてやその獣に好かれるためではない。
が、今はそんな訂正をしている場合ではない。




「…確認のために聞くが。」

「はい。」

「誰だお前。」

「狐です。」

「助けた覚えは無ぇが、いつの話だ。」

「えっと、10年くらい前…。」

「名前は。」

「ありません。」

「目的は何だ。」

「恩返しをしに来ました。」

「……………。」

「……………。」

「………………………………。」

「……………あの、」

「まず直してもらいてぇ事がある。」

「はい。」

「そのナリで敬語はやめろ。」

高杉は布団で寝ているモノに対し、殺気を隠さず淡々と事情聴取を行う。
一方、狐と名乗るモノは、そんな高杉を余所に淡々と答えていた。
嘘を言っているようには聞こえないが、狐を助けた覚えはない。
それも本人曰く、10年も前の話。
話のぶっ飛びようといい、怪しすぎてどこから聞けば良いのかわからなくなってきたが、それ以上に視覚的な大問題が1つ。




「よりにもよって…、」

何であの天パに化けてやがる。

銀髪のうねり具合、顔の成り立ち、声の質感。
全てが銀時そっくりなのだから頭が痛い。
そしてソイツの頭からは獣の耳が出ているため、本当に頭が痛い。
本人曰く「体力が消耗してて耳まで隠せなかった」「引っ込めてもいいけどそれだと混乱すると思って出したままにしてる」と言っていたが、何も解決できてない。
銀時の姿で丁寧な敬語は非常に非常に気色悪く、高杉の頭痛はひどくなるばかり。
そのため、口調も銀時を真似るようにと訂正した。




「でも恩人に対して…。」

「頼むから、まずそこを直してくれ。」

困ったそぶりを見せながら、獣耳が垂れる。
まず獣の耳は本物かもしれないと確認できたため、ひとまずコイツは狐なんだと理解した。
というより自己暗示で理解させた。

高杉が隠れ家として利用している古民家。
そこに突如として現れた狐と名乗るモノ。
顔立ちは銀時なのに獣の耳が生えていたため、対面時はついに人間をやめたのかと思考が停止してしまった。
が、事の真相は狐の恩返し的な話らしい。
この狐の話を全て信じるのであれば、自分に害は無い、はずである。




「はぁ……。」

これも人生なのか。
何が起こるかわからないが、現に獣に好かれてどえらいことになっている。
夢であれば嬉しかったが、寝ても覚めても変わらず狐はいたため、これが現実なのかと高杉の頭痛は平行線。
これはどうしたものかと高杉は深呼吸を繰り返し、冷静に考えられるようになった時。
何故か不思議と好奇心が芽生えたのだ。
これが運命ならば、吉と出るか凶と出るか、経過を見るのも面白いと。




「…ちょっとばかし吸っても良いか。」

「あ、はい……っじゃなくて、いいよ。」

敬語を訂正しながらも許可は下りたので、高杉は煙をくゆらす。
1つ2つと煙を吐いたのち、思考を巡らせて今後の対応を検討する。
現時点では敵でも味方でも無いため、即決は難しい。
ならば、しばらく様子見でこのおかしな話に乗っかってみようと割りきった。
本物の銀時とはしばらく疎遠になってしまうかもしれないが、仕方ない。
病人が優先だ。




「…………俺はお前を『ギントキ』と呼ぶ。」

「え、」

「代わりに、お前は俺を『晋助』と呼べ。」

「しんすけ…?」

「世話をしに来たと言うならば、ここに住めば良い。
俺がいつ此処に来るかはわからねぇがな。」

「……………。」

「狐の話は不明だが、せいぜい働けよ。」

ポンポンと頭を撫でつつ、ぴょこっと出ている耳に触れる。
感触も、間違いなく獣の耳。
ここまできたら狐の恩返し説を信じてみようと、自分に言い聞かせながら高杉は納得する。
一方の狐、もといギントキは、高杉の名前を静かに口ずさみ、そしてにんまりと笑った。




「晋助が、いつでも帰ってこれるようにしておくね。」

「おう、そりゃ楽しみだな。」





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