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そこから始まった共同生活。
ギントキは具合が悪いと言いつつも、日中は掃除に洗濯、料理など家政婦のごとく動いていた。
相変わらず、銀時の姿で。

一日様子を見ていたが、特に問題は無い。
ただ食い意地はあるため、狐らしく「油揚げをくれ」と言われた時は、現実を思い知らされた。
やはりコイツはギントキであって銀時ではないと。




「お互いに酔狂なこった。」

クツクツと笑いながら、高杉はギントキが用意した料理を口に運ぶ。
あれから一週間。
間を空けながらも帰ってくれば、ギントキが決まって迎えに来る。
幼い頃に見た銀時の笑顔で「晋助」「晋助」と呼ばれるのは悪くない。
本物の銀時ならあり得ない事だからだ。




「でね、今日は掃除もすぐに終わったからたっぷり買い物をしてきたわけ。」

「随分とこの地域に慣れ親しんだもんだ。」

「そりゃ俺の器量だから!」

「外に出る時は何に化けてんだ。」

「えっとね、適当に見つけた近所のお姉さんとか?」

「お前…その辺の人間に化けるとかもう少し考えたらどうだ。
バレても知らねぇぞ。」

「そんなヘマはしません〜。
俺はこう見えて長老級のハイレア狐だし!」

「そうかい。」

「今日は野菜もおまけしてくれたし、っていうその野菜がこの煮物ね。」

「ほう、」

「あと果物に醤油に…あ、近所の子供に折り紙も貰った!」

「折り紙か。」

「人間ってこれで遊べるんでしょ?
俺は折り方がわからないから、いっつもぐちゃぐちゃになっちまうんだよね。」

「貸してみろ。」

高杉は折り紙を1枚手に取り、ゆっくりと指を滑らせて折っていく。
こういう細かい作業で発揮される高杉の几帳面さ。
山折り谷折りはズレることなく丁寧に折り、完成されたのは綺麗な折り鶴。
それをギントキに渡した。




「何これ、鳥?」

「鶴だ鶴。
折り方ぐらい教えてやるから覚えてみろ。」

そう言って高杉はもう1枚手に取り、ギントキに見せるように折っていった。
こんな風に折り鶴を作るなんて、久しくやってない。
それでも折り方を覚えていたのは、幼い頃に適当ながらも数を作っていたからだろう。
あのときも天パと競い合っていた。

良い年してから折り紙をやるのも可笑しいが、目の前でじーっと見てくるギントキを見ると悪くはない。
きっと先生もこんな感じだったのかと、変な情がでてきた。




「晋助って器用なんだね。」

「もっと褒めたら厚揚げでも買ってきてやる。」

「やだー!
良い男!口説き上手!女たらし!絶倫!種馬!」

「…人間界じゃ、後半の文言はあまり褒められた意味じゃねぇからな。
変な言葉を覚えんなよ。」

「はーい。」

ギントキはニコニコしながらも返事をする。
幼い頃の銀時と面影が被り、更に変な情が出てきた。
下手に漬け込んで魂を取られたらどうすんだと、高杉は自分に言い聞かせる。




(その時は、本物の銀時に殺されるかもな)

それもまた一興、かもしれねぇ。





















ギントキを雇って一ヶ月。
最初こそ元気に家事をやっていたかと思えば、最近は思うように体が動かないらしい。
熱っぽい、怠いと言っては休み、回復したと思ったら数日後にはまた熱が戻ってくる。

病とは本当のようで、本人曰く治す手立てはないとのこと。
ただただ休むことが回復に繋がるんだとギントキは言い、苦しそうにしながらも寝ることが多くなっていった。




「……………。」

そしてこの日も。
高杉を迎えて料理、後片付けを終えた後、ギントキは布団に入って寝た。
5日だったのが4日、3日と、熱が出る間隔が早くなっている。
高杉は煙管をしまい、ギントキの近くに腰を下ろした。




(わかっちゃいるが…)

本性は狐(仮)とわかっている。
わかっているが、銀時の姿で苦しまれると、どうにも居心地が悪い。
下手に外出ができなくなる。

高杉はフゥと溜め息を吐いてギントキを見守る。
そんなに苦しいなら化ける必要は無いだろと言っても、「人間の姿の方が便利だから」と聞かないのだ。
ついでに、何故銀時に化けているのかと尋ねると「この人と喋ってる時の晋助が嬉しそうだから」と返ってきた。




「執念深く俺を追ってたとはな…。」

高杉を探しながら、周囲との関係も洗っていたらしい。
そんな中、度々銀時に会っていることを知り、特徴を捉えて化けたとのこと。
まさか銀時とのやり取りを第三者に見られていたとは、それもこんな形で現れるとは。
人生、何が起きるかわかったもんじゃない。




「ん………。」

「…………。」

「ぁ……晋助…。」

「…………………。」

薄く目を開けて確認した後、ギントキはふにゃりと笑う。
高杉は自然と手を伸ばしたが、その手は頬ではなく頭を撫でてなんとか理性を保った。
いつものノリならば、軽く口付けてそのまましけこむぐらいの勢いなのだが、さすがに節度を守って対応する。
病人であるし、こいつは銀時ではない。
そう言い聞かせて。




「晋助…。」

「何だ。」

「もう、あんまり体が動かないんだけど…。」

「……………。」

「ここにいても、いい?」

例え働けなくなっても、ここにいたい。
ここを終いの住処にしたいとギントキの目が訴える。
高杉はギントキの横に寝転がり、ピョコピョコと動く耳に手を添えた。




「好きにすれば良い。」

「……………。」

「お前にやったんだ。
ここにいたいなら、そうしろ。」

「……………。」

「体が動かなけりゃ、折り鶴の練習でも何でもやれ。
自由に生きてこそ俺の知る銀時になる。」

だから今は静かに寝ろよと、ギントキの頭を撫でて落ち着かせた。
それにギントキはフフと笑って目を閉じた。
おそらく死期が近いことを悟っての確認だろう。
だが終わりが見えたとしても、いつも通りに生きるのが高杉の中の銀時なのだ。
本物の銀時は、そんなことで翻弄されるような器ではない。




(まぁ俺の勝手な解釈だがな…)

他人にそれを押し付けるのも良くはないが、コイツがそれを望んだ。
であれば、俺は最後まで見届けるべきなのだ。




「今はお前がいる…。」

ただそれだけ。
それで良い。





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