1/4






※沖田♀注意






土方さん、土方さん。
温泉旅行に行きやせんか?

きっかけはその一言だった。












「あーあぁーあー。」

「おい、口閉じろよ。」

「いやーけっこう効きやすぜー。」

「ったく、まだ若いってのにてめぇは。」

そう言いながら土方は沖田の頭を撫でる。
一方の沖田はマッサージチェアでのんびりとくつろいでいた。
しかしずっとこの状態が続いているので、そろそろ我慢できなくなった土方はマッサージチェアの電源を切った。




「なんでィ人がせっかく気持ち良く、」

「そう言って10分経ってんだろ。」

「ケチ〜。」

頬を膨らませて駄々をこねる沖田だが、何だかんだで重い腰を上げた。
そしてパタパタと風呂場の出入り口の暖簾をくぐって出たので、土方も後に続く。




(まさかコイツと温泉旅行とは、)

始まりは沖田の言葉。
「疲れたから温泉連れてけ土方コノヤロー」だった。
土方からすれば勝手に一人で行ってこい、の返事で済むはずだった。
が、そこは沖田総悟。

「女を一人で外に出すんですか」「女に金を払わせるんですか」「アンタ本当に男ですか」「人でなし」なんて無茶苦茶な理由を付けられ、部下や隊長、さらには我らが局長も味方につかれてしまっては頭が上がらない。
そして後は想像通り。
旅行話は沖田がほぼ独断でパッパと手際よく決めて、あとはお互いのシフトを見計らって、今に至る。




「おい、どこに行くんだよ。」

「まだ遊び足りないんでィ。
男なら最後まで付き合え土方ァ。」

大きな旅館の敷地内。
様々な種類の銭湯や土産売り場があって退屈はしない。
沖田もそれが楽しいのか、浴衣で歩き回っていた。

それには土方もやれやれと思いながらも付き合う。
ここまで来たのなら俺もゆっくり休むと腹を括ったのだ。




(そのためには…)

コイツを遊ばせて遊ばせて遊ばせて先に寝かせる。
そこからが俺の時間だ。

すると、そうこうしているうちに沖田があっちへフラフラこっちへフラフラと、いつもの気分屋が出る。
離ればなれになって迷子のお呼びだし、なんて面倒なことはしたくないので、土方は沖田を呼んだ。




「おい。」

「何ですか?」

「あんまり走ると迷子になるぞ。」

そっと手を差し伸べる。
すると何の迷いもなく沖田はその手を握って土方を引っ張り始めた。

ご丁寧に指まで絡ませてくるところを見ると、今はすこぶる上機嫌らしい。
不機嫌の時は爪を立ててくるからだ。
第三者から見れば恋人だと思われるだろう、しかし土方と沖田はそんな可愛い関係ではない。




「それで、次はどこだ。」

「あそこの土産屋。
皆に土産でも買わないと帰れませんぜ。」

「土産ね…。」

「呆れました?」

「いや、どうせ皆のって言っておきながら自分のを買うだろ。」

「ぴーんぽーん。」

「正解かよ。」

沖田は呆れる土方をそっちのけで遠慮なく引っ張り回す。
昔からずっとこう。
傍にいるだけで安心するから、ずっと手も繋いできたし、一緒に寝たりした。
周りから指摘されても今更って感じで、特に進展も何もない。
沖田がそれでいいなら土方も良いと思っていたのだ。




(慣れすぎたな…)

最近では沖田が隣にいないとよく眠れない。
お互いの仕事の都合上、会えないことも多々あるのだが、最近は特に会えていない。
今日だって旅行話が決まってから半月ぶりぐらいの再会だった。

握った手が優しく絡む。
それだけで眠れそうだった。




「土方さん。」

「あ?」

「疲れました?」

「何でだ。」

「目が疲れたって言ってますぜ 。」

下から顔を覗き込んでくる沖田の目は、大丈夫ですかと心配そうだった。
そんなに疲れていたのか。
いや、違う。




「心配すんな。
風呂入って少し眠くなっただけだ。」

空いた手で沖田の頭を撫でる。
まさかお前と会ってため込んできた疲れが出てきた、なんて言えない。
弱みが出た、なんて絶対認めるものか。






[*前へ] [次へ#]



戻る

←top