Select『傷つけられるもんならやってみろ』






以前のようなパステルカラーではなく、夕暮れのようなオレンジや赤色の世界。
こんなに色がはっきりしてるのは初めて見た。

そう思いながら、沖田は遊園地の中を歩いて知った顔を見つける。




「あ、」

『おう。』

沖田は一瞬だけ立ち止まり、そしてゆっくりと土方の元へと歩いていく。
その度に胸の痛みが増していく。
夕暮れの色も、どこか濃い色に変わっていった。




『浮かない顔だな。』

「そりゃそうでしょう。」

『別れ話を切り出して、傷つけるつもりが傷ついたのか。』

「…………………。」

夢の中の土方は、何も言わなくてもわかっている。
確信を突かれた沖田は、土方に近寄って抱きついた。
相変わらず、タバコのにおいはしない。




(俺が欲しいのはこれじゃない…)

理想の土方さんは確かに王子さまだった。
でも欲しいのは違う。
無駄に真面目でヤニ臭い、そんな土方さんを望んだのに。
俺は。
俺は………、




「好きだったんですから…。」

土方さんのことが。
心を傷つけられるぐらい、ふかく。




「………………。」

『そうか。』

「………………。」

『それで、どうなったんだ。』

「…ひとまず、あんたと同じ提案をしてみました。」

『提案?』

「一回寝て、起きても気持ちが変わらなければ俺は出ていくって。」

『なるほど。』

「しかもこんなタイミングで、狙ってきたかのように同級生に告られましたし。」

『マジか。』

「地味で目立たない奴なんですけどね。
でも優しいんです。」

『……………。』

「その優しさも、今の俺には毒でしかないですよ。」

『毒?』

「すがり付きたくなる。
また俺が俺でなくなる。」

『………………。』

「でもガキの俺にはそれで良いかなって思えてきました。」

大人のような色濃い恋愛は早かった。
もっと気軽に、もっと楽な方を取りたい。
もっと、少女漫画のような。




「俺には、年相応のノリがお誂え向きって事です。」

沖田は土方の体をぎゅっと強く抱き締め、愛しさと悔しさとで乱れた心を整える。
そのとき、土方の手が沖田の背中を擦った。

この世界は良い。
本当なら大泣きするところなのに、悲しみを消して心の安定を取り戻そうとする。
タバコのにおいがしない土方も、現実を思い出させないようにするため。
本当に、俺を庇おうとする都合の良い世界。




「だけど忘れませんから。」

『?』

「俺に対してのこの仕打ち。
いずれ俺が大人になったら見返してやりますぜ。」

年相応から大人の色恋まで、多方面に経験を詰んだ後。
土方を見返して「女王様」と言わせてやる。




『心は治りつつあるのか。』

「おかげさまで。
今はあんたへの怒りで元気になりました。」

『なら安心だな。』

クスクスと笑う土方につられ、沖田も笑う。
そしてこの世界でも例の提案をしてみようと思う。
「ひとまず寝よう」と。




『お馴染みのパターンか。』

「そうですね。
次に会う時まで、化粧の仕方も覚えときますよ。」

『そりゃ楽しみだ。』

いつの間にか、遊園地の背景が無くなった夕暮れの世界。
土方と沖田は一緒に寝転がり、寄り添って寝始める。

この世界とはしばらくお別れ。
また会うときは、こんなJKの制服ではなく大人の女になってやる。





「…“土方さん”」

『ん?』

「………………。」

『………………。』

「…今しか言えないと思うので、」

『あぁ。』

「この世界にいてくれて、ありがとうございました…。」

『おう。』









































ーーーーーー―――----




「……………。」

お馴染みのにおいで目が覚めた。
沖田はだるい体を起こし、隣の知った顔を見る。




「……………………………。」

やっぱり、だめだ。




「あ、」

携帯を見れば、告白してきた同級生からの連絡。
当日中に返事をすると言ってまだしてなかった。
いけない。

沖田はポンポンと単語で返事をして、土方と寝ていたベッドから抜け出した。
そして身なりを整え、自分の持ち物を忘れないようバッグに詰める。




(これは、単なる別れ話じゃないですぜ)

あんたを見返すための復讐劇のプロローグ。
あんただけ勝ち逃げなんざ反吐が出る。
最終的な結末はわからないけど、ひとまずスタートラインに立てた。
これで話をどう持っていくかは、俺の選択肢次第。




「土方さん。」

「………………。」

「言っときますが、辛気臭いのは嫌ですぜ。」

「……………。」

「俺はいずれ、一目見ただけで腰砕けになるぐらい、良い女になります。」

「……………。」

「必ず、女王様って言わせて膝を付かせます。」

夢の中のあんたが、王子さまだったように。
俺は、その上を行く。




「それまで、ちゃんと飯食って生きててくださいね。」

身支度を整え、沖田は部屋を出る。
そして外の空気に触れた時、何故か清々しい気持ちになっていた。





(好き、だったんですよ…)

本当に。
でもしばらく修行僧になるから、気持ちに蓋をしないと。
あと家に帰ったら一回大泣きするかな。
だってここは現実の世界だから。

沖田は苦笑いしながらも、ちゃんと前へ進んでいく。
土方の言い分もあるし、沖田の言い分もある。
今回はその間を取って、言葉と選択肢を選び、この展開を決断したのだ。




「今度会ったら、」

ひとまず、マヨネーズを囮に盛大に傷つけてやる。






20,02/14
[*前へ] [次へ#]



戻る

←top