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その日の夜。
沖田がいなくなった分、仕事の穴を埋めるのは大変だったが、今日の公務も無事に終わった。
土方はやれやれと思いながら自室で煙草を吸う。
「…………………。」
あの沖田を腑抜けにする男はどんな奴なのか。
万事屋か。
眼鏡か。
それとも、
(俺も落ちたもんだな)
土方はフーと煙を吐いて灰皿に煙草を擦り付ける。
沖田の失恋が未だに信じられず、鬼の副長ともあろう者が仕事中もずっと気になっていた。
山崎に事情を聞いたり、見回りの際にそれらしき人物を探したり。
あらゆることをしたが、何一つわからない。
だからと言って、本人に聞くのはタブー。
これはまた消化できない問題を抱えてしまった。
そう思っていると、不意に外から足音が聞こえてきた。
「…土方さん。」
「なんだ。」
足音で誰かわかっていた。
なので土方はいつものように返事をした。
すると、遠慮がちに障子が開けられる。
そこからひょっこり顔だけ出してきた。
「土方さん…。」
「どうした。」
「………えっと、」
「寝れねぇのか。」
「……その、あの…。」
「?」
「っ……ちょっと、腕を貸して……くれやせんか。」
「…………………は?」
「あの、腕枕…みたいな。」
沖田の発言に、土方は驚愕する。
腕枕なんてここ数年やっていない。
最後にやったのはまだ真選組が出来上がってない頃、落ち込んだ沖田に腕枕をして寝かしつけた以来だ。
それを今、やれと言っている。
「…とりあえず入れ。」
「あ…はい。」
沖田は恐る恐る部屋に入ると、障子をパタンと閉めた。
そしてシャツ一枚の沖田に、再び土方は驚愕してしまった。
白い服から見える白い脚。
下着はギリギリ隠れているが、すこし屈めば見えてしまうほど短い。
これは目に毒だ。
良い意味で目に毒である。
(おいおいマジか…)
下の息子が反応するなんて、
どんだけ溜まってんだ俺は。
「まぁ…何だ。
腕枕なら他の奴の方が良いだろ。」
「…何でですか。」
「いや…だって、俺の部屋は煙草臭ぇし。」
「んなのわかってやす。」
「近藤さんの腕の方がしっかりしてて寝やすいだろ。」
「俺の記憶が正しければ、寝やすかったのはアンタの腕でさァ。」
「………………。」
遠回しに断っても無駄らしい。
土方は沖田の白い肌を視線から外し、ため息を吐いた。
「…………第一、お前はもう女だろ。」
「………………。」
「俺も男だ。
そんな格好した女がいりゃ、寝かせるどころじゃなくなる。」
わかったんなら早く自分の部屋に戻れ。
そう言おうとした矢先、ふわりと懐かしいにおいが土方を包んだ。
そして同時に感じる体の重み。
その瞬間、土方の脳は完全に止まった。
「…………。」
「土方さん…。」
抱きしめて。
沖田は土方の耳元でそう呟く。
それはどこか甘ったるく、そして寂しい声だった。
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