2/7
















******




その日の夜。
沖田がいなくなった分、仕事の穴を埋めるのは大変だったが、今日の公務も無事に終わった。
土方はやれやれと思いながら自室で煙草を吸う。




「…………………。」

あの沖田を腑抜けにする男はどんな奴なのか。
万事屋か。
眼鏡か。
それとも、




(俺も落ちたもんだな)

土方はフーと煙を吐いて灰皿に煙草を擦り付ける。
沖田の失恋が未だに信じられず、鬼の副長ともあろう者が仕事中もずっと気になっていた。

山崎に事情を聞いたり、見回りの際にそれらしき人物を探したり。
あらゆることをしたが、何一つわからない。
だからと言って、本人に聞くのはタブー。
これはまた消化できない問題を抱えてしまった。
そう思っていると、不意に外から足音が聞こえてきた。




「…土方さん。」

「なんだ。」

足音で誰かわかっていた。
なので土方はいつものように返事をした。
すると、遠慮がちに障子が開けられる。
そこからひょっこり顔だけ出してきた。




「土方さん…。」

「どうした。」

「………えっと、」

「寝れねぇのか。」

「……その、あの…。」

「?」

「っ……ちょっと、腕を貸して……くれやせんか。」

「…………………は?」

「あの、腕枕…みたいな。」

沖田の発言に、土方は驚愕する。
腕枕なんてここ数年やっていない。
最後にやったのはまだ真選組が出来上がってない頃、落ち込んだ沖田に腕枕をして寝かしつけた以来だ。
それを今、やれと言っている。




「…とりあえず入れ。」

「あ…はい。」

沖田は恐る恐る部屋に入ると、障子をパタンと閉めた。
そしてシャツ一枚の沖田に、再び土方は驚愕してしまった。

白い服から見える白い脚。
下着はギリギリ隠れているが、すこし屈めば見えてしまうほど短い。
これは目に毒だ。
良い意味で目に毒である。




(おいおいマジか…)

下の息子が反応するなんて、
どんだけ溜まってんだ俺は。




「まぁ…何だ。
腕枕なら他の奴の方が良いだろ。」

「…何でですか。」

「いや…だって、俺の部屋は煙草臭ぇし。」

「んなのわかってやす。」

「近藤さんの腕の方がしっかりしてて寝やすいだろ。」

「俺の記憶が正しければ、寝やすかったのはアンタの腕でさァ。」

「………………。」

遠回しに断っても無駄らしい。
土方は沖田の白い肌を視線から外し、ため息を吐いた。




「…………第一、お前はもう女だろ。」

「………………。」

「俺も男だ。
そんな格好した女がいりゃ、寝かせるどころじゃなくなる。」

わかったんなら早く自分の部屋に戻れ。
そう言おうとした矢先、ふわりと懐かしいにおいが土方を包んだ。

そして同時に感じる体の重み。
その瞬間、土方の脳は完全に止まった。




「…………。」

「土方さん…。」

抱きしめて。
沖田は土方の耳元でそう呟く。
それはどこか甘ったるく、そして寂しい声だった。






[*前へ] [次へ#]



戻る

←top