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たまに1人になりたくなる時がある。
そりゃ俺だって考え事をしたり、過去を悔やんでクヨクヨしたりする。
人間だもの。

でも運悪くそれが高杉と一緒にいるときだったりするから、その時はバレないよう洗面所や風呂場に逃げ込む。
ただでさえ時間が限られているのに、こんな負オーラ全開じゃ申し訳ないっていうのと。
あとは縋ってしまったら数日は高杉に頼って離れられなくなる、かもしれないからだ。

それぐらい、自分の中の闇は深い。




(うー……)

暑い。
逃げられない。

がっちりと抱き締められている銀時は、少し複雑だった。
いつもの甘い交わりも終わり、一段落した夜中。
いつものように寝ようとしても、ふと考え事をしてしまったら目が冴えてしまったのだ。
少しだけ1人になりたい。
でも逃げられないし、動こうとすればバレてしまう。




(良いなぁ…すぐ寝れる奴は)

俺もすんなり眠れるようになりてーよ。
ガキの頃は大丈夫だったけど、あれは…そうだ、戦時中の頃から不規則な生活になってそのままここまできてしまった。

悩んだら自分で解決できるまで眠れなくなる。
だが残念なことに、今まで解決できた試しはない。
結局は考えるのに疲れていつの間にか眠っている、というのが当たり前になってきた。
ただすんなり寝たいだけなのに、俺の脳や体は突如現れる負オーラに浸食されてしまうのだ。




「っ……ちょっと、わり。」

こうなったら強行突破だ。
体を起こし、薄く目を開けた高杉に「暑いからまた風呂入ってくる」と告げた。
すると腕はすんなり離れたので、良かったと一安心する。




(やべ、泣くかも)

なんだか色々と限界なのか。
泣いたらすっきりする、のであれば早く泣いて早く寝よう。
その方が効率は良い。

部屋を出て、風呂場に行こうとした。
しかし足は動かず、襖に背を預けてズルズルと座ってしまった。




「……………。」

離れたく、ねーのかな。




「どこまでだよ、本当…。」

俺はコイツに縋ってばかりで、何もできないまま。
高杉にとって役に立つ存在であれば良かったのに。
こんな俺を、高杉はどう思っているんだろう。

ぽつりぽつりと悩みの種が芽吹き始める。
そんな小さな芽たちが何年もかけて大きく育って、枯れることもなく自分の中に生き続けている。
もうこいつらと仲良くしていかないといけねーのかな、なんて思ってたら物音がした。
そしてだるそうな足音の後、眠そうな声で話しかけられる。




「どこまでも、何だ?」

「あれ、聞こえてたの。」

「風呂に行くと言っておきながら腰抜かした奴がいたからなァ。」

「腰抜かしたんじゃねーよ。
座っただけ。」

「俺から逃げたくなるほど、だろ。」

「逃げてねーし。」

「なら何故離れた。」

「ちょっと1人になりたかっただけだよ馬鹿杉。」

「そうやって1歩引くのが俺を煽るんだろうが。
少しは自覚しろ。」

ため息を吐きながら、高杉は銀時と反対側の襖に寄りかかって座った。
襖を挟んでの背中合わせ。
1人になりたいという銀時の願いはそれとなく聞いてくれてるようだ。
横から、ふわりと煙が流れてくる。




「それで…俺を煽ってどうする気だ。」

「少し考えてたんだよ…。」

俺のこととか、お前のこととか…あと色々。
昔からの考え事とか、っていう昔から高杉との付き合いがあったな。
つまり事情をよく知ってるのも高杉なわけで。




(…話しても、いいのか)

煙をくゆらせている、ということはその場に長居するということ。
少しは俺に付き合ってくれるのかも、しれない。




「…あのさ、」

「何だ。」

「話すと長いけど、良い?」

「いちいち確認すんな。
言いてェなら言え、気持ち悪ィ。」

「いやその言い方もどうかと思うけど。」

まぁいいか。
高杉が聞いてくれると言ったし。
独り言にならずに済みそうだ。

相変わらずのやり取りに苦笑いしつつ、銀時は何から話そうか選びながら、ぽつりぽつりと口を開いていった。





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