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それから、どれだけ時間が経ったのかわからない。
まだ朝日は見れていない。
空は暗いままで、今日は曇りなのか、それともまだそんな時間ではないのか。
ぼんやりと外を伺いながらも、銀時はゆっくりと呟いていく。
少しずつ胸の内に秘めていた疑問や悩みを打ち明けていった。
村塾でのこと、攘夷戦争でのこと、そして最近のこと。
最初こそ「子どもたちの成長期に経済力がついていかない」とか「定春が冷たい、反抗期かもしれない」とか。
高杉にとっちゃ凄まじくどうでもいいことから始まり、そこから徐々に心の闇の深部へと辿っていく。
「でさ、俺はその時『俺を抱きてーなら総督様に許可取ってきな』って冗談半分で軽く言ったわけだよ。」
「ほう…。」
「昔どっかの鬼総督が、言い寄られたらそう答えとけってうるさかったからな。」
「昔はえらく反抗期だった馬鹿天パにしちゃよくできたじゃねェか。」
「でもアイツ、次の日の戦の後から見なくなって…。」
「……………。」
「それでさ、
周りの連中に聞いたら、我を失ったように先陣切って突っ込んでったって。」
「で、テメェは何を思った。」
「別にその時は何も思わなかった…ってか思わないようにしてた。
戦場だったし、いなくなった奴よりも今生きてる奴を優先すべきだってヅラにも言われてたし。」
「……………。」
「でもこういう…何だろ。
静かな夜とか?
戦場じゃない今になって、すげー後悔してんだよな…。」
「……ふん。」
「断るにしても…もう少し労ってやった方が良かったんじゃねぇか、とか。」
「あの頃は誰もが精神をやられてたからなァ。
戦じゃそれに順応できねェ奴らから先に死んでいくのはわかってんだろ。」
「そりゃわかってるけど…誰しもお前みたいに割り切れる人間じゃ、」
「ソイツだけじゃねェ。
そんな奴らは他にも何千、何万もいたさ。」
「……でもさぁ、」
「その時、テメェが違うことを言ったり、最悪抱かせたりしてもだ。
もうそこまで墜ちた奴はどれだけ守っても手遅れなんだよ。」
「………………。」
「それはテメェも薄々わかってたはずだろ。」
「…だけど。」
「それに、今のテメェがどんなに悩んでも、それはもう十年も前に救えなかった命だ。
今頃、輪廻転生でどっかしらで生まれ変わってるだろうよ。」
「……………。」
「いや、テメェにそれほど執着されちゃ生まれ変わるのもできねェか。」
「……………。」
「成仏させてやれよ銀時。
それだけ後悔してんならソイツももう恨んでねェさ。」
「…………………………ん。」
小さく頷くと1粒の涙が頬を伝う。
そしてまた、少しだけ身が軽くなった気がした。
「さっきから聞いてりゃ…大半は時が解決する話だな。」
「へーへー。
悪かったな、器用じゃなくて。」
襖の隙間から漂う煙。
それの効果か、何だかんだ高杉には喋れていた。
喋れば喋るほど、考え方が変わってどうでもよくなっていく。
やはり解決するには他人に喋った方がいいのか。
だが俺は天の邪鬼なんでいつも素直に内心は言えない。
それに関しては高杉も理解してるようで、ベラベラ喋る俺に合わせてくれている、らしい。
(あと…なんだろ)
もうだいぶ喋った。
自分の考えや本音も言えているし、高杉もいつものように答えてくれる。
それに安心して次から次へと心の内を話してしまうのだ。
コイツすげーなと思いながら、ふと気が付くと体が横向きになっていた。
襖を背にしていたはずなのに、いつのまにか頬を擦り寄せている。
これでは襖越しから高杉に縋っているようだと恥ずかしくなる一方で、甘やかされたいと思ってしまう。
「…高杉。」
「あ?」
「そっち、行ってもいい?」
「なら酒でも持って来いよ。」
俺をここまで喋らせやがって、と言いつつも声は愉快そうだった。
なので銀時は仕方なく、冷蔵庫に奇跡的に置いてあった市販の日本酒を持っていく。
そして部屋に入れば高杉が一瞬「それかよ」みたいな顔をしやがった。
これだから金持ちは。
「今はこれしかねーの。」
だから我慢しろよと言えば、呆れたような顔をする。
どこまでもムカつく奴だなと思いながら、ぺりぺりと瓶のふたを開けて高杉に差し出した。
それを受け取った高杉は一気に飲んでいく。
それほど喉が渇いていたのか、つかそれ水?と聞きたくなるほど一気である。
どうせなら俺にも分けてほしかったと思いながら座ると、高杉に腕を引っ張られて無理やり抱き締められる。
一瞬、側に置かれた空の瓶がやけに光って見えた。
何事かと顔を上げれば唇が重なった。
(口移しで酒とか…)
なんか卑猥なことをする手前の合図みたいじゃねぇか。
そんな期待をしつつ、少しずつ飲んでいく。
唇の端から酒がこぼれても、口内の酒が無くなっても、唇は離さない。
「んん……。」
「…だいぶ、良い面に戻ってきたなァ。」
ちゅ、と音をたててようやく唇を離す。
そしてそのまま高杉の腕に閉じこめられたので、銀時も素直に甘える。
心の闇が消えた分の穴埋めは、高杉がやってくれると信じていた。
じんわりと温かくなっていく心。
少しだけ眠気も襲ってきた。
「それで…あとは何だ。」
「んー……?」
「どうせあるんだろ。」
「何でバレてんの。」
「そんな顔してるんだぜ。
テメェの大丈夫は大丈夫じゃねェからな。」
「そう……。」
「……………。」
「…話したいけど、ねむい…から。」
また今度にする。
そう告げてまぶたをゆっくりと閉じた。
(あとは…)
お前のことだけ。
それだけ聞けば、もっと楽に、なる、かな。
サラサラと髪を梳く指は丁寧で器用だ。
それにうとうとと、次第に意識が遠のいて身を預けていく。
でもこのまま寝たら、また知らないうちに高杉はどこかに行ってしまうかもしれない。
その不安からか、高杉の手を握って離れないようにした。
高杉もそれに応え、そっと握り返してくれる。
「…この答えが過ちだとしても、テメェの全てぐらい受け止められるさ。」
なァ銀時、と俺を呼ぶ声に安心して、そこで意識は遠退いていった。
全てを許して始めよう
16,08/21 更新
19,10/26 pixiv更新
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