1/2
曇り空だからなのか。
少しだけ空気がひんやりとしていて気持ちがいい。
このにおいは、もうすぐ雨が降るのだろう。
そう思いながら窓の外を眺めていると、部屋の襖が開かれた。
「雨は。」
「降ってねーよ。
窓の外を見てたんなら知ってるだろ。」
あと俺、晴れ男だし。
にっと笑う銀時に、高杉はそうかいと返す。
「ふぁあ〜…。」
「来て早々かよ。」
「仕方ねーじゃん。
春は眠てぇってアレだよアレ。」
「馬鹿の言い訳だな。」
「起きたら覚えてろよ馬鹿杉。」
銀時は大きな欠伸をした後。
畳の上に寝転がって優雅にくつろぐ。
どうやら昼寝の時間らしい。
高杉は呆れながらも銀時の好きなようにさせ、再び窓の外を眺めた。
相変わらず、灰色の雲がゆっくりと動いている。
曇り空は好きだ。
降りそうで降らない、この駆け引きのような感覚。
どこかしらで人間の恋愛と似たようなものがある、ように俺は感じるのだ。
(なんてな)
そんなことを言えば、「ロマンチストめ」「よくもまぁ平然と言えるよな」「鳥肌たつわ〜」なんて全否定を喰らうに決まってる。
照れ隠しなのはいいが、自分の意見を受け入れてくれないのも、何かと引っかかってしまうのだ。
そんな俺は、まだまだ純粋らしい。
「なぁ…。」
「何だ。」
「外、そんなに楽しいの。」
「まぁな。
迂闊に出れねェ分ここで楽しむんだよ。」
「あ、そ。」
チラチラと視線は感じていたが、ついに痺れを切らしたのだろう。
自分で聞いておきながら返事が素っ気ないのが証拠だ。
まぁ確かに、このままくつろぐのも悪くはない。
だがアイツがそれじゃ満足できないと遠回しに言うのだから、仕方ない。
売られた駆け引きを買ってやろう。
「駄菓子屋の出店が、」
「えっ何それどこどこ?!」
がばっと顔を上げて這いつくばりながら高杉の側に寄る。
そして窓の外を見ようと体を起こす、その前に。
高杉は銀時の腕を引っ張って胸の中に閉じこめた。
「ぅー…。」
「何だ、文句あんのか。」
「あるもないも、無理矢理すぎんだろ…。」
「寂しがり屋は黙ってろ。
ほら、構ってやるからおとなしくしてろよ。」
ゆっくりと耳や髪の毛に触れると、恐る恐る背中に手がまわってきた。
これはもっとしてほしいという仕草。
高杉は項や顎までも指でなぞり、それとなく誘ってみる。
すると「無理な姿勢だから高杉も寝て」というお願いが出された。
確かに背中をのけ反らせたまま抱きついていれば、くつろごうにも辛いだろう。
だか、
(もっと別の事に頭を使え)
一緒に寝転がればどうなるか。
その先はお前が空気読めよと。
また遠回しに誘って俺を試すから、こいつはいつまでもムカつく野郎なんだ。
「まぁそう急かすなよ。
風情を楽しむ余裕もねェのか。」
「最初から眠いって言ってんだろ。」
「ああほら、雨も降ってきたぜ。」
「話そらすなし。」
「そらしてねェよ。」
仕方ないが、埒があかないので銀時の望み通りゆっくりと寝転がった。
ほのかに香る畳のにおいと、銀時の感触。
高杉は銀時の着物に手を滑り込ませ、服越しから体を撫でていった。
煽るように、でも静かに。
そうしないと銀時の息遣いや鼻にかかった声が聞こえない。
(おとなしくなったか…)
指が性感帯を掠れば、銀時の感じた声が聞こえる。
畳が擦れて、体を捩らせながらも俺の腕からは逃げない。
優越感に満たされる瞬間。
確かにムカつく野郎だが、それを屈服させて優位に立てばとてつもない快感となるのだ。
「ぁ……。」
「まだ脱がしてねェのにこの有様か。」
「ゃ…っそこは、」
「雨も降ってきたことだし、テメェの全ても濡らしてやるよ。」
「ん…。」
体を這わせていた手を銀時の頬に滑らせ、唇が重なる。
口を開いて舌を出せば当たり前のように絡まり合った。
お互い視野が狭い分、今は口付けだけに夢中になる。
雨の音や張り詰めた欲望はそっちのけ。
ひたすら舌や唇をしゃぶっては吸ってその気持ちよさに酔いしれる。
次第に銀時を押し倒す姿勢となり、最後に唇で甘く食んだ。
「んン…ふ…は、ぅ。」
「そのまま体を揺らしとけ。」
「ン…高杉っ」
声だけでビクビクと反応する体。
それを愉快に思いながら、首筋を舌で舐めて、顎に軽く口付けた。
「気分は。」
「っ…悪く、ない。」
「なら良い。」
たっぷり俺の相手をしてもらうからな。
そう呟くと銀時も腹を括ったのか、ニヤリと笑って俺の唇を奪っていきやがった。
これだからこの馬鹿は…。
戻る
←Topへ