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花見でもしないか。
そう誘われた今回の逢瀬。
季節行事にはそこまで執着してないが、高杉と長くいられるならと一緒に来ていた。
夜桜を楽しみながら酒を嗜む。
そこから始まった高杉との時間が充実していて、このまま時間が止まればいいのに、なんてガラにもない考えをしてしまうほどだ。
頭と体、そして心がふやけてどうしようもない。
これが幸せというものなんだろう。
(ずっとこのまま…)
高杉の胸の中にいられたら。
そんな夢を見ながら、酒を愉しむ高杉を見つめていた。
あれから全身に花びらを散らされた後。
汗をかかないような交わり、花々を浮かばせた湯船への入浴、花見らしくあしらった食事といったように、ゆったりとした時間を過ごしていた。
そしていつの間にか日は傾き、高杉の胸の中で何回目かの夜桜見物を迎えた。
「酒は。」
「いい…辛いから。」
「飲めんだろ。」
「昔は無理やり飲まされたんだよ。」
「…試してんのか。」
「さぁね。」
「ったく、」
高杉は猪口を傾けて酒を口に含む。
待ち望むかのように目を閉じると、唇が重なって酒を口内に注がれる。
それをゆっくりと飲み干せば、特有の辛みが口内に広がった。
「ん……は…ぅ、」
「ほら、辛かったなら治してやるよ。」
「んン…。」
有無を言わせず舌を絡め取られる。
舌先にあったピリピリとした辛みに、高杉の舌の温度や唾液が混ざり合う。
ほろ酔い気分での濃厚な口付けに、さすがの銀時も意識が飛ぶ寸前だった。
それを見越してか。
理性が無くなる前に唇を離し、再び胸元に閉じこめられた。
その際、高杉の胸元の赤い花びらが見えてニヤリと笑ってしまう。
(俺の独占欲…)
交わりの後、反撃と言わんばかりに付けた花びら。
それがまた高杉を煽る結果となり、再び喰われることとなったのだが。
見えるところにしっかりと付いてて、 何だか嬉しくなってしまう。
「酒、飲んで。」
「またかよ。」
「違うって。
俺は酒飲んでるお前を見るのが好きなの。」
背景が桜だし。
綺麗に飲むし。
獣、というより1人の男が飲んでいる姿。
それを見てるだけでも良い。
何より今は、高杉の鼓動も感じることができる。
「そうやってまた…。」
「煽ってないから。」
「いや、テメェはいつも夜桜みてェなんだよ。」
「夜桜?」
「妖艶で健気、無意識に惹かれる。」
「ふー…ん。」
「大輪の如く笑えば多くの人の目に付いちまう…だから散らさないといけねェのさ。」
高杉の指が銀時の首筋、肩、そして足をなぞる。
そこには無数に付けられた花びらが所狭しと散らされている。
「またお前はそうやって…。」
恥ずかしいことをつらつらと。
酒が入ってる分、いつもより余計に饒舌らしい。
そして俺も酒の効果で、気分が高揚していく。
なんだろう…めちゃくちゃ嬉しい。
でも独占欲ならお互い様。
俺だってお前の側に自分以外の奴がいたら気にくわないし、人並みに嫉妬する。
夜桜みたいなのは高杉の方なのに。
闇夜にスーッと溶けて無くなる、そんな感じが。
「俺って…そんなに華っぽく見られてたんだ。」
「昔からな。」
「まぁた俺を上がらせて。」
「事実を言ったまでだ。
褒められたいなら、もっと口説いてやるよ。」
「ばーか。」
人差し指で高杉の唇をなぞる。
褒められんのは嬉しいけど、このままだと桜どころじゃなくなりそうだから。
すると高杉は銀時の手を握り、指を絡め取って、視線を外の桜に向ける。
もうすぐ闇夜が来る。
灯籠のあかりが周囲を照らし始めた。
(縁があれば、)
生まれ変わっても、こうして抱きしめてほしい。
前世とか来世とか、そんな御伽話みたいなのはあまり信じてないけど。
「銀時。」
「ん?」
高杉との縁をしみじみ考えていたら名前を呼ばれて見上げる。
すると不意に頬に手を添えられてジッと見つめられた。
どうやら何かを言いたいらしい。
空気を読んで、銀時は高杉を見つめながら言葉を待つ。
すると微かに、高杉の目尻が下がった気がした。
「相変わらず…綺麗だなァ。」
愛おしむように見つめる目。
何が、とは聞かない。
その目を見れば言いたいことはだいたいわかるから。
(お前の目にそう映ってんなら)
俺は嬉しい。
正直、華の無い女でなどいたくないから。
命尽きるまで散らしてほしいのだ。
銀時は高杉の手にすり寄って、にんまりと笑う。
けど、だんだん恥ずかしくなってきたから高杉の胸元に顔を埋めてありがとうと呟いた。
散りゆく華
16,03/30
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