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コイツは変に律儀なところがある。
俺のところに来る回数は増え、滞在する時間は長くなったというのに、何故か一歩引く。
さすがに『既婚者』というのが響いているらしい。
この鈍感な女でも。
「高杉…?」
「…気に食わねぇ。」
それもこれも、結婚を前日に控えた銀時に「男にとって初夜ってどーいうもん?」と聞かれたことで何かがひび割れた。
誘われていたのか、それとも俺が誘ったのか、それ以降は全く覚えていない。
どうせいつもの売り言葉に買い言葉、という展開なんだろう。
いつの間にか俺は銀時の体に乗っかり、処女を破り、ましてや初キスも奪ってしまったらしい。
長時間抱き合ったところを見ると、よほど熱烈な夜を過ごしたようだが、その後はお互いに普通に接していたから記憶に残る内容でもなかった。
お互いに欲を発散できて良かったな、処女卒業おめでとさん、という軽い流れで終わるはずだったのだ。
(気に食わねぇんだよ、本当に)
話が拗れたのは、銀時の結婚から数ヵ月経ったある夜。
銀時が再び高杉の部屋を訪れたのだ。
お互いに何も言わなかったが、何を求めているのかはわかっていたので、躊躇うことなく“間違い”を選んだ。
そこからこの妙な関係が続いている。
「……………。」
高杉は落とした指輪を思い切り踏む。
しかし形は変わっても潰れることはない。
それが更に高杉を苛立たせ、どうしようもない感情に襲われる。
最初こそ線を引いていたはずなのに。
いつの間にか銀時の体に溺れて、愛を囁くようになってしまった。
銀時を抱く感触がたまらない。
銀時の喘ぐ声にそそられる。
煽られ続ける自分に嫌気がさすが、それでいて夫婦を続ける銀時にも苛立ちが増す。
ここまできたら全てを奪いたい。
それが男というもの。
「愛の鎖ってやつかよ。」
「…………。」
「体は良くても心まで届かねぇ…か。」
「……高杉。」
「無様なもんだなァ…。」
高杉は独り言のように呟く。
すると銀時が唇を重ねてきたので高杉の言葉が途切れてしまった。
まるで何も言わせないような密着した口付けに、さすがの高杉も驚く。
「それ以上…野暮なこと言うなよ。」
唇を離した銀時は、高杉の首にそっと腕をまわす。
頬と頬が擦り合えば体温以外の何かがじんわりと温かくなっていく。
これが優しさならば残酷だ。
思わず銀時の体をきつく抱き締め、縋ってしまったではないか。
「同情ならやめろ。」
「別に。
俺は…高杉が放っておけないだけ。」
形は違っても、これも愛なんだろ。
(馬鹿が…)
それが同情ってんだ。
お人好しは身を滅ぼすぜ。
心の中でそう悪態をついても、銀時の言葉に心臓が跳ねていた。
銀時が俺のためにと望んでいる密会ならば、これほど嬉しいことはない。
体のみならず、全てを本気で奪ってしまう。
高杉は銀時を抱き締めたまま、近くにあるソファーに倒れ込んだ。
「っ……たか、」
眉を寄せた銀時の唇を塞ぐ。
そして乱雑にボタンを外し無理矢理シャツを脱がそうとした。
それに負けじと、なのか。
銀時も不器用ながらに高杉のネクタイを外そうとする。
だが舌が絡むほど指は自由に動かなくなり、次第に高杉のシャツをくしゃりと握った。
逃げようにもソファに押し倒されては逃げられない。
高杉の呼吸や体温、そして鼓動を感じながら、ただひたすらに舌を絡ませ合った。
「…ああそうさ、今になってテメェの全てがたまらなく欲しいんだよ。
他の奴と喋るのも苛つくし、誰かのモノなんざ以ての外。
だがテメェは誰にも本心を見せねぇし貞操概念も持ち合わせちゃいねぇ。
ただそれが気に入らねぇのさ。」
どれだけ求め合っても、どれだけ愛を囁いても、どれだけ罵倒し攻めても、どれだけ快楽を与えても。
コイツはそんな俺を受け入れるだけ。
それがいつも虚しくさせる。
「テメェの本心を言わねぇと、手遅れになる。」
「ン………ゃっ」
「今ならまだ逃がしてやれる。
それがどうしてわからねぇ…っ」
高杉はシャツと下着を一気に剥ぎ取る。
タイツもビリビリと破いて愛液で濡れているショーツも脱がした。
全裸になった銀時を見せば、至る所に付けた痕が赤く残っている。
己の執着を嘲りながら、高杉は銀時の片足を持ち上げた。
愛液で濡れた陰部、赤く熟した陰核、ひくひくと反応している孔、全てが妖艶だの体に息を飲んでいた。
********
「っ…高杉、」
「……………。」
名前を呼んでも高杉の目はどこか虚ろで何も見ていない。
それが納得いかない銀時は、高杉の目の前で手を翳して頬に触れた。
そっと眼帯の紐を解けばソファに落ちる。
だが長い前髪でその奥の瞳には届かない。
(高杉は…どこ)
お前だって人のことは言えない。
俺を慰めようと激しく求めても最後の最後で突き離す。
それが優しさだろうけど本当はそれが…。
銀時の指が、高杉の目元に触れようとした瞬間。
突然甘い痺れが全身に走った。
高杉の指が陰部に触れたのだとわかったのは、それから数秒後のことだった。
「ッあ、」
「っ……銀時。」
「ン…高杉……たか、」
銀時は名前を呼びながら必死に高杉の背中に縋りつく。
そして高杉も銀時の名前を呼びながら愛撫をし、夢中で口付けをする。
それは初めて性交をした時のよう。
「ん……っぁ、あっ」
旦那となる男は確かに堅実で良い人だった。
しかし性交する対象としては全然見ていなかったし、性交そのものがよくわからなかった…というより未だに処女で、口付けもしたことがないのだとバレるのが嫌だった。
俺のプライド的に。
なので結婚前、試しに女慣れしてそうな同僚を引っ掻けてみたのだ。
そしたらこれが腰砕けの性交で、更にはとろけるような初めての口付け。
でも高杉とはそれっきり。
性交後の余韻に浸りながら男の腕の中で眠る、それらが良い思い出になるはずだったのに。
「ぁ……あん…あぁん…。」
「銀時ィ…。」
「んン……。」
密着するような口付けに、陰部の形をなぞるように愛撫をしてくる指。
舌を絡ませながら触られるのが弱いと、自覚したのが高杉との性交だった。
この愛されてる感が、たまらなく好き。
女としての快感に溺れていく。
(どこで狂わされたのやら…)
事の発端は、結婚して半年後のこと。
旦那は性交にはほぼ無関心で、口付けも苦手だと言う。
銀時がリードをしながら性交をしても、旦那だけ早く達して自分はイけないまま終わる。
なら何故俺を妻に選んだのかと聞けば、健康で気骨のあるかっこいい女性だからとの返事。
つまり女らしい『可愛さ』ではなく、男らしい『気前さ』が評価されたらしい。
以前の銀時なら気にせず喜んでいただろう。
だが高杉の性交を経験して、女として扱われてからは考え方が変わってしまった。
女としての快感を刻まれたあの熱い夜。
思い出しながら自慰をしても物足りない、会社で高杉を見かける度にジンと熱くなる陰部。
ついに我慢できなくなった銀時は、再び高杉へと手を伸ばしてしまったのだ。
(無様なのは、俺の方なんだよ…)
人間、永遠の愛よりも目の前の欲望を満たしてくれる方を選ぶらしい。
なんとも皮肉な話である。
「ンっ…ぁ、あっあっ!」
「本当に、テメェは…っ」
「ぁあッ…そこ、は…ぁんっ
あっあっあっ、あぁああッッ!!」
水音と銀時の喘ぎ声が激しくなり、高杉が指で陰核を捏ねた。
その瞬間、透明な愛液をまき散らして銀時がびくびくと絶頂する。
静かな部屋には銀時が快感に耐える声と、弾けた愛液が擦れる水音しかない。
「銀時……。」
「はぁ…はぁ…ん、……晋助。」
何かを察したように銀時は高杉と目を合わせる。
そして下の名前を呼んだ。
その時、高杉の中でぷつりと何かが切れてしまったらしい。
本能の赴くまま銀時を再びソファに押さえつけ、自分が優位であることを示しながら完全に勃起した性器を取り出した。
しかし高杉は亀頭で孔を撫でて遊ぶだけで入れようとしない。
「ぁ……ゃだ、いれてっ」
「…俺が、こうしてぇんだよ。」
「んン…っぁ、あっ」
「テメェのココも、気持ち良いだろ。」
ついに入れられると思っていたら、ヌルヌルとした感触で陰核や孔をなぞられる。
そして亀頭で陰核をくりくりと執拗に攻めれば、少量の愛液が飛び出した。
しかし物足りない。
欲しいのはもっと大きな快感。
待ちきれなくなった銀時は、孔を指で広げて高杉の性器を入れようと腰を揺らした。
(晋助の…大きいの、)
次第に一番太い亀頭が孔に埋め込まれていく。
背中を駆けるゾワゾワ感に、銀時は恍惚の表情で高杉の性器を飲み込んでいった。
溢れる愛液は悦楽の証。
それらを静かに見ていた高杉だが、突然銀時の脚を掴んで激しく腰を揺らし始めた。
「あぁッ!!
あんっあんっあんっ」
「っ……は、」
「っぁ…しん、すけ……しんすけぇっ」
パンパンと肉がぶつかれば、奥の奥まで高杉の性器が届く感触。
待ちわびた律動に銀時も腰を揺らし、亀頭をいいところに当てようと模索した。
きっと愛し合う性交はこれなんだろう。
既に理性は飛んでいるはずなのに、高杉への想いが息苦しくなるほど溢れてくる。
「ッあ、あっぁっ!
も…ッあぁんっだめっ」
「さっき…イったばかりだろっ」
「ぁあッ…だって、おくがっ」
「は…っ
このソファも、買い換え…だな。」
「やぁ…ッあ、あっあっあぁんッ」
もう…晋助のことしか、考えられない。
「っあぁあ!!
あっぁ……ッあぁああーーーっ!!」
全身に広がる甘い痺れ。
最奥を刺激されたと同時に、銀時は絶頂する。
そしてその締め付けで高杉も中へと射精し、軽い律動を繰り返しながら、熱くてとろりとした精液をたっぷり注がれた。
お互いの体液をくちゅくちゅと混ぜ合い絡ませる。
そんな音が部屋に響き、銀時は恥ずかしそうに高杉から視線を外した。
するとダメだと言わんばかりに口付けられ、胸を高鳴らしながらも舌を絡ませた。
(こんなの…イケナイことなのに、)
危険な恋は身を滅ぼすだけ。
しかし言葉と体は裏腹。
それでいいのかと頭の中で警鐘が鳴っても、止められないのが人間の性か。
「は…んン……きもち…い…。」
「………銀時、」
「し…すけぇ…。」
「っ………。」
「もっと…きて。」
銀時の言葉に、ぎゅうっと強く抱き締める高杉の腕。
ここでも売り言葉に買い言葉…というよりはただの誘い受け。
銀時は高杉の体に躊躇いなく腕をまわし、男の全てをもっとと求めた。
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