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偽りで飾る世界、楽しいだろう?
悲しいほどに










「どうしたの?
名前なんて呼んじゃって。」

突然のことに、神威は首を傾げる。
だが涙が邪魔をして説明ができないので、一つだけ聞いてみた。

私は誰なのか、と。




「いきなり何?
怖い夢でも見た?」

「ふ…ぇ、」

「生意気で素直じゃなくて食い意地だけはある、それが取り柄の妹はどこにいったの。」

「っ…兄ちゃ、」

その言葉で、ようやくこれは夢でないと確信する。
だが同時に悲しみや後悔、羨みが生まれた。




「神楽……。」

「悔しいヨ…兄ちゃんっ」

神楽は更にギュッと抱き付いて、先程まで見ていた夢の内容を全て話す。
夢に嫉妬してもしょうがない。
だけど止められない。
すると神威は震える神楽の体を抱き締め、背中を撫でた。
その温度が、更に切なくさせる。




(赤の他人だったら良いのに)

こんな時代に、夜兎に、兄妹に生まれてこなければ。
平和な世界で優しい神威と結婚もできたのに。

兄に好意を抱くようになってから、そう思うことが多くなってきた。
何をするにも周りの目や父の存在で遮られてしまう。
隠れて恋人のように求めても、罪悪感が残る。
世間というのはなかなかに厳しいものなのだ。




「夢の中じゃ…デートも好きな時に好きな場所でできたネ。」

「……………。」

「結婚も…皆に祝ってくれたアル。」

「……………。」

「兄ちゃん、何でこうなったちゃったアルか。」

私、兄ちゃんとずっと一緒にいたいヨ。
そう言うと、神威はフフっと笑った。




「じゃあさ、過去に戻って出逢い直す?」

突然、空気がピシリと張りつめる。
神威の発言に、神楽は目を見開いて口をあんぐりとさせた。

いま、なんて…?




「だって兄妹なのが不服なんでしょ?
だったら生まれる前に戻って両親に頼めばいい。」

「な………。」

「そうすれば神楽は満足ってワケ。」

「………………。」

「どう?」

神威は涼しい顔をしてとんでもないことを言う。
馬鹿兄貴とはずいぶん言ってきたが、ここまで救いようのないレベルの電波だったのか。
そんなことできるわけない。
お前は神様にでもなったつもりか。

言いたいことは山ほどあるが、なんだか反論するのも馬鹿らしくなってきた。
神楽は体の力を抜いて、神威の胸板に頭を擦り寄せる。




「寝言は寝てから言うものネ。」

「夢を見るのが若者の特権でしょ。」

「……………。」

「でもさ、兄妹じゃなくなったら容姿も違ってくるよね。」

「…………。」

「そんなんで、お互いを見つけられると思う?」

神威の言葉にピクリと反応する。
確かにそうだ。
両親が違えば容姿も違う。
生まれる場所はどこなのか、同じ場所で勉学をするのか、アルバイト先で運命の出逢いをするのか、本当に恋人になるのか。
疑問は疑問を呼んで、処理しきれなくなる。




「俺は、後悔するつもりは全くないよ。」

神楽が邪魔だと思うものなら全部殺しちゃうからね。
これでもまだ出逢い直したい?




「……………今のままでいいアル。」

「そう。」

あっさりと答えを出した神楽に、神威はニコニコと笑って頭を撫でた。
単純なことで悩んで、単純に解決する。
これが我が妹、神楽なのだ。

そんな可愛い妹に会えたことを、否定したくない。
たとえ血が繋がっていても欲しいものは欲しいのだ。




「じゃ、この件は解決ってことで。
デートとか結婚とか子供は追々考えないとね。」

「泣いてた私が馬鹿だったアル…。
しかも兄ちゃんに言われるとか最悪ネ。」

「だてに神楽より生きてないからね。」

「もうねむい…。」

「早く寝なよ。
神楽が寝るまで起きてるから。」

そう言って、神楽の額に唇を落とす。
どこかで聞いたことのある言葉だなぁと思いながらも、神楽は兄と一緒に布団に倒れた。




「…兄ちゃん。」

「ん?」

「私が寝ても…ここにいてヨ。」

神威の頬に触れ、そっと撫でる。
夢の中じゃ伝えられなかった言葉を、神楽は小さな声で呟いた。
すると神威はお互いの額をくっつけて笑ってみせた。




「ずっと一緒にいる。
死んでも離さないから覚悟しなよ。」










(さよならを告げ走れ)



14,08/16 曲題提出
15,10/01 更新
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