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※大学生×高校生パロ






綺麗に生きようとしたいが、綺麗なだけでは退屈らしい。
人生に必要なのは刺激的なアップダウン。
良いことも悪いことも全て経験することが、退屈せず日々を過ごせる決め手。




(ふむふむ…なるほど)

神楽は読んでいた雑誌をパタンと閉じる。
退屈しのぎに読んでいた雑誌だが、何かと得るものはあった。




「刺激かぁ…。」

神楽はボソリと呟く。
誰に言うでもなく、口から勝手に

毎日が同じ流れでちょっと刺激がほしい。
欲求不満ではないのだが、それこそ青春にありがちな恋とか。
恋とか恋とか恋とか。
大事なことだから繰り返したけども。
でも同じクラス、同じ学校にそんなときめくような人はいない。




「だからといって、アイドルも眼中にないネ…。」

本当につまらなかった。
食べて遊んで食べて勉強して、刺激的なのはいつも女子同士での話だけ。
そんなのありえねぇと言いたくなるような妄想話や、彼氏の話、からの下ネタ。
代わる代わる話は聞いてても飽きない。
そして1人になると途端に退屈になってしまっていた。




(あ、電車…)

帰宅の際、いつも乗る電車がやってきた。
そして高鳴る鼓動。
今から退屈ではなくなる、それが嬉しい。




「えーっと、」

電車の扉が開き、乗り込むとキョロキョロと見渡す。
夕暮れ時の、各駅停車の、最後尾の車両。
混む時間帯であっても、人はチラホラといるだけで空いている。




「あ、いた。」

一番端の座席で爆睡しているのが見えた。
近寄って隣に座ると、電車がゆっくりと動き始める。




「………………。」

「………………。」

「………にいちゃー…ん。」

「………………。」

「…………………………。」

やっぱりダメだったアル。
まぁここまで爆睡してたら起きないのはわかってたけど。

読んでいた雑誌を鞄にしまったり、飲み物を飲んだり、ガサゴソと動いて兄の様子を伺う。
これでも起きない。
春は眠いっていうのを今日の授業でも言っていたような気がする。
まさにそれか。




「仕方ないアルな…。」

そんなに首を傾げてたら痛くなるネ。
神楽は兄の肩を掴んで体を整えさせる。
今まで傾いていた反対側、つまり自分の方に傾ければ良い。
自分にもたれ掛かるようにあれやこれやとしていると、さすがに起きたらしい。
眠そうな目と視線が合った。




「あれー…。」

「寝不足とか一晩中何やってたアルか馬鹿兄貴。」

「んー………いろいろ。」

「色々って、」

「ねむー…。」

そう言って、兄貴もとい神威は神楽にもたれかかって目を閉じた。
隣に壁ができて安心したのか、すぐに夢の中へと落ちてしまったようだ。

そんな神威に呆れながら、少しでも寝やすいよう、座高を低くしたり肩の高さを変えたりして配慮する。




(これで大丈…夫?)

何かと兄貴の世話を焼くのは昔から。
と言っても、喧嘩後とか騒動後とか、面倒事の後処理を任されている感じ。
それでも憎めないのは…昔からこういう奴だと慣れているから。




「ん………。」

「!!!」

不意に、神威の吐息が耳元で囁かれる。
それにビクビクと反応してしまい、神楽の体は一気に強張ってしまった。

この感じは…恐怖とか緊張ではない。
もっと楽しいもの。
兄の様子を観察して、会話して、そこに一喜一憂する。
これが何なのかはもう知っている、だからこそ興味深い。




(兄ちゃんに恋をした…)

危険な恋は普通の恋愛よりもハイリスク。
のめり込んではいけないと雑誌に書いてあったけど、相手は兄貴なのだ。
不倫相手などではなく、ただの家族。
例えのめり込んだとしても、きっと自分を受け入れてくれると思っているので、恋愛に関しての実験には持ってこいの人材なのだ。




「にいちゃん…。」

「……………。」

「にいちゃーん。」

「んー……?」

「もう、降りるアル。」

「あー…そっか……。」

むにゃむにゃとしながら、神威は体を起こして神楽から離れる。
大学生になって独り暮らしをしている神威は、このまま電車に乗る。
実家通いの神楽は、神威よりも手前の駅で降りるのだ。




「ちゃんと最寄り駅で降りろヨ。」

「りょうかーい…。」

「炊事洗濯もしっかりやること。」

「はーい…。」

寝ぼけているのか、舌足らずな返事。
それを見ただけなのにときめいてしまうのは、恋の相乗効果なのだろう。
だが残念ながら今日はここまで。




「じゃぁナ。」

「んー……。」

うっすらと目を開けた神威が、手をひらひらと振ってくる。
それに返すように神楽も手を振って電車を降りた。

ホームを歩いて振り返ってみると、電車の中の神威は既に夢の中に入っているのか、壁にもたれながら寝ていた。
どんだけ眠いんだと呆れながらも、扉を閉めた電車は行ってしまう。
電車が見えなくなるまでホームに立つのはいつものこと。
さらさらと吹く風に当たりながらも、寂しさはなかった。




(今日の兄ちゃんは無防備だったネ)

眠そうにしている兄の姿に、神楽はクスクスと笑ってしまう。
外であれほど無防備なのは初めて。
もしかしたら真面目にベンキョウしてるのかもしれない。
そう思うと、また胸が温かくなってくる。




「また明日…。」

お互いの時間割りにズレはあれど、運が良ければ同じ電車に乗れる。
それには兄も寛容で、何かと合わせてくれているような気がする。




(帰ろ帰ろ!)

明日にならないと、兄とは会えないのだから。




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