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「はい兄ちゃん、あーん。」
「あー。」
「はい、よくできまちたネ〜。
ぱちぱち〜。」
神楽が小さく拍手をすれば、もぐもぐしながら見せる神威の満面の笑み。
こういうノリにはノリノリで返してくれるからわかりやすい。
大人になっても、子供の部分はまだ多い。
「そろそろ機嫌直ったアルか?」
「機嫌?」
「じゃあ今度は特別にイチゴをのっけてあげるネ。」
「神楽は食べなくていいの?」
「神威が先。
じゃあまた、あーんして。」
「あー。」
適当に話を流しつつ、神楽は神威の口にケーキを突っ込んでいく。
それを神威はちゃんと食べ、更には催促をしてくる。
やはり神威の根本は食欲。
それも昔から変わってない。
そして今日の神威は切羽詰まり気味。
まるで何かに追われてるような、私の尻を叩いて律動してくるような狂暴な一面もあった。
よほど情緒不安定なんだろう。
だから私は、兄のために回復アイテムを買ってきた。
(神威の腹は満たされたアルか)
食と私。
本能的に求める神威は、あれやこれやと言って私を呼び出す。
でも結局はただのストレス解消と愛されが必要なだけ。
最近はめっきり会う機会がなかったから、よりイライラしてたんだと思う。
今はお互い、しっかり充電すればいい。
「顔色、よくなったアルな。」
「神楽のおかげでね。」
「そう。」
「でさ、そろそろこっちも貰いたいんだけど。」
神威の手が胸元の浴衣に触れる。
そのまま手を滑らせれば、整った形の乳房が出てきた。
性交後お決まりの浴衣脱がせ。
既に硬くなった乳首に触れて、上目使いで神楽の様子を見てくる。
「ついにおっぱい飲んでねんねするほどマニアックに目覚めたアルか。」
「はは、なら母乳を出せるようにしないとね。」
「さらっとプロポーズすんな馬鹿兄貴。」
「えー、だってとっくに神楽は俺のもんだし。」
「その上からをやめたら考えても良いネ。
亭主関白とか時代遅れヨ。」
「男なら誰だって女を組敷きたいって思うわけよ。」
特に秘密の多い生意気な妹とかね。
そう呟いた神威の腕が強く締め付けてくる。
その強さに、危うくケーキの皿を落としそうになってしまった。
(やっば、)
めっちゃ怒ってる。
ケーキのくだりで地雷踏んだとか?
いや、というか、これは、うん。
尋問フラグっぽい。
「兄ちゃーん…。」
「甘えた声を出してもダメ。」
ギロリと睨む目は手負いの獣並み。
別に自分は悪くないと思っているため、神楽は飄々としながらも神威の頭を撫でた。
そして神威は問う。
「この数ヵ月で何人消したのか」と。
「えぇ…そんな消すだなんて、」
「……………。」
「だって突っかかってきた連中はお巡りさんに逮捕されただけ。
私は直接手を下してないアル。」
「そう仕向けたんでしょ?
いったいどんな手を使ったの。」
「んー…いわゆる後片付けサービス?」
「………………。」
「本当アル!
元はと言えばあっちが私にちょっかい出してきて、私は巻き込まれただけ。」
弁解しても睨む目は変わらず。
表社会でも裏社会でも、色んな意味で目を付けられている兄貴。
それの妹というだけで色々といちゃもんつけてくる連中はいる。
だから自分なりに強くなる必要がある。
というかそもそもの話、そんな奴らから妹を守れよと神楽は神威に毒づいた。
「最初は神威を呼び出す人質的な文句で。
それを私が一網打尽にする前に被害者ぶってそのままお巡りさんに預けたのヨ。」
ただそれだけ。
それで終わったから。
別に怪我もしてないし、神威について喋ってないし、美人局なんてしてないし。
何事もなく、普通に終わってる。
神楽は弁解しつつも残りのケーキを食べていく。
神威と目が合えば口の中に放り込む。
ストレス緩和。
今の神威にはそれが一番。
「だけどその後、他の連中までいなくなったんだけど。」
「それはあれ。
最初の奴らが情報を吐いて芋づる式に話が進んだのヨ。」
「………………。」
「だから、神威は安心すればいい。」
神威の頭をやさしく抱き締める。
これで落ち着くか。
神楽はやれやれと肩を竦めつつも、内心ハラハラしていた。
確かに芋づる式になったのは本当。
でも情報を操作して、自分の身を守りつつ、神威に危害が加わらないようにしたのは私。
馬鹿なフリして相手に近付き、情報を操作するのは十八番になってしまった。
できるだけ、神威が生きやすいように。
でも神威にとってそれが気に入らないらしい。
(なんで…)
私だって、神威の力になりたいのに。
神威の居場所を作ってあげたいのに。
なんで、そこまでして嫌がるの。
「神威だって、たくさん秘密を持ってるくせに。」
「俺は良いの。
神楽を守りたいんだから。」
「だぁめ。」
そんなに我慢したら、神威が壊れる。
父親になるなら少しは生き延びる方法を選んでほしい。
ケーキを平らげた神楽は、空になった皿を置いて神威の体を抱き締める。
さっきは気にならなかったが、傷や体の重みがずっしりと感じられた。
「ほら、神威。」
「ん?」
神楽から口付けを交わし、私は強いからと唇から伝える。
「ちょっと思ったんだよね。」
「うん。」
「神楽が、母さんみたいにいなくなったらどうしようって。」
「……………。」
「大人になって、本当に母さんに似てきたよ。」
だから焦ってる。
いなくなる前に、もっと愛し合いたいとか、子供を産ませるとか、色んなところへ連れていきたいとか、しなきゃいけない事が増えた気がして。
なのに俺を真似て汚れた事もやるようになったら。
俺の居場所なんか作らなくていい。
笑顔で迎える神楽さえいれば俺は、
(センチメンタルとか…)
心の闇が重すぎる。
まぁでも子供の頃の記憶がトラウマになってるなら、それはそれで致し方ない。
それが原因で不安っていうのはよくわかった。
「神楽が強くなったのは知ってるよ。
でも心配なのは心配なんだよね。」
「…私もまだまだ、兄貴離れできてないアルな。」
「俺も、妹離れできてないかも。」
時には宇宙の果てまで距離があるのに、変な話。
それでいて帰る場所をお互いにと決めてしまった。
でも居場所は作らなくていいという。
二人だけの世界だと、ルールも定義も何もかも曖昧で脆いみたい。
「もし私が別の男と寝たら神威は怒るでしょ?」
「間違いなく殺すね。」
「私もろとも?」
「うっかり手が滑ったらそうかも。」
「なら改善の余地は無いアルな。
神威はその闇と仲良く生きるヨロシ。」
「えー、こんなにしんどいのに?」
「しんどい時は、好きなだけしんどくなればいいアル。」
どうせ、私たちには私たちしかないんだから。
というか神威より先に死ぬつもりはないから。
まぁでも神威がどん底まで落ちたら、骨は拾ってやってもいいかな。
「つまり俺が油断したら他の男に移るって話?」
「そうアルな。
あまり闇兄貴になると良い女は離れていくネ。」
「じゃあ頑張る。」
「お。」
「だから、ちゃんと俺の面倒みてね。」
「はいはい。」
貴方の悲しみは貴方のもの
(それも自分の一部だから)
(あまり拒絶しないでね兄ちゃん)
21,01/24
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