2/4













********




そして夕刻。
仲間と合流した神威は近くの居酒屋で飲んでいた。
最初の乾杯は生ビール、そして各々が好き勝手に注文する。
それを横取りし根こそぎ食らいつくすのが神威のやり方。

頼んだ物が一瞬にして消えていくので周りの仲間は神威を恨めしそうな目で見る。
しかし敵にまわせばこちらの被害が拡大するだけなので、涙目になりながらも再び注文するしかなかった。




「ん?」

店員が持ってきた皿を神威が直接受け取ろうとした時、ポケットに入れていた携帯のバイブ音がした。
神威はどうするか悩んだが、確認することにする。




「あ、神楽からだ。」

神威は妹からのメールに驚いた。
その発言に、周囲は更に驚いた。
だがやっと神威に横取りされていた注文の品が食べれるので、仲間達は神威を気にしながらも黙々と食事を続ける。

一方の神威は焼き鳥を片手に神楽のメールを見た。





From:神楽

題名:
本文:迷子になったアル






「……………………………え?」

神威はキョトンと目を丸くする。
そして笑顔が消えた神威につられて周りも目を丸くする。

え?
ちょ、え?
迷子って何?
今日の夜は特に用事が無いんじゃなかった?
てか迷子って、どこで何をしたらそうなんの?




(まったく…)

神威はメールを閉じて電話をかける。
すると待ちかまえていたのか、すぐに神楽は出た。




「もしもし神楽?」

『何だヨ朝帰り。』

「いや今日は大丈夫だって。
そんで、今どこにいるの?」

『迷子だからわからないアル。』

「目印は?」

『うーんと…、』

少し迷った神楽は、たどたどしく周りの目に付いたものを言う。
それを神威は仲間に伝えると、案外早く解決した。




(隣街のビル街ねー…)

そこはショッピングモールやビジネス街が広がるちょっとした都会で、若者がよく行くとテレビで紹介されるほど人気の高いところだった。

人混みに好き好んで行かない神楽が何故そんなところにいるのか。
夕飯時にそんなところにいたら両親が心配するだろう。




「まったく、何でそんなところにいるの。」

『ちょっと…友達のプレゼントを買いに。』

「で、俺にどうしろと?」

『……………。』

しばらく沈黙が続いた後、通話が切られた。
おそらく「迎えに来てほしい」と告げようとしても素直に言えなかったのだと思う。
神威はやれやれと思いながら再び食事を始めた。




(もう大人なんだし)

大きい通りに出れば駅への案内だって表示されている。
そこから最寄り駅に出れば無事に帰れる。
大したことではない。
理由はどうであれ補導される時間前に帰宅してくれればいい。

何たって都会だし。
困ったときは人がいっぱいいるし。
でもそれで犯罪に巻き込まれた学生がいるってニュースでやってたっけ。
いや、馬鹿力の神楽なら大丈夫。
だって俺の自慢の妹だし。
布団に入り込んできたり一緒に帰ろうって言ってきたりごくまれに女子の 格 好 を し て … 。




「…………………。」

ダメだ、探しに行こう。




「じゃ、俺は迷子の子猫ちゃんを探しに行ってくるよ。」

ごちそうさまでした。
神威は両手を合わせてそう告げると、すぐさま店を出た。
その姿はどこか焦っているようで、取り残された仲間達はこれも予定の範囲内だとため息を吐きながら食事を続けた。

これだからシスコンは、という悪意の無い文句は神威の耳には届いていない。


[*前へ] [次へ#]



戻る

←top