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※10年後とか未来設定





三味線と川の流れる音。
“さらさら”とか“そよそよ”とか、その時その時の季節を感じながら詠む句は風情があるらしい。
が、大人になっても花より団子。
食に敵うものはないと様々な女を蔑ろにしてきたが、ちょっと気晴らし程度に遊ぶのもまた一興、というのに最近気付いた。

色恋や遊郭など、強い女以外は見向きもしなかったが、人間歳を取ると興味が芽生えるらしい。
これで師の言っていた事がなんとなくわかった気がした。




「どーも。」

そしていつも立ち寄る遊郭にて。
今夜も神威は気晴らしに女を抱くため、馴染みになった女将や遊女たちと顔を合わせる。
いつもの部屋いつもの席に座れば、遊女が酌をするために隣に座ってきたので、神威は軽く挨拶をした。
すると遊女は神威の手に細い手を重ね、神威とじっと見つめ合う。




(えーっと、)

これはどうしたもんか。
誘われているのは間違いないが、ちょっと早いというか定番というか、ありきたりでつまらない。
しかしこの遊女は何度も抱いた経験があり、いい女ではあるのは知っている。
はてさて、どうしたものか。
神威がにっこりとした笑顔を見せながら考えていると、襖の奥から声が聞こえた。




「あれ。」

取った女はこれで終わりのはず。
他に余興を用意した覚えはない。

神威がそう思っていると、音もなく襖が開いた。
そして女将と2人の遊女が現れる。
女将からは「ご愛顧、感謝の余興」と告げられ、三味線や扇子などの準備を始めた。




「へぇ、やっぱり地球は気が利いててイイね。」

神威はすぐ側の遊女の肩を抱く。
遊女も慣れた様子で、神威にもたれかかりながら余興を待つ。
そして舞が始まった。




(とは言ったものの…)

これ追加料金取られたらどーしよ。
ハメられたかな?




「ふふ…何でもないよ。」

いつもと違う神威の様子を、隣の遊女は不思議そうに見つめてくる。
それに対しいつもの笑顔を見せて弁解し、部屋の真ん中で華麗に踊る女に視線を移した。




「綺麗な子だね。
見かけたことないけど、新入り?」

神威はボソリと問う。
すると隣から小さな声で答えてくれた。

名前は、おどし。
入ったのは去年で、本職と掛け持ちしているらしい。
それでも芸事ができるのは飲み込みの早さとその美貌で人気だから、だそうだ。




「おどし、ねぇ…。」

ゆっくりと舞う、その姿に目を奪われる。
チラチラと扇子の隙間から視線を絡ませながらも、おどしは目を伏せて舞に集中した。
ゆらゆらと着物の裾が回り、そして静かに床に頭を付けて舞が終わる。
それに神威は拍手を送る。




「はは、おっかない名前の割には綺麗な踊りだったね。」

「………………。」

おどしは静かに歩み寄り、神威の酌をする。
綺麗にまとまった黒髪が妖艶で、小さな唇に思わず見とれる。

興味が沸いたのであれこれと話しかけるが、どれだけ質問をしてもおどしは返事をしない。
すると隣の遊女が「この子は喋れない」と付け足してくれた。
何でも、本職である退治屋の事故で喋れなくなってしまったんだとか。




(へぇ…)

喋れない、か。
でも喋れないってだけで喘げないってことではないだろう。
そんな女を抱いたことはない。




「決めた、今夜はこの子にするよ。」

神威がそう告げると、隣の遊女は素直に引き下がる。
てっきり選ばれなくて睨まれるのかと思いきや予想外。
どうやらそれだけ、この女は格が違うらしい。




「ま、そんな畏まる事は無いんだけどね。」

「………………。」

「じゃあ俺は適当に風呂でも入って、部屋で待ってるよ。」

立ち上がった神威に、おどしは深々と頭を下げる。
それを横目に、神威は部屋を出ていった。




「さーて、と。」

今夜は夜兎の血が騒ぐ。
ただ者ではない女に興奮しているのか、それとも。




(俺が喰われないようにしないと)







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