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風呂に入って、綺麗さっぱりして。
さてこれからが夜だと意気込んだ途端、ピリッとした殺気を感じた。
やはり、夜兎の血は正直らしい。
「やっ」
「………………。」
襖を開けられる前に開ける。
音は無くとも近付いてくる気配でわかったので、レディファースト精神で迎えたのだ。
しかしおどしは驚いた顔をせず、そのまま神威に求められるがまま。
腕を引っ張れば簡単に抱き締めることができた。
(さて、懐刀は……)
神威はおどしの着物に手を伸ばす。
胸元から手を滑らせ、そして素肌を指先でなぞりながら帯を解いていった。
しかし何も見つからない。
着物をはだけさせても、刀どころか煙管もない。
では先程の殺気はどういう意味だったのか、神威がうーんと考え、おどしの体を再び抱き締める。
「……………。」
「……………。」
うん、やっぱりね。
「さてと、色々聞きたいことはあるけど何が目的?」
「……………。」
「ま、喋りたくないなら無理矢理でも喋らせるんだけどね。」
「……………。」
「兄ちゃんの本気、そんなに知りたい?」
大人になったね、神楽。
そう言って黒髪の鬘を取ると、橙色の髪が現れる。
同じ髪色、同じ青い瞳。
久々に見た我が妹は眉を寄せていたが、神威はいつものにっこり笑顔で応えた。
「……いつから、アルか。」
「んー、最初から?
踊ってる時なんかずっとこっちを睨んでて恐かったよ。」
「………………。」
「まぁそのおかげで、神楽だってわかったんだけどね。」
「……………。」
「しっかし本当に神楽?
ずいぶんと大人になってて半信半疑だったんだけど。」
神威の手が神楽の肩に触れる。
そして着物を肩からズラすとパサリと落ちて、上半身が露わとなった。
浮き出る鎖骨に、膨らみのある乳房、そして夜兎特有の白い肌。
しばらく見ない間に、随分と『女』になったものだと感心する。
(へぇ……)
お互いあんなに子供だったのに。
男を煽るまで成長したんだね、神楽。
「俺が、何をしても動じない?」
「本当に妹に手を出せるアルか。」
「酷いなー。
これでも血気盛んな男子だよ?」
それに神楽ならずっと抱きたいと思っていた。
なんて、いつの間にかそんな口説きをサラリと言えてしまうようになっしまった。
これは周りの大人たちの悪影響だなと苦笑いしながら、神威は妹の頭を撫でる。
すると素直に神威の胸に頭をすり寄せてきたので悪い気はしなかった。
「それで、俺を探して何が目的なわけ?」
神楽の髪を指で梳く。
その瞬間、背後にヒヤリと冷たい気配を感じた。
理由は何であれ、悪い予感しかない。
「ふー…ん。」
「……………。」
「まぁ、夜兎の本能に目覚めたのは嬉しいかな。」
「…言うことはそれだけアルか。」
「さぁて。
なら理由を言ってくんない?
妹に執念深く恨まれる覚えはないんだけど。」
「……………。」
背後からは小刀、もしくは銃のような鋭い気配。
それでも平然と喋る神威に、神楽の指先が震えた。
どうやら『執念深い』が、『迷い』もあるらしい。
(甘ちゃんは変わってないか…)
地球人じゃないんだから。
一度恨んだら最後まで貫き通せば良いものを。
そう思っていると、己の胸板にふわりと手が添えられる。
そして首筋にひやりとしたモノが当てられた。
いくら夜兎といっても急所を切断されたり吹き飛ばされては死ぬ。
それをわかってやっているということは、とんでもない恨みで、喧嘩を売られた自分は買っても良いということ。
だけど今は妹と戦う気は無いので好きにやらせる。
すると、神楽がポツリポツリと喋り始める。
「お前は…変わったアル。
こんな浮かれたところに本当に来るなんて思ってなかったネ…。」
「うん、よく言われる。」
「馬鹿みたいに戦って、馬鹿みたいに怪我して…昔は本当に能無しだったのに。」
「それは言い過ぎじゃない?」
「だけどその中で、貴方様が殺めたお人の名前はお忘れでしょうか。」
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