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※沖田♀、社会人×大学生パロ注意




そこのカフェ兼レストランは『プロポーズしたら結ばれる』という噂があり、昼間は学生、夜はカップルで賑わう小さな店だった。
でも所詮、噂は噂。
店はサプライズする側の手助けをするわけでもなく、あくまで見守るだけ。
成功するかしないかは本人の努力とアイデア次第ってことで、成功率は五分五分とのこと。




「これだから現実主義の男は嫌われるんですよ。
ロマンチストになって女に夢を与えてください。」

「あのな、ロマンチストになったら集客・売上に繋がるわけじゃねぇんだよ。」

「うわ最低。」

「サービスは業務の範囲内、売上を取るなら四季折々のメニューを出していく方が手っ取り早い。」

「土方さん…本当にこの店の従業員ですか?」

「あぁそうだ。
生意気な小娘に一礼する馬鹿真面目な従業員だろ。」

ニヤリと笑う土方から沖田はメニューを貰う。
週に一度は訪れランチを食べるのが日課となっていた。
独り暮らしの学生でも通えるぐらい、リーズナブルなメニューがあるのでお気に入り。
そしてついでのお気に入りは、




「土方さん。」

「あ?」

呼ばれて無愛想に返事をする土方。
沖田は自分のハンカチに唇を寄せ、その部分を土方の唇に重ねた。
いわゆる間接キスという演出。
業務妨害にならない程度で、今やれることはこれぐらいだろう。
土方の反応はどうか。




(あ、困ってる)

俺にしては可愛い演出でしたかね。
やった。




「…お前、どこでそんな技を覚えてきたんだ。」

「授業中に。
たまには少女漫画を読むもんですね。」

「ったく、教科書が違うだろ。」

ハンカチを離せば男は唇を尖らせている。
沖田の不意打ちにより、土方は困ったようにそっぽを向いて堪えていた。
そうそうコレ。
俺が望んでた反応はコレだよコレ。
さすがは土方さん、ある意味期待を裏切らない。

沖田がこの店に通う最大の理由は、土方に会いたいから。
幼い頃に出会い、そこから親同士が仲良くなって、成長してもゆるく繋がってきたこの関係。
『知り合いの兄ちゃん』から『お節介な兄貴分』になり、今では『嫉妬深い恋人』になっていた。
その恋人の職場に行けば、少しの間だけリア充らしいことができる。
タイミングが合えば一緒に出勤することも帰ることもできる。
恋人であっても近いのに遠い存在、でも不思議とこの距離も悪くないと思えるのはこの瞬間だった。




「今日は朝当番ですか?」

「いや、夜当番だ。」

「そうですか…。」

「最近は昼夜逆転しちまってるからなぁ。
次の朝当番に起きられるかどうか。」

「朝なら起こしましょうか?
リップサービス付きで。」

「別料金になるなら断る。
あと過激なやつも、朝から出勤どころじゃなくなるからな。」

「年中無休で元気なことで。」

恋人になる前から、朝当番の日は一緒に通学・出勤をしようと土方を起こしに行っていた。
だが関係が変わるにつれて、普通に起こすのは勿体ないと、あれこれと土方が好きそうな起こし方をしていた。
のしかかりや飛び蹴りなどのアクロバット、布団に潜り込んで口付けなどの恋人っぽいサービス、そして寝起きの悪くなる冬場はナース服やセーラー服などのコスプレでモーニングコール、等。
土方の性癖を研究しつつ、色々な起こし方を行ってきた。




「ま、あの時は彼シャツが性癖ってのがわかって楽しかったですけどね。」

それはある日の朝。
いつものように起こそうと土方の寝室に入った時、脱ぎ散らかしたシャツがあったのだ。
随分お疲れの様子だなと、下着になって土方のシャツを羽織り、一般男性に好評の彼シャツ姿で起こしてみた。

そしたらまさかの事態。
一般男性どころか雄に豹変した土方に、沖田はあれよあれよと押し倒されて食われそうになった。
しかしそこは沖田総悟。
お互いの通学・通勤を考えたら、今ここでの処女卒業は嫌だと、鳩尾に蹴りを入れて正気に戻したのだ。
あれが夜だったら、間違いなく一晩中フラグである。
それはまたの機会で。




「っとに、お前は誘惑しておいて逃げるからな。
本当に質が悪ぃ。」

「そんな小娘に惚れたのがいけないんですぜ。
俺の処女は彼氏じゃなく旦那様に捧げます。」

「昔は可愛かったのになぁ…。
どうしてこうもひねくれちまうのか。」

「今の俺が嫌いってことですか。
そんなこと言うんですか。
俺の機嫌損ねても知らないですよ〜。」

「はいはい。」

他愛のない会話。
しばらく続けていると、店員を呼ぶ声がした。
今はおやつ前の時間帯だが、長く愛されているこの店は、混雑時を避けて来る常連客も多い。
「じゃあまた後で」と離れる土方に、沖田はヒラヒラと手を振った。
大きな背中が静かに離れていく。




「……………。」

沖田は土方の働く姿を見て、フゥと深呼吸をする。
端から見れば土方に見惚れているようだが、実際に惚れているのだから仕方ない。
兄貴だった人が、あんな大人の男が、俺に付き合ってくれるなんて思ってなかった。
そして同時に感じるザワザワ感。
土方が他の女性客と話しているだけで、スーッと頭が冴えて冷静になる。
土方の言う『業務』とはいえ心地よくないだろう。
彼女の立ち位置なら尚更。




(俺に嫉妬するくせに…)

そのくせ自分はノーガードとか。
どっちが嫉妬深いんだか。

沖田は視線をメニューに変え、今日はどれを食べようかと考えながら眺める。
ロマンの欠片も無い現実的な野郎でも、昔からモテるのは事実。
結婚相手と考えた時は、その方が高得点らしい。
現実的イコール頼りになるという世論が、土方に対して良い仕事をしている。




「まだまだ立ち位置は妹、か。」

そこから女として、恋人として土方の目に写るには、大学生となっても難しい。
服を大人の女っぽくしたり、男が好みそうな石鹸の香水を使ったり。
工夫はしているものの、縮まらない年の差によって色々と悩みは尽きない。




「あ、」

そう思っていると、土方がこちらに戻ってくる。
注文を聞きに来るのだろう。
沖田はメニューを確認し、土方を待っていた。




「土方さんのせいにしておきますぜ…。」

なんせ今の俺はイライラしてるから。
カルボナーラにチョコドーナッツと、高カロリーなのは土方さんがいけない。
俺が太ったら盛大なライダーキックをやってやる。

ざまぁみろ。





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