のどがなる

「舐めてみたい!」
昼間にコインランドリーに連れていったばかりの枕は柔らかくて、シーツはリネンの香りがする。二人乗り分の体重でマットレスが沈んで、後退ろうと身動ぎすればスプリングが軋む音がする。
ミヤも男であり、知識や興味が無いわけではない、ということは分かっているようで分かっていない。例の元チームメイトのような匂いが欠片もしないからか、真正面からぶち当たった時に巻き起こるのはいつも困惑と焦りである。
口の中で先程言われた言葉を転がして、呟くように出してみる。
「なめる」
「うん」
「いや、なんで急に」
「した事ないなぁって」
された事も、自分がしたこともない。
だって野郎のなんて舐めたくないだろ。自分がされて嫌なことは強要しない。これが人といい関係を築く鉄則のひとつだ。
だから教えない、自分もしないを徹底してきたのに誰だ余計なことを吹き込んだの。何となく、某元チームメイトがチラついてムカついた。
見上げた目は期待に満ちていて、俺の許可を待っている。
こういう時、ミヤの目の奥はキラキラしていて夜に浮かぶにはよく映えた。いつもとは違う星の瞬き。
手繰り寄せて、捕まえてしまいたい。相対的に、こっちには火が点るのだ。
ごく、と喉の奥が鳴る。
「……まぁ、いいけどさ、うん」
「やったぁ」
許可するや否やパンツを剥ぎ取られ、カーペットの上にくしゃくしゃになって落ちる。大きく開けた口の中に飲み込まれると、背中がふるりと震えた。
「ッん、」
唾液をまとわせた唇が深く、浅くをゆっくり繰り返す。肉厚な舌で裏筋がつつ、となぞるのに合わせて腰が浮きそうでこらえた。技術不足やスピードが遅いこともありイクほどでは無い、けれど視覚的にクるものは確実にある。
ミヤが動く度に長い髪が鼠径部を擽る。横髪を耳にかけてやると、視線がかち合う。
熱っぽい瞳は弧を描いていた。
あ、駄目だってばそういうの。
「……っ、と待って。ね、やばい」
声が上擦る。上手く酸素が吸えない。
行き場のない足でシーツを蹴る。
「出ちゃうってば、駄目だって……!」
頭を半ば強引に持ち上げて行為を中止させれば、遅れて先から精液が零れた。
ミヤの半開きの唇から唾液と先走りが混ざりあったものが、シーツ目掛けて垂れていく。
は、は、と荒い呼吸はどちらのものか。
「あぶね、マジで……」
「いってもよかったのに」
「イヤじゃん、美味しくないのに飲ませんの」
ミヤを抱き寄せて濡れた唇を舐めた。それはなんとも言えない味がして、眉根を寄せてしまう。
「今日はおしまいね。明日も早いし」
素直な返事が肩口から聞こえて、ほっと息をついた。後処理を明日の自分に任せ、あやすようにミヤの背中を優しく叩く。ぽん、ぽん。
そのうち自分にも眠気がやってきて、熱を感じながらいつも通りの眠りについた。



水っぽい音と、抗い難いぬるい快楽。
身動ぎが上手くできない。腰が浮く感覚がする。
「あ、ぁ?」
ぼやけて定まらない視界の中でミヤが先端に口付けをした。そしてぱかりと大きな口で奥まで咥えて吸う。いつも唇にキスする時の、かわいい音が聞こえてくる。
微睡みの中から引き上げられそうだった意識は、快楽と混濁して混乱をもたらした。きもちいい、なんだこれ、なに、わかんない。どうなってる?わかんない……わかんない。
「ふぁ、は、あ……う」
堪えられるわけもなく、吸われるがままに全部出ていく。ごくん、と喉が鳴る音がした。
滲んだ視界で犯人を見とめると、満足そうに口元を拭って微笑んだ。達成感の二文字が頭に浮かんで見えたような気がした。
「じゃあ、ランニング行ってくるね」
シャツを持って慌ただしく部屋を出ていく。遅れて目覚まし時計が甲高い音を立てて鳴り出した。未だに状況が理解できぬまま、気力を振り絞って時計の頭をはたく。
この出来事を受け止めるのは二度寝を挟んでからにしよう。そう決めて漏れる朝日から逃げるように、深く深く布団をかぶり込んだ。