米屋陽介
逃げられない


テレビ見てたらいつもより出る時間が遅れてしまった。
登校時間は通勤ラッシュの時間帯で人が多い。
これだから電車通学は嫌いなんだと悪態つく。
もう慣れたけど。

急いで走って、かなり体力使ったけど電車に間に合ったから遅刻しなくて済むのは不幸中の幸いだった。
じゃあ何が不幸かってーー
私が女性専用車両に乗れなかったこと。
そして…

「わっ、」

乗車人数オーバーしてるでしょと言わんばかりに車両いっぱいに人が詰め込まれた中で電車が揺れてドミノ状態になったこと。

頑張って踏ん張ったけど後ろからの圧力に耐えきれなくておもわず前に倒れる。
この時私がドア側だったらどんなに良かっただろう。
少なくても倒れなくて済んだはず。
いや、この状態だとあまりかわらないのかも、だけど…。

前の人にぶつかる?いや押してしまうのが申し訳なくて踏ん張ったんです私。
でも足だけじゃたりなくて、思わず手が出てしまったんです。はい。
前にいる人の背後にはドア。
そう、どういう状態になったかというと…
最近流行りの壁ドンですよ。
はい、因みに私がしている方。
ドキドキ、キュンキュンあったものじゃない。
お願いだから皆(主に後ろの人)私押さないでください。
私これ以上耐えきれない。
やだやだ目の前の人…女子じゃなくて男子だから!
男子の胸にダイブとか絶対したくないから!!
こうなったらもう一度電車反対側に揺れてくれないかな。
そしたら押し返してさー…

「やべ…俺女子に壁ドンされたの初めてだわ」

いきなり目の前の男子が笑ってきた。
笑うな私だって好きでやってるんじゃないやい!

「おかげで俺は快適だけどさー、でお前名前は?クラスどこ?」
「は!?」

思わず返してしまった。
何言ってるんだこいつ。
こんな状況で噂のナンパ?腹が立つ。

「だって同じ学校だろ?
折角の壁ドン記念に聞いておこうと思って」
「同じ学校?」

電車が揺れる。
特に特徴のない学ランだったから気づかなかったけど、そうなんですかーあなた私と同じ学校なんですか…。
最悪だ。
絶対ダイブしないし名乗らない。
なんとしてでもここは死守。

「う…」

また押される。
誰だよ本当!?
もう少し踏ん張る努力をしてよ!!

「腕プルプルしてるけど大丈夫?」
「全然。お願い黙って」

集中力乱れたらダイブだよ、もうやだ、腕キツイ、心折れそう。
寧ろなんで体勢戻らないの!?
誰か絶対寄りかかってる。
本当迷惑。

「そんなにキツかったら力緩めれば?」
「嫌よ。そんなことしたら…」

男子と目が合う。

「俺が得するだけじゃん」
「私は得しないじゃない」

なんなのコイツ、ニヤニヤしちゃって。
楽しいのお前だけだよ。

その時、電車が止まった。
やった。やっと降りられる…!!

「うわっ」

ドアが開いて人が押し寄せてくる。
こっちのドアが開くのかよ。
すっかり忘れてた。

「なんだ、結局変わんないじゃん。
お前くたびれ損だな」
「〜〜〜〜!!!」

そうですね、結局私コイツの胸にダイブだよ…やだ恥ずかしい!!

「大丈夫か?」

後ろからの人の波に押される。
なのに先程とは違って私は倒れたりする心配はなかった。
真上からする声がさっきより近くてヤバイ。
どうしよう恥ずかしくて私、死ぬ。

「もう安全かな」

その声と同時に私は解放された。
憎たらしいなんて思うのはお門違いだと分かってるけどしょうがないじゃない。
とりあえず、早くここから立ち去りたい。

「……ありがとうぉ!?」

腕掴まれた。
どうしてさ…。

「同じ学校なんだし一緒行こうぜ」
「いやいやいや、離してお願い」
「お前顔真っ赤。おもしれーな」
「人の話聞いて!」
「米屋、朝から何してる」

突然現れた救世主?に助けを求めようとして…私はすぐに顔を逸らした。
同じクラスの三輪君じゃん!
クラスメートに見られるなんて…うわー!
力一杯腕を振り被る。
腕が離されたから…とりあえずダッシュだ、さよなら。

「あーあ、行っちゃった。三輪タイミング悪すぎ」
「こんなとこでふざけるな。
神威に用があるなら学校で済ませろ」
「お。三輪、さっきの子知ってんの?」
「同じクラスだ」
「おぉ〜流石三輪!」
「意味が分からん」

三輪君のせいで、またこの男子に会うことになるなんて…
その時の私は知る由もなかった。


20150323


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