米屋陽介
認められた本気
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私は本気になるのが苦手だった。
…というか、本気ってどういう意味なのかよく分からなかった。
私はいつも流されてばかり。
だからいつも始まりはなんとなくで、終わりもなんとなくで、
なんとなくの毎日を過ごしていた。
高校生になってもそれは変わらず。
部活に入ったのも友達に誘われたからなんとなくだった。
流されるままに始めたから、
きつかったらどうしようとか、人に迷惑を掛けたらどうしようとか、
そういう事も少しは考えて、
駄目だったら辞めればいいか。
…なんて軽い気持ちで考えていた。
クラスでもそんな感じ。
クラスの男子は馬鹿な事しでかして、
女子はそれを見て「男子って子供よね」と言ったり、
お互い言い合って笑い合って過ごしている。
異質なものって言ったらクラス内にボーダーと呼ばれる隊員がいる事だけど、
皆が「ボーダーは選ばれし者」だって、「かっこいい」って言うから、
どんな凄い人だろって思ったけど、
話してみれば私達と変わらないただの高校生だった。
少なくても私にとって米屋陽介はそうだった。
明るくて絡みやすくて…米屋は誰とでも仲良くなれる人だった。
「今度の休みカラオケ行かねー?」
「悪ぃ、オレ、その日防衛任務だわ」
「やべー米屋が真面目に防衛してる」
「その調子でテストも赤点とらねーようにすればいいのに」
「それ無理だわー。弾バカ助けてー」
「はぁ?そういうのは少しでもそう思ってから言いやがれ」
「いや、思ってるって」
ゲラゲラ笑いながら会話しているのは他の皆と同じ。
輪の中に溶け込んでいる米屋をボーダーだという事はあまり意識した事がないけど、
ボーダーの事になるとたまに…本当にたまにだけど表情が変わる事がある。
それを見て、
いつもおちゃらけている米屋から想像できないけど、
確かに米屋はボーダー隊員で、
それだけ本気なんだなって思った。
何かに本気になれる人ってどうしても私みたいな人間からは特別にかっこよく見える。
そして少しだけ羨ましい。
だけど私が何か特別な事ができるかっていわれればそんな事なくて、
授業を受けて、放課後になったらなんとなく始めた部活になんとなく行く。
それを繰り返していたら、
私を誘った友達はいつの間にか部活を辞めていて、
私はまだ続いていた。
なんとなくだから続けられたのかもしれないけど、なんかやめられなかった。
今日は公式試合だったのに、
試合が終わるのは呆気なかった……。
先輩達が泣いている姿を見て、
三年生はこれが最後の試合だって事を思い知る。
これを見るのは二回目だった。
「……」
口にできない何かがあって、
先輩達に何も声を掛けられなくて、
閉会式が始まるまでなんとなくボーッとしていた。
「よ、お疲れ」
「あれ、米屋…なんでいるの?」
確かこの日防衛任務って言ってた気がするけど…どうだろう。
「男子の会場近くだろ?
試合応援しに来たついでに女子の方も見に来た」
「米屋っていつもボーダーで防衛任務してるってイメージある」
「オレだって友達の試合見に行くくらいするって」
そんなにボーダーばかりじゃないって米屋は言う。
米屋が言うならそうなのかもしれない。
自分に確かなものがあって口にできるって本当に羨ましい。
「負けちゃったけどね…なんとなく始めたから仕方がないんだけどさ」
そう言って笑って見せる。
私の言葉に「ふーん」って米屋は言う。
興味なさそうに呟かれたそれに酷く傷つけられた気がした。
「神威って思った事口に出さねぇよな」
「え」
「おまえ仕方ないって顔してねーから」
「それは負けたから…」
「だったら次勝てばいいじゃん。
そんな悔しそうな顔している奴がこのままでいるわけないだろ」
言うと米屋は私にジュースをくれた。
「なにこれ」
「やるよ。差し入れ」
そして米屋は言う。
「オレ、本気な奴しか応援しねーから」
その言葉を聞いて無性に泣きたくなった。
私にも本気になれるものがあって、
この想いが本物だって言われた気がして嬉しかった。
なんとなく…だったのに、
本気になるなんて思ってもいなかった。
いつの間にか私は――…。
20161215
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