迅悠一
視えない未来が愛おしい


おれのサイドエフェクトは会ったことのある人の未来が視える。
ほんの少し先の未来か、数年先の未来か…それはまちまちだ。

ただ一人。
彼女の未来だけは真っ黒で何も視えない。
初めてだった。
だから興味を持った。
「あ、迅さんこんにちはー」
「神威」
突然現れては他愛ない会話をする。
今日もそうだった。
「ぼんち揚げ食う?」
「迅さん、いつもそれだね。
今日はお腹空いてないし、いらないかな〜」
「残念だなーあ、そうそう。おれ、嵐山から遊園地のチケット貰ったんだけどいる?」
「お、遊園地!いるいる♪」
神威は嬉しそうにしている。
その顔が凄く可愛くてちょっとだけ、おれの胸の中が温かくなる。
「ペアチケットだから、友達と一緒に行っておいでよ」
「え?」
神威がキョトンとした顔でおれを見る。
「…迅さんってさー…」
「ん、何?」
「そうだ!迅さん今度の休み暇?」
「暇だけど」
「じゃあ一緒に行こう!」
え?
沈黙。
おれの顔を見て神威がお腹を押さえながら笑う。
「何その顔〜」
おれはどんな顔をしたんだろう。
神威が本当に可笑しそうにするからおれはなんだか照れくさくなる。

「本当、神威は分からないな」
「私だけ未来は視えないってやつ?
あはは、迅さんは私といたら大変だね。
でも一緒いて楽しいでしょ?」

凄い他人事だと思った。
今まで視えていた未来が一人だけ視えないなんて…
不安になるのが普通でしょ?
でも神威は視えないのが普通だと言う。
当たり前だ。
おれが勝手に視えていただけだから。

「こういうの好きな奴誘うものなんじゃないの?」
「それを迅さんが言っちゃうんだ」
神威が言う。
「一緒に行ってくれるの?行かないの?」
「暇だから行こうかな」
「本当!?やったー!」

きっかけなんて些細なもので、
おれは今、彼女に振り回されることを楽しんでいる。
どうすれば喜んでくれるとか、
何をしたら怒るのかとか、
泣いたり笑ったり…いろんな顔を見せてくれる彼女と一緒にいるのは、楽しかった。
それはおれがアキと呼ぶようになってからも同じで、
楽しいと思うのと同時に不安になったりすることも増えてきていて…アキは結構、
おれの気持ちを読み取るのが上手くて、
笑顔でいつもこう言う。

「私の為に必死になって」

アキの言葉一つでおれの気持ちは振り回される。
おれはアキが好きなんだ。
そう自覚してからは余計に思うんだけど、
おれは彼女には叶わないなって。
そう感じるこの瞬間も愛おしいーー。

今日、彼女は何をする?
どうしたら動揺してくれるかな。
そう考えるのが最近の楽しみになりつつある。

「ねぇアキ」

彼女が振り向いた。

「おれ、アキの事が好きだよ」


20150411


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