迅悠一
君に酔わされて
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あ―ヤバイ……頭がくらくらする。
アキがそう認識した時には既に手遅れだった。
今日は大学のサークルの飲み会で、凄く楽しみにしていた。
だからなのかもしれない。
玉狛から出る時に迅からあまり飲みすぎないように言われたのを思い出した。
最初は気を付けていたけど、
グラスに注がれたお酒を素直にそのまま飲んだらこうなった。
足元がおぼつかないアキを支えてくれたのはサークルの友人だ。
「神威さん送っていくよ」
「ん…大じょーぶ……」
誰の目から見ても全然大丈夫ではなかった。
身体を支えられながら居酒屋を出ると、アキは声を掛けられた。
「アキさん」
「あ、迅だー」
迅を発見したアキは駆け寄ろうとするが、
身体が上手く動かせず転びそうになるのを、予知で視えていたのか…迅が受け止めた。
「だからあまり飲まない方が良いって言ったのに…。
あ、ありがとうございます。
アキさんはおれが送っていくので、もう大丈夫ですよ」
迅はへらへら笑いながらアキのサークルメンバーと挨拶してアキを連れて歩く。
「お前、牽制されたな」と声が聞こえたが迅は気にしなかった。
牽制は事実だし、ある意味邪魔したとも思う。
けれど後悔はしていない。
アキが玉狛支部から出る時に視えた未来に比べれば……。
不安になって迎えに来てみれば未来は確定間近だった。
自分の想い人が他の男としている未来なんて正直悪夢でしかない。
しかも酔った流れの同意なし。
アキが泣く姿が視えれば止めずにはいられなかった。
自分よりも年上で優しくて頼りになる先輩の笑う顔が迅は好きだし、
ずっと笑っていてほしいと思う。
何とか無事に玉狛に帰りついた。
道中ずっと絡まれていた腕。
ほぼ、身体を全て預けられた状態だった。
そんな中、耐えた自分は偉いと迅は自分に拍手を送りたい気分だった。
「アキさん、おれ以外の人にやらないでよ」
「なんでぇー?」
「……勘違いする」
酔っ払い相手に何を言っているのかと思う。
今の彼女にこの想いは気づかないだろう。
だからこそ、今だから言える言葉でもある。
「おれがアキさん、好きだから」
この言葉の返事がないのを分かってて言うのはずるいだろうか。
迅はアキの部屋に入った。
とりあえず彼女を布団の中に寝かせれば、本日の任務は完了だ。
「じん…」
「どうしたの?」
「私も、迅すき」
まさか先程の話が蒸し返されるとは思っておらず、一瞬面を喰らう。
だからだろうか。答えなくてもいい言葉に答えてしまったのは…。
「おれの好きはアキさんのとは違うよ」
「いっしょだよぉ」
アキは迅の腕を引っ張って頬に口付ける。
「ね?」と言いながら微笑むアキの攻撃力は凄まじく、迅の理性は軽く飛んだ。
迅はアキの唇に自身の唇を重ねる。
それがどんどん貪るようなキスに変わり、口内で交わり合う。
隙間から洩れる息は熱い。
重ねれば重ねるほど頭がくらくらするのは、お酒を飲んだアキにキスしたからか…。
アキの身体から力が抜け、崩れ落ちそうになるのを支える。
「…じ、…ん……」
そんな声で呼ばないでほしい――。
そんな目で見ないでほしい――。
――その声で呼んでほしい。
――その目で見つめてほしい。
少し考えれば分かる事のはずなのに、頭が回らない。
アキを支えている反対の手で彼女の身体をなぞる。
ぴくりと反応する彼女を見て、
少し先の未来が視えた。
彼女が泣いている未来が変わらない。
いや、前見たのとは少し違う。
怒っている。
『迅は分かっていない』
『順番が違う』
…アキに怒られているのは自分だ。
その未来が迅を思い留まる。
つまりこれはどういう事なのか。
どっちにも取れてしまう言葉に…迅は頑張って耐えた。
「すぴー……」
寧ろ耐えるしかなかった。
あの状況からまさか寝るとは思っていなかった。
迅はしぶしぶとアキを布団に寝かせる。
天から考える時間を与えられ、迅は笑うしかなかった。
「頑張ってみようかなー…」
流れに任せるのではなく自分の力で……。
眠っているアキの顔を見て、最後に…と、
迅は彼女の額に口づけた――。
20160229
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