ヒュース
君といる罪
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「お兄様、ヒュースは?」
玄界にお兄様ことハイレイン達が玄界に侵攻して帰ってきた。
その報せを聞いてアキは兄達を迎えに行った。
兄達が強いのは知っている。
それでも怪我をしていないか心配でしょうがない。
戦闘向きではないアキはいつもお留守番だった。
だから…というわけではないが、
できるだけ皆が帰ってきたと実感して貰えるように笑顔で迎える。というのが、
アキのルールとなっていた。
今日もいつも通りに笑顔で迎える予定だった。
遠征艇から下りてきた人数を見て、
アキの笑顔はなくなった。
行く時に比べて人が減っている。
「お兄様、エネドラとヒュースは?」
アキの頭は最悪の状況しか浮かばない。
「エネドラは死んだ。
ヒュースは敵に捕まったから置いてきた」
「どうして…置いてきたんですか!?」
アキは知っている。
玄界に行く前に何度もトリオン兵を送って戦力を調べていたのを。
強いものだって何人かいたが、
それでも兄が勝つのに難しくないはずだ。
口を開くアキを制止させるようにハイレインが言う。
「想像以上に玄界が強かった。だからヒュースを連れて帰る余裕がなかった」
全部が嘘だとは思わない。
事実を伝えた後、アキの顔を見て一瞬だけ哀しそうな顔をした。
兄弟だからこそ分かる微妙な変化。
気づかないわけがなかった。
だからこそアキはそれ以上追求することはしなかった。
「残念でしたね」
「ああ、優秀な部下だった」
ーー私にとっては大事な幼馴染だった。
「こっちに連れて来たい人がいる」
この言葉に玉狛のメンバーは一斉に発言したヒュースに注目する。
近々アフトクラトルとの接近が予想される中、今度はこちら側からあちら側へ侵攻する
大規模プロジェクトが動いていた。
これは数年前、攫われた訓練生、友達を文字通り救出する為のものだ。
アフトクラトル出身であるヒュースがいるという事と、彼が玉狛第二の三雲隊のメンバーである事から救出を主とする作戦の立案及び実行する事になった玉狛第二は、近界民である遊真の家族レプリカも救出する為の作戦会議をしていた。
そこでヒュースの一言。
「連れて来たい人…ソイツ、こっちに着く勝算はあるのか?」
戦力として申し分ないのかと遊真は聞く。
その問いにヒュースは否定した。
「戦力にはならないし、
素直にこちらに来るかは分からない」
遊真に嘘をついても意味はない事は既に分かっているヒュースは正直に答えた。
それは今までここで共に過ごしてきたヒュースの誠意であり、信頼でもあった。
それは玉狛のメンバーも同じだ。
「利用できないが、国の防御を崩すことはできる」
「なるほど。そういうトリガー使いってことか」
「確かに盾がなくなれば動きやすくなりますね」
「でもチームで動くんだろ?
防御を崩して救出活動を行うには俺たちの負担が重くなるけど」
「それは多分、どこのチームがやっても同じだ。
だったら僕たちにはヒュースもいるし…僕たちが実行した方がより確実だ」
「私もそう思う。
それにヒュース君がいう人…大切な人なんでしょ?」
千佳の言葉にヒュースは頷いた。
それを皆確認する。
作戦は決まった。あとはそれを通すだけだ。
玉狛支部屋上。
ここで遊真とヒュースは二人して三門市を見ていた。
「すまない」
「いきなりどうした?」
「俺の事情を通した」
「あぁーー」
それは先程の会議のことだ。
レプリカを助けに行く。
それはヒュースが玉狛第二に加わる前から遊真が、修が心に決めていたことだ。
それを折ってでも自分の意志を優先させた事をヒュースは謝った。
それを聞いて随分ヒュースもこちら側に馴染んだなと遊真は思った。
真面目なヒュースはあちら側とこちら側との違いに随分悩んでいた。
捕虜の立場ならしょうがないことだが、
それでも彼がここを受け入れたのは修をはじめとする玉狛支部の存在があったからだ。
「迅さんが言ってただろ。
ヒュースの…幼馴染?がいるとこにレプリカもいるって。
別に気にしなくてもいいぞ」
「しかしそれは可能性の話でーー」
「オサムなら、どちらも助ける事を選ぶぞ。
アイツは面倒見の鬼だから、俺とヒュースのために二人を助けられる作戦を立てる。
チカも同じだ」
「確かに…そうだろうな……」
ヒュースは微笑した。
アフトクラトルにいた時は考えもしなかった。
自分が玄界の捕虜になることも。
そこで絆されることも。
仲間ができることも。
そして、アキを外へ連れ出す…助ける事もーー。
そしてその日はやってきた。
「アキ」
「ヒュース…どうして」
玄界が攻めてきたというのは報せを受けていた。
…兄が玄界からヒュースを連れ帰ってくれる。
次に会う時は罰が悪そうにしながら「心配させてすまない」と謝るヒュースで、
それにアキはちょっとだけ怒ってみせて、それからいつものように「おかえり」って言って迎えるはずだった。
だけど目の前のヒュースは違う。
捕虜となったから仕方なく兵士をしている風ではない。
完全にアフトクラトルの敵にまわっていた。
その事実にアキは驚くばかりだ。
「迎えにきた」
ヒュースがアキに手を差しのばす。
アキは反応できずにいた。
ヒュースの手を取るということは、自分は兄を…アフトクラトルを裏切るということだ。
ヒュースの手を拒むということは敵になるということだ。
ヒュースは大事な幼馴染だ。
自分がヒュースを助けたいと…守る力ではなく戦う力を欲したのは今まで何度あったことか…。
ヒュースがいなくなってどれだけ寂しかったか…。
彼を選ばないなんてことができるはずがない。
「アキ。俺と一緒に来て欲しい」
ヒュースの目が真っ直ぐアキを見る。
それに応えたくなってしまう。
「ダメだよ…私のトリガーは…ここを離れたら機能しなくなっちゃう。守れなくなっちゃう」
裏切るどころではない。
分かっているはずだ。ヒュースも。
それでも来て欲しいとヒュースは言う。
無理矢理ではなく、アキに選ばせる。
それなのに、選ばせる気はないと言わんばかりに言葉を投げかける。
「俺はアキとずっと一緒にいたい」
酷い言葉だと思った。
こんな時に使うなんてズルいと思った。
私の気持ちなんて知らないはずなのにそんなこと言うなんて酷いとアキは思った。
それでも…
それでもずっと一緒にいたいと想えるくらい、
アキはヒュースが好きだった。
ヒュースの手を掴む。
ヒュースもアキの手を掴み、自分の腕の中におさめた。
「ありがとう」
「…ヒュースは大事な幼馴染だもん」
「……そうか」
ヒュースはそのまま、アキを抱きかかえ走り出した。
ヒュースの服をぎゅっと握りしめる。
「お前は攫われるだけだから悪くない」
さっきとは違う言葉。
安心させるために、少しでもアキが罪悪感を感じないようにわざと言うヒュースの優しさがなんだか懐かしくて、
アキは涙を浮かべながらも笑った。
「ヒュースのばぁか」
アキのトリガー機能が弱まった。
城を守っていた防壁が消えていく。
それを機に、城が攻撃される。
その光景をアキは見ていた。
絶対に忘れない…と胸に刻んで――。
20150502
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