それぞれのハロウィン
はっぴーはろうぃん
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「三輪さんが仮装するなんて思わなかったな」
「あ、時枝君」
街でたまたま出会ったのは同級生だった。
アキは声を掛けられたのでそのまま素通りするのもどうかと思ったので世間話くらいしようと近づく。
「時枝君も仮装するんだね。
今日はボーダー休み?」
「そうだね。珍しく非番だからって賢がね」
「あ、私も友達がハロウィンなんだからお菓子持参で仮装して来てって……」
似た者同士の二人だった。
「とっきーいたいた!」
バタバタと佐鳥が駆け寄ってくる。
いつでもどこでも元気な男だ。
「神威さんもいるんだ?トリックオアトリート!!」
出会って早々、その言葉を言う佐鳥にアキはどうするべきかと戸惑いを見せる。
それを見て時枝は嗜める。
まるで兄と弟だ。
「別に気にしなくてもいいよ。
お菓子ならあるし…はい」
言うとアキは佐鳥にお菓子を渡す。
本当に貰えると思っていなかったのか、
佐鳥は嬉しそうにはしゃぐ。
「良かったら時枝君もどう?」
「ありがとう」
アキは時枝にも同じ包みを渡す。
隣にいる佐鳥は早速包みを開けて、
中に入っていたマドレーヌを頬張っている。
「美味しい!」
「レシピ通りだから大丈夫だとは思っていたけど…良かった!」
「味見してないの?」
「うん。甘いものは苦手で……」
「……よく作ろうと思ったね」
「作るのは好きだから」
微笑むアキを見て、本当に作るのが好きなんだろうなと時枝は思った。
ブーブー…
アキのスマホからバイブ音。
友達からかと思って開いて見れば、想像していない人からのメールだった。
そこには「ハッピーハロウィン」という文字と写真が添付されていた。
写真に写っているのは楽しそうに笑って映っている狼の格好をしている米屋と、
不機嫌そうに映っているドラキュラの格好をしている兄の姿だった。
「今日、ボーダーの方でハロウィンパーティーとかするの?」
「そんな話は聞いていないけど」
「そっか……」
あのお兄ちゃんが仮装なんて信じられないとアキは写真を見て思った。
これは米屋のおかげなのかもしれない。
珍しいものを見てびっくりしたが…折角だし、
これはちゃんと保存して大事にしておこうと誓った。
そんな事を思っていると時枝が現実に戻るようにと声を掛けてくる。
「神威さんはこれからどうするの?」
「うん、今から仲のいい男の子にお菓子渡しに行くの」
「そっか喜んで貰えるといいね」
「うん」
時枝達と別れ、アキはいつもの公園に来ていた。
そこには案の定カピパラに乗っている男の子の姿と、青年の姿があった。
「む、アキおそいぞ〜」
「ごめんね」
「アキ!おかしをくれ!
トリックオアトリート!!」
「はい、どうぞ」
元気よく叫ぶ陽太郎にアキはお菓子を渡す。
先程、佐鳥達に渡した包みより少し大きいそれには、
中身がぎっしり詰まっていた。
「おぉ!ヒュースみろ。
アキはこんなにくれたぞ!」
陽太郎の言葉にヒュースは、そうかと軽く流す。
素っ気なく見えるが、ヒュースは面倒見が良い事をアキは知っている。
陽太郎が懐いているのがその証拠だ。
そしてヒュースはちゃんと保護者もしていた。
「陽太郎」
「そうだった。ありがとうございます」
「どういたしまして」
ふとアキはヒュースの方を見る。
彼が静かなのはいつもの事だがそれにしてはこっちを真っ直ぐ見ているような気がする。
何か気になることがあるのだろうかとアキは声を掛ける。
「どうしたの?」
「いや……」
ヒュースは顔を逸らした。が、やはり聞きたい事があるのだろう。
意を決したのか真面目な顔でアキに疑問をぶつけた。
「今日は祭りだと聞いたが何の祭りなんだ?」
「ハロウィン知らないの?」
「仮装してお菓子を貰うと陽太郎に聞いた」
だけどその意味が分からないらしい。
他の国から来たらしいヒュースは、
世間知らずというか、少しずれたところがあるのをアキは知っている。
何て言えばいいのか考えながら少しずつ言葉にしてみる。
「もともとは秋の収穫を祝うお祭りなんだけど、
地域によっては少し違って、
大人が子供達のためにあらかじめお菓子を大量に用意して、
訪問してきた子供にお菓子を渡す…地域の大人達と子供達が交流できるイベントかな。
日本はどちらかというか仮装して楽しむ傾向が強いかも?」
あっているかどうか自信はないけど、
確かこんな感じだったはずだとアキは言う。
同じ国なのに意味が違うのか…とヒュースが呟いていたがその言葉に自分の説明はちゃんと伝わらなかったのかとアキは申し訳ない気持ちになった。
地球にはいくつも国があるが近界民にとって玄界は一つだ。
星=国という考え方をしているため、相違があるのは仕方がない事だが、
近界事情を知らないアキには分かるはずもなかった。
「それでアキも仮装しているのか」
「あ、うん…」
そういえばそうだったと思い出したアキは急に恥ずかしくなってきた。
アキは悪魔に仮装している。
…といってもがっちりしているわけでなく、角と背中に羽があるくらいだ。
一応悪魔を意識して服装も黒で統一はしている。
「外そうかな…」
角を取ろうとするアキに陽太郎が声を上げた。
「おれもつの、あるぞ」
にっと笑いながら言う。
どうやら鬼の格好をしているらしい。
金棒をひもで括りつけ、背負っていたのにアキは今気づく。
「ヒュースもつのがあるぞ」
「陽太郎!」
ヒュースがいきなり声を荒げることにアキは驚く。
「まさかヒュース君も仮装しているなんて思わなった。
いつもフード被っているから意識してなかったけど、
してるの?」
「これは違……!いや、そう、だな……」
「みんなおそろいだぞ」
神妙な顔つきになるヒュースとは反対に陽太郎は嬉しそうだ。
その反応に後押しされて、
アキは勇気を持ってヒュースのフードをとってみた。
そこには確かに角があった。
「凄いリアルだね」
「……」
ヒュースはじろりとアキを睨む。
何か不味い事をしただろうかとアキは一瞬たじろぐが、
陽太郎がヒュースの手を引っ張ったため、
その状況は長くは続かなかった。
陽太郎はベンチに座ると、
自分の右側にヒュースを座らせる。
そして空いている左側を叩きながらアキに座るようにおねだりする。
アキは素直にそれに従った。
「みんなでたべるぞ」
言うと陽太郎はアキに貰った包みを広げる。
そしてヒュース、アキの手にお菓子を渡す。
「あげたのは私だから、気にしないで二人で食べていいよ」
「ユーマがみんなでたべるほうがおいしいっていってた」
だから皆で食べたいと主張する陽太郎に、
自分があげたものだからとか、
甘いものは苦手だからとか言って断るなんて…できるはずもない。
「うむ、うまい!な、ヒュース?」
「……ああ」
その言葉を聞いて観念するしかないと思った。
アキは自分が作ったお菓子を口にする。
美味しいかどうか分からないけど、
胸の中がほっこり温かくなったような気がした。
20151103
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