アイのカタチ
愛を伝える


この時ばかりは本当に緊張する。

紙袋の中身を確認する。
中身はちゃんと入ってる。
ラッピングだって崩れてないし、あとは渡すだけだ。

……でも受け取ってもらえなかったらどうしよう。

急に込み上がる不安に投げ出しそうになって、
その度に今日のためにアドバイスしてくれた人達を思い出す。


手作りがいいのか既成のものがいいのか……
そもそもチョコでいいのかとか、
そこから始まった私のバレンタイン。

「自分プレゼントとかでいいんじゃないですか?
うちの隊長ならそれで落とせる」
冗談か本気か分からないようなことを言ったのは当真くんだ。
付き合ってもいないのにそれは違うよね?
考えることなく却下した。
その後に「絶対行けるのに〜」とか言っていたのにどうすればいいのか分からなかった。
そこに助け船を出してくれたのは東くんで、
「どれだけ相手の事を真剣に考えたかが大事で、気持ちがこもっていればいいんじゃないかな」と言ってくれた。
それなら大丈夫。
ちょっとだけ気が楽になった。
「それに、人の気持ちを蔑ろにするような人なら撃ち抜くから」
「あ、その時は俺にも言ってくださいよ!
隊長を撃つ機会ないから面白そう」
「二人とも怖いよ……」
狙撃手のトップクラスがこれだよ!?
ちょっと狙撃手の後輩達に悪影響を及ぼしてないか不安になる。
「でも冬島さんなら大丈夫だろう」
その一言に、
冗談だったんだーって安心した。


それを思い出して思わず笑いが溢れた。
……今思えば、あれは緊張をほぐすために言った事だって理解できる。
こういうのは告白して付き合う事よりも、
誠意を伝える事が大事なんだって。
大人になってなかなかまっすぐぶつかれなくなった私には、
それは凄く勇気がいる事だったけど、
好きって気持ちが止まらなかった。
今まで動けなかった私が、
伝えたいって思う程、
身体が勝手に動き出す程の強い気持ち。
少し戸惑う事もあったけど、
だからこそ今日伝えようって思った。
決意してから、時間が経つのは早かった。
恋すると時間の流れ方も変わるみたい。
そう思うとやっぱりこの気持ちは特別で、
この気持ちをくれた相手にはやっぱり伝えなくちゃって。
相手は私よりも少し大人で、
それだけで凄く緊張しちゃうけど、
今までみたいに何もしない、動けないのは嫌だったから、
私は今日、あの人に告白するんだ。

話し声が聞こえてくる。
冬島隊が任務から帰ってきたみたい。
作戦室前で待っていた私に気づいて手を振ってくれる。
それだけで嬉しくて死にそうだった。
冬島さんの隣にいる当真くんはニヤッと笑う顔が見えて、あ、ヤバい。
リラックスしたはずがまた緊張してきちゃった……。
あ、でもここは踏ん張り時だ。


「神威、どうした、何か仕事か?」
「いえ、私情で冬島さんにご用件がありまして……」
「じゃあ俺先に部屋入りますよー」

当真くんがこの場から離脱する。
「アイツどうしたんだ」と言いながら、
冬島さんも何か察してくれたのか微妙な空気が流れる。
……そう感じるのは私が告白しようとしているからなのかな。
相手を目の前にするとやっぱりこの胸いっぱいに気持ちは溢れてくる。
止める事なんて逆にできないんだって思えるくらい、
言いたかった言葉がすんなりと出てきた。

「冬島さんが好きです。
受け取って下さい」

刹那の間。

「ありがとうな」

その声とともに手元が軽くなる。
冬島さんの顔を見て、
私の顔が熱くなるのが分かる。
その後に続かれた言葉を聞いて、
私の気持ちは遠慮なく溢れ出した。


20160214


| | 次 >>