アイのカタチ
初めてそれがLoveだと知った


そいつは何度か見かけたことがあった。
どうしてそうなったのか、きっかけは知らねぇ。
そいつに気付いたのは緊張の感情を俺に突き刺してくるからだ。
俺の第一印象はあまり良くない。
それは知っていたから、
最初の一回は無視する事にした。
それが二度、三度…続けば鬱陶しくもなる。
負の感情みてぇに不愉快って程じゃねぇが、
緊張っていう感情はそれはそれで居心地が悪い。
ゾエとかには女の子相手にそんな怖い顔しちゃダメとか言われたがそんなの知るか。
この顔は生まれつきだ。
感情の赴くままに睨めば、
一瞬だけびっくりしたという感情は飛んできたが、
その後、更に緊張が強く突き刺さってきた。
他にも小さく恥ずかしいとチクっときた。
いつも通りなら怯えたり、恐怖の感情が刺さってくるのに……
何でだ。理解できねぇ。
こんな事は初めてだった。

そいつが後輩だと知ったのは制服の上履きの色を見てだ。
学年ごとに色分けされているその色は俺のとは違う色。
他の奴と違うそいつを覚えるのは意外と早かった。
いつも緊張と一緒に付き纏う感情。
それはいろいろあった。
嬉しい、淋しい、嬉しい、哀しい、嬉しい、幸せ……
どうしてそうなるのか分からなかった。
だけど、緊張は伝染するらしい。
あまりにも強いその感情に、
まるで自分が緊張してるみてぇに胸がざわつく。
落ち着かねぇ……。
「こっち見んな」
そう言った時、あいつは顔を真っ赤にした。
律儀にもぺこりとお辞儀して、走って行った。
その時、初めて緊張よりも強い感情が刺さった。
恥ずかしいという感情に、
何故か俺が恥ずかしくなる……マジで何でだ。
そして、刺さらなくなった感情に……俺はいつもの日常に戻るはずだった。
なのに、それが飛んでこなくなると途端に虚しさを覚えた。
マジでどうしたんだ……俺は。



今日はバレンタイン。
そのせいか周りは凄く浮かれていた。
俺には縁がねぇ事だし、正直どうでもいい。
ボーダーにいる方がまだマシだから、行くか。
いつも通りそんな事を思ってたら、
久々に突き刺さってきた緊張に俺は思わず足を止めた。
その後に呼ばれた名前に、俺は振り返る。

「影浦先輩!」

顔を真っ赤にして、容赦なく感情を突き刺してくる。
やっぱりそうだ。
こいつの感情は俺にも伝染する。
この気恥ずかしさは何だろうか。
この温かいような熱いようなワケが分からねぇモノは何なのか。
俺はそれを知らねぇ。

「あ、の……!」

必死になって声を上げるこいつは一瞬怯えて、
それから決意を俺に突き刺す。

「これ、貰ってください……!」
「アァ…?」
「私、影浦先輩の事が好きです!」

突きつけられたところが熱い。
今まで負の感情をぶつけられる事が多かったから、
それが何なのか分からなかったが、
こいつの言葉を聞いて、妙にしっくりきた。
これが所謂、恋愛感情っていうやつなんだろう。
感情の正体を知ったはずなのに、こいつの緊張は俺にうつったままで、
ドキドキして落ち着かねぇ。

「こっち見んな」

あの時と同じ言葉。
それを聞いてこいつはショックを受けたらしい。
ああ、そうじゃなくて…何だ、その……

「俺、お前の名前知らねぇから教えろ」
「あ…!
神威アキですっ!」
「神威、これは貰ってやる」
「ありがとうございます…!」

素直に嬉しいって感情が飛んでくるからむず痒くてしょうがねぇ。
柄にもなく恥ずかしくなった俺は神威がこっちを見ないように頭を押さえつけるように撫でた。
それでも嬉しいって飛んでくるから、
小さいなりにもパワフルだなとかそんな事を思った。
……悪い気はしねぇな。


俺は今日、初めてこの感情を知った。
俺は初めてこいつの名前を知った――。


20160214


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