21歳組
Hello Friend


ボーダー入隊式。
アキはある意味、目立っていた。
トリオン器官が発達する事がない二十歳以上の人間がボーダーの防衛隊員として入隊する事は珍しい事だった。
だからだろうか。
自分より明らかに年下ばかりの新入隊員に驚き、
勝手に疎外感を感じていたアキの挙動が可笑しかったのは…。
だからだろうか。
ただでさえ、(情報通の一部の)正隊員に注目されていたアキが、
更に目立ってしまったのは…。
この日、新入隊員のオリエンテーションで行われるトリオン兵との仮装戦闘で、
訓練室のオペレート及び、監督役をする事になっていた諏訪が、
彼女の姿を見つけたのは偶然というか必然というか…。
どこかで見たことがあるようなー…。
その引っ掛かりが強かったのかもしれない。
だから大学でその姿を見た時、思わず声が出てしまったのは――。

「あ」
「?」

その声に反応して振り返られてしまい、気まずく感じた。
追い討ちをかけるように諏訪の隣にいた風間が「知り合いか?」と聞いてきたため更に気まずくなったのは諏訪だけだ。
身に覚えがないアキが、どこかで会ったかと考え始めた。
顔を合わせた事があるのに覚えていないとか…失礼だと思ったらしい。
それは彼女の事を知らない二人でもすぐに分かった。
「あー…一応、初対面。
ボーダーの入隊式の時、俺、訓練室でオペレートしてたからな」
だから自分が一方的に知っているだけだと告げる諏訪にアキは少しだけ安堵した。
「お前よく覚えているな」
「アレだよ。俺らと同い年の奴が入隊するって話だったから覚えてたんだよ」
「ああ」
風間も思い当たったらしい。
確かに二十歳越えで防衛隊員になる事は珍しいからその件は知っていた。
冬島がエンジニアから防衛隊員に転属したのと同じくらいの衝撃はある。
だから余程のトリオン量を持っているのか、
並みのトリオン量で戦闘センスがあるかのどちらかだろうと想像していた。
見た目だけでいうなら前者だろうが、どうだろう。
「神威アキです。よろしくね」
アキの言葉に、風間の思考は中断した。
ここで考えずとも、彼女が正隊員になれば分かるだろうと思い至ったからだ。
是非とも強くなってもらえればいいと思う。
諏訪以上に……。
風間の思考が分かったのか、諏訪はおいっと突っ込んだ。
長い付き合いだと相手の考えが分かるのは悲しいとこではあった。

「お前ら、何をしているんだ?」

数少ない、同い年の隊員がもう一人現れた。
ああ、今、新入隊員と親交していたとこだと伝えようとしたところでアキの口から出た言葉に、二人の口からその言葉が出る事はなかった。
「木崎くん」
「なんだ、木崎、お前知り合いなのか?」
「ああ、神威は玉狛に所属しているからな」
「うん。今木崎くんに銃手の事で教わってて」
「なっ、お前はまた弟子をとるのかよ!?」
「木崎が師匠か。
……うかうかしていると抜かされるな、諏訪」
「ざっけんな、風間!!」
目の前で繰り広げられる言葉の攻防に初めて見るアキはついていけていない。
これは喧嘩なのかと不安がるアキに木崎はいつもの事だと言い放った。
「大体、お前だけいつもズリーんだよ!!」
「今夜は玉狛だな」
「そうだな」
「お前らは何でそう勝手に決めるんだ」
「え、え?」
「木崎の料理は美味いからな」
話の流れがついていけない。
翻訳すると木崎のご飯が食べたい、だ。
……なんの脈絡もなかった。
アキがついていけないのは仕方がない。
同い年だからか、割と横暴なことを言う二人に折れるのは大体木崎だ。
木崎はため息をついた。
これはいいぞという合意である。
「決まりだな」
「えっと…」
「神威は今夜、大丈夫か?」
「うん、空いているよ」
「よし、玉狛で飲むぞ」
「寺島も呼ぼう。
スナック菓子じゃなく、ちゃんとした飯を食わせるぞ」
話はどんどん広がっていく。
自分が知らない新たな登場人物に首を傾げるしかないが、
お言葉に甘えることにした。

「ご馳走になります」


その後、玉狛に強制収集をかけられた寺島は、
実はまだ自己紹介をしていなかった諏訪と風間に呆れながら、
それに乗っかって挨拶する。

「俺、エンジニアだから何かあったら言って」
「はい、その時はお願いします」
「うん。部署は違うけど頑張ろう」

全員揃ったところで、グラスを掲げた。



これから戦友になる人に捧げる。
ボーダーへようこそ。



そして彼等は乾杯した。


20160227


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