21歳組
お花見前戦


「ハンバーガー」
「何言ってる。カツカレーに決まってるだろう」
「それもう飽きたからうどんにしようよ。
うどん!」
「てめぇらざっけんな!
お花見なら普通に弁当だろうが!!」

ボーダー本部、とある部屋にて、
こんな論議がされていた。
内容は諏訪が叫んだ通り今度のお花見は何を食べるか、だ。
寺島はハンバーガー、風間はカツカレー、アキはうどんがいいと言い出した。
因みに全ておかずなしのデザートあり……木崎のお手製である。
木崎のお手製には諏訪も同意しているが、
お前ら偏りすぎだろというのが言い分だ。
あと、ビール飲むなら……という考えもある。
四人とも睨み合ったまま何も決まらない。
そこに溜息が一つ。
当事者のはずが何故か蚊帳の外にいる木崎だ。

「お前ら毎回そうだが…俺はまだ作るとは言ってない」
「何を今更…恒例行事だろう」
「木崎のカツカレーが食べたい」
「この面子で誰が作れるっつうんだよ!」
「木崎くんの手料理、楽しみにしてるのにー!!」

言ってみたものの、一斉に言葉が返ってきた。
いつもの事だが、どうやら今年も木崎が作るのは決定らしい。
純粋に美味しいと言って貰えるのはいいが、
少しは気遣うことができないのだろうか。
玉狛の可愛い後輩達は手伝ったりするが、
このメンバーは皆無である。
いや、もう慣れたので期待するのは無意味なのも知っている。

「はあ…分かった。
それは引き受けるとして…今年はどうするんだ」
「公平に試合でいいんじゃない?」
「えーまた風間くんが有利じゃないの!」
「悔しかったら強くなるんだな、特に諏訪」
「るせーな。風間しばくぞ」
「できるものならやってみろ」
「諏訪、負けフラグだな」
「諏訪くんの犠牲は無駄にしないから」
「始まる前から勝敗決めんなって!」
「お前等少しは話し合いで解決しようとは思わないのか」
「「「それじゃあ、つまんないだろ(でしょ)!!」」」

やはり何かにつけて皆、戦いたいだけのようだ。
いつもの事なので左程驚きなどはしないが、
成長しないものだなと木崎は密かに思った。
こんなどうしようもない事に熱くなる姿を後輩達にはあまり見せたくない。

「それじゃ、マップ選択と審判は木崎くんお願い!」
「寺島、久々の戦闘だがカツカレーのため…手加減はしないぞ」
「エンジニア舐めるな。
護身用(特製)トリガーの斬れ味見せてあげるよ」
「だー!テメェそれ、絶対ズリィ奴だろ!?」
「いいから早く準備しろ」

溜息交じりの木崎の言葉で皆、トリガーを起動する。

「寺島くんのトリオン体久しぶり!
ついでに体型も当時のものにすれば懐かしさ倍増で良かったのに…」
「実際の姿とトリオン体の姿変えると感覚が違うから操縦し難くなるから無理だな。
特にこういう勝負の時は落とされるわけにはいかないからね」
「ちぇ…」
「神威の魂胆は見え見えだ。
そんな可愛いふりしても無意味だぞ」
「皆、少しは女の子扱いしてくれてもいいんじゃないの!?」
「はぁ!?いい年して女の子扱いして貰えるとか思うなよ」
「タメなんだけど?
…諏訪くん、ぶっ潰す」
「そんな事言うからだろーが!自覚しろ!!」



かくしてお花見のお弁当…食べるものは何にするかを決める戦いが始まった。
ランダムな場所に転送されるのはランク戦と同じだ。
前回のイベントではカツカレーだったため、
皆全力で風間を潰しにかかるだろう。
そんな木崎の予想は見事に的中するのだが、
至ってどうでもいい事だった。
何せ誰が勝っても作るのは自分である。
木崎は目の前の試合が終わるまでお花見のデザートは何を作るか考え始めた。
一度皆の要望通りメインを全て準備したら、
何処かの誰かが折角皆で楽しむのだから同じものを食べようと言い出したのを思い出した。
あと、木崎がそれぞれ作って大変だの、カレーは嵩張るだのと。
前者に関してはそう思うなら作らせるなという話だがそこに関しては満場一致で木崎の手料理でないとダメということになった。
それから何かと決める時は勝負するようになったわけなのだが……頭の痛くなる話である。

そんな木崎の思いなど知らず、
試合は白熱していた。

案の定、皆は風間狙いだったがそれは狙われている本人も分かっている。
即カメレオン起動した。
三人が協力関係であるうちはギリギリまで出てこない気だ。
そうなると痺れを切らすのは大体諏訪だ。
性格的にアキも突っ込みにいく部類の人間ではあるが、
落ち着きある行動をしろと説き伏せられたアキは攻撃手から狙撃手に転向した経緯を持つ。
なので、基本は狙撃手なのである。
風間から奇襲されないように警戒しながらバックワームで移動中だ。

銃声が鳴り響く。

諏訪と交戦しているのは寺島だ。
見た目から想像できない機動力は彼が現役だった頃と変わらない。
迫り来るお肉に諏訪がまさかの防戦を強いられている。
……エンジニアに転向しても強い寺島が凄いのか、
諏訪がそれだけ……いや、何も思うまい。
そういえば寺島は射手・銃手アンチだったかと思い出し、
諏訪相手に八つ当たりに近いものをぶつけているのかもしれない。
アキはスコープを覗きながら、
二人の姿を確認し、引き金に手を掛ける。
――とそこで、アキの背後から風間が現れる。
バックワームが引き裂かれるのと同時に解除し、
シールドでギリギリ防ぐ。
手にしているライトニングで弾を撃ち出した。
風間の身体を掠っただけだが命中した。
一先ずアキの仕事は終わりだ。
持ち前の機動力を活かし、一目散に逃げ出した。
いや…寺島たちの元へ突っ込みに行った。
そのまま風間を引きずるつもりらしい。
いつもならそれに乗らない風間も、
アキに当てられた弾がスタアメーカーだと分かり、隠れても意味がない事を悟った。
ならば、釣られるのも一興である。
アキが合流した事で、彼女の仕事が完了した事を知ると、
寺島と諏訪は一斉に風間の対応を開始した。
これも風間を釣るための戦闘だったと思うと、
彼等は余程カツカレーを回避したいらしい。
幾ら美味しくても連続で同じものは嫌なのだ。
打ち合わせもしていないのにこの息の合い方は異常だ。
それだけ長い付き合いなのだと思うと喜ばしいはずなのに、
素直に喜べないのは何故なのか。
久々の接近戦四つ巴を観戦しながら木崎の中でデザートは桜ゼリー決まった。
後は彼等の勝敗次第なので、終わるのを待つしかない。
一人落とされ、空間にベイルアウトの軌跡が……。
あと二人落ちれば終了だ。

木崎は勝敗がつくまでの間、
本日の玉狛支部で振る舞う献立を真剣に考えていた。


20160326


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