18歳組
卒業晴天


『校歌、合唱』

体育館に響き渡る歌声よりも、
鼻をすする音の方が良く聞こえる。
今日は卒業式だ。
気持ちのいいくらい天気は良い。
だけどやっぱりこういう時に泣く奴はいる。
……今生の別れでもねぇのに、その気持ちは俺には分からねぇ。
それよりも…だ。
俺にはさっきから突き刺さる不愉快な感情の方が気になってしょうがねぇ。
楽しいというのと、面白がっているのと……これは呆れか?
それらの感情は詳しく読み取るともっと複雑だが、それはどうでもよかった。
確認できたのは三人分の視線だ。
飛んできた方向は体育館の二階側。
球技大会とかならそこからチームの応援をしたりする奴はいるが、
卒業式は特に使う事もなく、逆に一般の立ち入りを禁止にしている。
クソ保護者達は俺達の後ろ側に展開してある椅子に座っている。
じゃあ、誰もいないはずのそこに誰がいるんだっていう話だ。
俺は反射的にそっちに顔を向ける。
すると、喜びが飛んでくる。
そこには誰もいねぇ。
だけど何かがいることは明白だ。
見えないが、なんとなく手を振られている気がした。
そういえばLI○Eで「卒業式行くから」とか飛んできていたのを思い出した。
……犯人はアイツ等しかいねぇじゃねぇか。
後ろから何してんだという視線と不思議そうな視線が突き刺さる。
穂刈と鋼の奴だ。
るせえよ。
俺の方が聞きてえよ。
上から面白いとムカつくくらい楽しそうな視線が刺さってきた。
マジでアイツ等覚悟しろよ。



卒業式が終わって、
最後のホームルームが終わる。

「カゲ、今日で学校最後なのによそ見はダメだ」
「俺は悪くねぇよ」
「着いたらしいぞ、荒船達が」
「ケッ」

鋼と穂刈と一緒に校舎を出て正門の方へ行く。
途中でゾエ、加賀美、人見と合流した。
ホームルームの長さはどこのクラスも大体同じだろう。
目的も同じなので一緒に校門へ向かう。
今日で俺達は高校を卒業する。
「折角だし皆で騒ごうよ」と言い出したのは神威だった。
ノリのいい奴等はそれに賛同し、結局俺も行く事になった。
進学校組の卒業式は数日前に終わっている。
だから、俺達が卒業する日にそのまま出掛けることになった。

荒船達を見つけるのは意外と簡単だった。
わざわざ学校の制服を着て来た奴等は嫌でも目立つ。

「あ、カゲ達だ。ここだよ〜」

俺達を見つけた神威が物凄い勢いで手を振る。
そんなに振らなくてもただでさえコイツの感情は強く刺さってくる。
気付きたくなくても気付く。
あと、隣にいる荒船と犬飼の野郎も……此奴マジでうぜぇ。

「卒業、おめでと〜!!」
「アキたち、時間通りに来たのね。
まぁ、荒船くんがいるなら遅れてはこないと思ったけど」
「えーそれって俺等、信用されてないって事?
酷くない??」
「本当だよ!
私達張り切ってきたのにぃ!!」

加賀美、犬飼、神威と続き、荒船が苦笑した。
この様子だと同じチームメイトにも知らせていなかったみてぇだな。

「テメェ等ふざけんなよ」

俺の言葉に進学校組は察したらしい。
そりゃそうだろうな。
神威と犬飼が楽しそうにゲラゲラ笑い始める。
他の奴等は置いてけぼりだ。
神威が「カゲ達の卒業式の日、行くから」と言って、
集合場所を決められた時は式が終わるのにあわせてくるものだと、
卒業式が始まる前までは思っていた。
だけど此奴等、それよりも前に来てやがった。

「式の最中、こっちばかり見やがって」
「何、どういうこと?」

人見の疑問に答えたのは実行犯の奴等だ。
カメレオンを使って、
二階から卒業式を見ていた事を伝えると、
鋼と穂刈がだからあの時……と納得して見せた。

「だってぇ、折角の卒業式だよ?
見れるなら見たいじゃん!
最初は後ろからちゃんと見ようと思ったんだけどさー」
「そうそう。案の定っていうか探すの大変そうだし、俺たち他校生で目立つからね」

仕方なかったと言う神威と犬飼だが、
明らかにどこからどう見るか最初から決めてた口だ。

「……言っとくが、俺は一応止めたからな」
「別に何事もなかったからいいけど…珍しいね、荒船が犬飼達の無茶を聞くなんて」
「まー荒船の映画理論聞きまくったしね」
「映画館で見る事の重要性も説かれたし…あ、映○泥棒ごっこ面白かったね!」
「いたな。この前隊室に…」

穂刈は何か思い出している。
荒船と加賀美も思い出したのか二人して顔を背けた。
……此奴等頭いいのにマジで何してんだ。

「それで皆見つけたのはいいけど俺達カメレオン使って姿見えないし、
喋ったりしたら軽くホラーでしょ?」
「うんうん、だからカゲに熱〜い視線向けてみたんだよ。ねー」
「そうか。良かったなカゲ」
「よくねーよ、鋼。此奴等マジでウザかった。
……見んじゃねぇよ、お前等ウゼェ。
犬飼ウゼェ」
「神威だけ特別扱い?
えー俺、可哀想じゃない?カゲぇ」

だからウザいんだよ。
そのニヤニヤ気持ち悪い奴を向けんなっつうの。
神威と目が合う。
……だからそんな目で見るなっつうの。

「おー諸君、お待たせ〜」
「なんだ、俺達が最後か?」
「A組、遅かったわね」
「今ちゃんが泣いてて大変だったの〜」
「ちょっと国近、余計なこと言わないでよ…!」
「そうなのか?今、大丈夫か?」
「あーもう、だから大丈夫よ!」
「皆揃ったみたいだしそろそろ行くか?」
「そうだね、ゾエさんお腹空いちゃった」

荒船、ゾエを先頭に皆で校門に向かっていく。
そんな中、一つだけ俺に刺さる視線。
分かってる。
神威だ。

「カゲ、この前の返事なんだけど」

微かに聞こえた言葉と一緒に不安げな気持ちが飛んでくる。
さっきまでの騒がしさが嘘みてぇだ。
しおらしいと気持ち悪い…調子が狂う。
その理由は馬鹿な俺でも分かる。
神威が俺に告白してきたのは数日前だ。
そして返事は卒業の日に…欲しいと言われた。
一種の儀式めいたそれのどこがいいのか俺には理解できねーが、
神威が欲しいと言うならそれくらいやってもいいと思う。

「ほらよ」
「……!」

神威が嬉しそうに笑う。

「テメェだけだ、そんなもん欲しがる物好きは」
「物好きは私一人だけでいいんだよ!
…大切にするから」

第二ボタンを握りしめて神威が言う。
そんなの欲しがる女、マジで分かんねー。
そう言うと「じゃあ言葉にしてよ」と神威が言う。

「好きでもねぇ奴に自分のもん渡すかよ」
「ほら、やっぱりカゲは素直に言えないじゃない!」
「るせーな」

神威と言い合っていたら先に行ってた奴等が遅いと大声を出す。
あいつら元気だな…。

「皆に報告する?」
「いらねー。ゾエとかむず痒い奴飛ばしてくる。
あと、犬飼の野郎がムカつく」
「……本当、犬飼とウマが合わないんだね」
「半分はお前のせいだ」
「え?」
「〜〜!
あいつらの視線マジでウゼェから行くぞ」
「ちょ、待ってよカゲ〜!!」

隣に神威が駆けてくる。
高校卒業して、大人になって、
その時も隣にコイツがいれば退屈しないんだろう。
空は清々しいくらい青い。
その下で神威が笑ってくれれば、
俺はそれでいいんだろう。
そう考えるのはガラじゃねぇけど、こればかりは仕方ない。
そう思うと言葉は自然と出てきた。

「俺も神威が好きだからな」

ちゃんと聞こえたらしい神威は、
今まで以上に俺にむず痒く、そして熱いようで温かい。
そんな感情を突き刺してくる。
全身で好きだとぶつけてくるそれは照れ臭くてしょうがねぇ。
だから言うのは嫌だったんだよ。
でも神威が笑うから、
まー…いいかって思った。


20160323


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