当真勇
射貫かれた鷹


戦闘スタイルは何通りもある。

機動力を誇る緑川駿。
格闘戦を得意とする木虎藍。
冷静な判断力を持ち、どんな小さな的でも必ず当てる奈良坂透。
単調なように見えてフェイントを入れて攻撃してくる槍使いの米屋陽介。
アクション派狙撃手といわれる荒船哲次。
アシストに定評がありつつも合成弾で派手な攻撃をしてくる出水公平。
攻撃手である神威アキも独自の戦闘スタイルを持っている。

アキはバックワームを起動し、
部屋の片隅で息を潜めていた。

近くで爆発音がする。
これは自分が張ったワイヤーに誰かが引っかかったのだろう。
引っかかるとその傍に仕掛けていたメテオラに触れ、
爆発するように罠を張ったのだ。
そして、仮に敵が無事だった場合の逃走経路を計算し、
アキは今、そこに待機していた。
部屋に標的が滑り込むように入り込む。
前後左右の警戒はしていても案外頭上の警戒はしていない事が多い。
こういった建物内は特にだ。
警戒の死角を突き、アキは天井から飛び降り、
そのまま剣を振り下ろした。

「お前そこにいたのかよ…っ!」

そう呟くも相手が反撃する様子もない。
否、反撃できる状態ではなかった。
無機質なアナウンスが鳴り響く。

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』


現在、アキはチーム戦をしていた。
ボーダー主催の公式なランク戦ではない。
適当に戦闘好きな隊員、
またはその辺で暇そうにしていた隊員を無理矢理捕まえて、
適当に振り分けてチームを作ってやっている。
ちなみにいうとアキは巻き込まれた側だ。
だが、別に嫌ではない。
個人の腕を磨く個人戦とは違い、
集団戦は連繋、戦術、そしてごちゃっとした戦況での反射神経を鍛えるのに適している。
その事が分かっているからこそ、
相手の裏をかき行動することを常にしているアキにとって、
如何に相手に見つからず事を進めるか、
そして見つかっても自分で対処する力を身につけるという点で非常に訓練として最適だった。
チーム分けは戦闘力がバランスよく分けられるように行っている。
アキもそれに対して異論はない。
ただ一点…いや、一人というべきか。
それは当真勇とは同じチームでやりたくないという事だった。

そういう事でチームメンバーは、
荒船、当真、緑川、米屋の四人組と、
出水、木虎、奈良坂、そしてアキの四人組でやる事になった。

相手を仕留めたアキは移動した。
個人だと忘れがちになる射線を意識する、
少しでも穴があれば当真は狙撃し、
そして確実に当てる技量を持っている。
アキが当真と同じチームになりたくないのは、
仲が悪いとかそういう理由ではなく、
単純に当真が、
人の隠れる場所を熟知し、
更にどこに隠れているのか解っている。
そしてそこから移動するルートの算出にも優れているという事だ。
人の死角から攻撃するスタイルを持つアキは、
相手の動きを予測して待ち構えて仕留めるか、
虚をとり、一瞬でもできた隙を逃さずに仕留める。
だから自分が隙をつかれて攻撃されるのが悔しくてしょうがないのだ。
遠距離戦において攻撃手と狙撃手では射程が短い攻撃手の方が不利である。
そのため、狙撃手から落としたがるのがほとんどだ。
勿論アキもそれは同じだ。
だけどどういうわけか、
人が隠れるのに選びそうな場所を目指して移動しても、
罠を張っても、
当真と鉢合わせる事ができないのだ。
それがまたアキを悔しくさせる要因だった。

アキはビルの間をすり抜けていく。
ある程度距離が離れてからカメレオンを起動し、姿を消す。
レーダー頼りの狙撃は確実に命中するとは限らない。
外れるかもしれない弾を撃ちたがらない当真の性質を知ってるからの行動だった。
物陰に入って今度はバックワームを起動する。
後は建物内を移動していけば、
自分の居場所は特定されにくくなるはずだ。

『敵、そっち行くぞ』

突如無線が入る。
遠めからでも分かる射撃。
どうやら出水が敵を追い込んでいるらしい。
敵が逃げてくる予定ポイントに一番近いのはアキだ。
ならば、アキが落としに行くだけだ。

「私行きます」

出水が追い込んできたのは荒船だ。
メテオラで建物を崩し、
視界を乱したところでアキはすかさず相手の首元を狙いにいく。

「…!」

その時アキは自分の頭部にシールドを張る。
狙撃だ。
頭部狙いだと思ったが狙いは腕だったらしく、
アキの腕が吹っ飛ぶ。

『神威粘って。
木虎は急いで当真さんのところに――』

奈良坂から無線が入る。
その返事をする余裕はアキにはなかった。
討ち損ねたが傍にいるのは孤月でマスタークラスレベルまで腕を磨いた荒船だ。
荒船が一瞬できた好機を逃すはずがない。
案の定、荒船がアキを斬りつけにいく。
孤月をシールドで受け止め、
その後スコーピオンで斬りつける…カウンターを狙おうとアキはしたが、
実行する前にもう一度狙撃されベイルアウトした。

「当真先輩」

ランク戦終了後。
ブースを出てアキは当真に声を掛ける。
勝てなかったこの悔しさ…。
次こそは勝つと宣言しようとしたところで、
当真から一言。

「おお、アキ。
今日も残念だったなー」
「先輩、やめてください」
「俺に勝てないうちはまだまだだな」
「なっ」

しかも頭をわしゃわしゃと撫で回され髪が乱れる。
トリオン体といえど、この辺りも本体と同じように、
忠実に再現されている。
敗北感が増すばかりだ。

「奈良坂先輩ありがとうございました」
「お礼は別に。
実際当真さんを討ったのは木虎だろ」
「でも良く分かりましたね。
狙撃手は撃ったら移動するのが基本なのに、
当真先輩がそこにいるって」
「ああ、訓練だと当真さん、
気に入っている人は自分で撃ちたがるから」
「確かに神威先輩、隠れるの上手いから当真先輩からすると楽しいんでしょうね」

仲睦まじいというには何かが違う先輩後輩の会話を見て、
木虎は溜息をついた。

「安心しろよ。
俺がアキを落としてやるからな」
「それって一生先輩に勝てないという事ですか?
嫌ですよ。次こそは私が落とすので」

二人の会話を聞いて、
相変わらずだと皆して見る。
ある意味これはこの二人の恒例行事である。

「神威は大変だな」

そしてアキが別の意味で当真を既に落としているのだが…
それについては不思議と知る者は少ない。


20161110


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