彼等の白き日々
SecretDay
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「先月はありがとう」
そう言ってクッキーを渡す嵐山君を見るのは何度目か。
今日は3月10日金曜日。
嵐山君は大学に来れるのは今日と次の月曜日だからということで、
バレンタインのお返しを律儀に配っている。
当日はボーダーの広報活動で大学に来ないのを知っている。
だから今日は忙しい。
本人とそして貰う側の女の子の方も。
お返しを渡している相手の誰もが嵐山君の本命ではないことを皆知っている。
だけどお返しを貰える子にとってはそれでも嬉しいらしい。
さっきから嵐山君にお返しを貰った子が嬉しそうに声を上げている。
本当いいよね、堂々と直接お返しを貰える人は。
私だってバレンタイン渡したのに、お返しはまだ貰ってない……。
嵐山君と目が合う。
彼は眩しいくらいの笑顔を向けて手を振ってくる。
止めてよ。私を殺す気か。
私の気持ちだって知っているはずなのにあんなに無邪気な顔してさ。
まるで私が心が狭いだけみたいじゃないか。
ま、実際そうなんだけど。
お返しを貰っている子に対して私は嫉妬している。
こんな自分はなんか嫌。
ずっと見てても面白くないし、今日の講義も終わったし、そろそろ行こう。
今日はホワイトデー前の週末だからかな。
いつもより洋菓子屋や花屋の前にいる男性の姿が目立つ気がする。
花屋の前にいる人は背が高いせいか薔薇とか大きな花束が似合いそうな感じ。
だけど買ったのは小さな花束でなんだか意外というか。
ああいう大人っぽい人はどんな人に花束を渡すんだろう。
嵐山君は……うん、花束とか凄く似合いそう。
そう考えて、ちょっと寂しくなる。
あーあ、早く来ないかな。
「嵐山君のばーか」
「ごめん、待ったか?」
「ちょっとだけ」
走ってきてくれたのか、嵐山君が吐く息が白い。
急いで来てくれたと思うと、変なの。
さっきまで嫉妬したり寂しかったりしたのに、
それだけで嬉しくなるんだ。
「三門市のヒーローは大変だね」
「そんなことはないぞ?
でも、アキと友達のふりするのはちょっと大変だ」
ボーダーで広報活動をしている嵐山君は、
広報イメージというものがあるようで、
今は彼女はいないということになっている。
別に公言したいわけではないけど、
私と付き合っていることは秘密で、それがちょっとだけ窮屈。
同じ大学でも友達と変わらない振舞いをするのって意外と難しい。
さっきみたいに私は嫉妬するし、
嵐山君も隠し事するの上手くないから気を遣ってる。
(……けど、従来の性格のせいかたまに距離が近くなることもあるけど)
そんな制限があって、つらくないというのは嘘になるけど、
嵐山君と離れる方がもっとつらい。
だから限られた中で私達は一緒にいる時間を大切にしようって約束した。
「アキ――」
嵐山君が私の名前を呼ぶ。
差し出された手に私は飛びつくように手を繋いだ。
「手、冷えてるな。
待たせて本当にすまない」
「気にしなくていいよ、嵐山君の手あったかいから」
こうやって私のために走ってきてくれて手を繋いでくれるから、
全然気にしなくていい。
このぬくもりがあれば、私は簡単に幸せになれる。
「今度の日曜日休みがとれそうなんだ」
「本当?
じゃあ、久しぶりに一緒に過ごせるね」
「ああ」
「日曜日、楽しみにしてるから」
嵐山君が笑う。
つられて私も笑う。
いつも忙しいのに、私のために時間を作ってくれた。
そんな嵐山君の気持ちが凄く嬉しい。
二人で過ごせる日曜が凄く楽しみで仕方がない。
「嵐山君、好き」
「俺もアキが好きだ」
雑踏に紛れ、私達は一緒の時間を過ごす――…。
20170314
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