彼等の白き日々
倍返し


正直ついでだった。

バレンタイン、あいつから貰ったのは義理だというのは知っていた。
だから適当にコンビニでチ○ルでも買って渡せばいいと思っていた。

「かげうら先輩はどうするんだ?」
「何がだ」

唐突な空閑の言葉。聞けばホワイトデーのことだった。
空閑はいっちょまえに本命からチョコを貰ったらしい。
お返しをしたいのだがどうすればいいのか分からないから助けてくれというが、
お前聞く相手を間違えてるぞ。
そういうのは人気がある奴に聞け。
例えば――…
誰かいい人間はいないかと辺りを見回せば、イベントに一生無縁ではいられない嵐山さんが歩いていた。

「そういうのは嵐山さんに聞け」
「お、アラシヤマだな。聞いてくるぞ」

俺とのランク戦は放っておいてそのまま素直に嵐山さんのもとに駆けて行く空閑。
暫くすると満足げな顔で戻ってきた。
嵐山さんが手を振ってくるがなんだ、こいつ余計なことしゃべったんじゃないだろうな。

「アラシヤマから女の子におすすめなお菓子を売っているところを聞いてきたから、
おれと一緒に行ってくれ〜」
「はァ?なんで俺が?」
「ん?かげうら先輩もお返し準備するだろ?
一緒に買おう」
「俺はお前と違って義理しか貰ってねぇからそこまでしなくていいんだよ」
「好きな人から貰わなかったのか?」
「貰ってねーし、そんなのいねーよ」
「ふむ。日本人は複雑な嘘をつく人が多いな」

奥が深いと唸り始める空閑が意味不明すぎる。
こいつは何を言ってるんだ。

「でも、その人のこと好きなんだろ?」
「な……」

今の会話から分かるはずがない。
ただの勘かもしれねぇが、
何故か確信している空閑に俺は反論する言葉が見つからねぇ。
こういう時の空閑は勘が鋭く侮れない。
寧ろ嘘をつけばつく程、追い込まれることになる。
正直に言うのが一番なんだろうが、
こんなこと素直に言えるわけがない。
バツが悪い。
俺は軽く舌打ちをした。

「お前、ホワイトデーの意味分かってるのかよ」
「バレンタインのお返しだろ?」

あどけない顔で言う空閑の顔はさも当然と言いたげだ。
本当に意味が分かっているのか怪しいが、
俺は絶対に行かないと抗議したらじゃあ…と提案される。

「ランク戦でおれが勝ったらかげうら先輩もプレゼントを用意しよう」

一緒について行ってくれではなく、プレゼントを用意するという言葉になんだか嵌められた感じがしてしょうがねぇ。
だが、ランク戦なら俺の方に分がある。
了承した俺がまさかこの時に限って空閑に負けるとは、
正直、思ってもいなかった。


だからこれは空閑のついでだ。

「カゲ!いつも勝手に入ってくるのにチャイム鳴らしてどうしたの?」
「あぁ、やるよ」

俺は無理矢理アキにホワイトデーのプレゼントを渡した。
紙袋を見てアキの目が丸くなる。

「なにこれ凄い!
カゲどうしたの?今年はチ○ルじゃないの!?」
「後輩が好きな奴にやるっつうから……ついでだ」
「私自分で言うのもなんだけど、
カゲにちゃんとしたの渡してないよ?」

そりゃそうだろう。
お前と俺の気持ちは違う。
同じわけがねぇ。
それは分かってる。
だから今までアキにあわせて適当に渡してた。
だけどいつだって俺はアキに伝えたかった気持ちがある。
それが後輩から焚きつけられる形になったのは少しかっこ悪ぃが、
何もしない方が俺らしくもない。
アキが俺に向ける親愛の情の倍の感情で、
俺はアキに自分の気持ちを渡す。

「バレンタインのお返しだ。アキ――…」

これから覚悟しとけよ。


20170314


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