生駒達人
直感ガールは幸運を掴む


※似非関西弁。
脳内補完お願い致します。


――良いことがある――

私の勘が云っている。
だからこの勝負、私が勝つと思ったんだ。



「嘘!負けた――!!!」

狙撃手の合同訓練。
一応師匠である当真先輩とどっちがたくさんポイントをとるか勝負をしていた。
負けた方が勝った方にジュースを奢るという条件で。
良いことがあるって私の勘もいっていたから、てっきり当真先輩との勝負に勝つと思ったんだけどな。
ちぇ。

「いやー勝負に勝ったジュースは美味しいな」
「先輩、後輩に奢らせるなんて酷い」
「言い出したのは神威だろ?
お前動きを止めないで撃つから外すんだよ」
「相手に場所バレてるんだから動きます!その状態で止まるとか意味分かりませーん」
「そういう止まるじゃねーんだよ」
「意味分かんないですって!
あーもう、暑い、喉乾いたー。先輩ジュース下さい」
「これ、おまえに奢って貰ったものなんだけど」

「なんや、当真にアキやん。
おまえら仲良いなー」

後ろから聞こえてきた声に私は思いっきり振り返った。
達人だ!!

「アキ、そんな不機嫌な顔しとったら可愛い顔台無しやで」
「不機嫌な顔してないもん!」
「そうか?
ま、不機嫌でもアキは可愛いんやけどな」

そう言って私の頭を撫で回す達人に、
今、私不機嫌になったよ!と抗議したくなった。
昔から思ってたけど会うたびに可愛いとか頭撫でまわすのどうかと思うんだよ。
未だに妹扱いされている気がするというか……。
達人と付き合うようになっても達人の態度は昔とそう変わらない。
真面目な顔で「そんなふくれっ面するなや」と私に言ってから、
達人は当真先輩に「面倒見てくれてありがとな」と言う。
あーやっぱりこれ、私を彼女として見てるんじゃなくて妹として、
……もしくは幼馴染として言っているみたいな気がしてちょっと寂しい。

「イコさんからも言っておいてください」
「ああ、よーく言って聞かせるわ」
「?」

あれ、今何の話をしてる?
一緒にいたはずなのに2人の会話について行けていない私は2人の顔を見比べる。
理解する間もなく当真先輩が手をひらひらさせながら去っていくから、
真相は謎のままだ。

「なに当真にたかってるねん」
「もとは私が買ったものだもん、別にいいじゃん」
「あげたものなんやろ?」
「そうだけどー…」

何となく達人にここまでの経緯を話す。
呆れた顔されて腹が立って思わず反撃する。

「良いことある気がしたんだよーだから勝負に勝つかなって思ってさ」
「お前の勘外れるんこともあるんやな」
「そんなことない……って思いたい!」

私の勘はただの勘じゃない。
サイドエフェクト級に凄いんだから!!
あ、そうだ!

「達人、私と模擬戦しよーよ」
「いきなりなんやねん」
「私の勘が云ってるの」
「俺に勝つってか?おもろい。ほなら、久々に勝負するか?」

――良いことがある――

私の勘がそう告げる。
良いよ、私が言ったこと証明してあげるんだから!
息巻く私に達人が思いついたように言う。

「なら、俺たちも賭けないか?
負けた方が勝った方のいうことを1個だけ聞くっちゅうのはどうや?」
「OK!受けて立つ!!」


こうして始まった模擬戦。
私はカメレオンを起動して動いていた。
達人は攻撃手として実力はかなりある。
近寄ったら剣でのやり取りは必須。
スピードで翻弄して隙を作って攻撃するしかない。
逆に離れると達人お得意の居合切り……旋空孤月が襲ってくる。
達人の射程距離は知っている。
だから離れるなら射程距離外。
旋空じゃ届かないとこから攻撃するしかない。
私が達人に勝つためにはどちらかの戦法を使うしかない。
攻撃手から狙撃手へ転向した私は、
達人に近寄って攻撃手並みのやり取りをすることは可能。
だけど、前回それで負けた経験があるから、
今回は外から攻めようと思う……状況次第だけど。
でもでも、伊達に当真先輩の下について特訓してたわけじゃないんだから!
気配を隠して攻撃の機会がくるまで待つのも作り出すのもできてきてる。
精々、私に全力で挑んで負ければいいんだわ!
私はカメレオンを解除して念のためにバックワームを装備する。
ここまで離れてしまえばすぐに追いつかれることもない。
あとは狙撃ポイントに移動して――……。

「!!!」

なんとなく嫌な予感がしたから止まって見れば……
目の前を走る斬撃。
充分距離をとったと思ったんだけど……。
達人が私の想像以上に追い付いてきたのかそれとも旋空の射程距離が伸びたのか分からない。
でも、斬撃が飛んできたこの先に達人がいると思うと、
私の胸が高鳴る。
まだ捕捉されたと決まったわけではない。
このまま前に進むよりも姿を消しながら迂回した方がいい。
私は後退しようとしてまた足が止まる。
飛んできた斬撃に完全に位置の特定されてるって分かっちゃった。
だったらもう姿を消すとかまどろこしいことは止める。
久し振りに近接攻撃でいくしかない。
砂埃が舞う中、私は飛び込んだ。
グラスホッパーで加速して距離を詰めて行く。

「隠れてるの性にあわんかったやろ?」

分かっていたかのように達人が言う。
待ち構えているの分かっていたけど、大丈夫。
私ならかわせる。
達人の剣が振り下ろされるよりも速く、私はグラスホッパーで回避する。
そして更にグラスホッパーを起動して対応できないように動き回る。

「なんや、スピードあがったやん」
「強くなってるのは達人だけじゃないんだよ」

――ここだ――

私の勘が告げる。
達人の背後に回った私は、そのままスコーピオンで斬りつけようと突進した――。



「もう、嘘でしょ」

私はぶすっとしてマットに倒れ込んだ。
私の勘(滅多に)外れないのに……凹む。
勘でここだと思ったから仕掛けたのに、完全に達人の後ろをとったのに、嘘でしょ。
まさかのまさかで返り討ちにされた。
勝ち筋見えていたのに凹むしかできないんだけど、どうすればいいんですかー。

「あー悔しいー!!!」

思わず叫んだら扉が開く音がする。

「俺がアキの考えてること分からへんわけないやろ?」
「私だって達人の考えていること分かるもん」
「なら、力の差やな」
「正論言わないでよ!!」

ぶーと頬を膨らませたら「ハムスターかいな」と言われて容赦なく頬にを突かれる。
地味に痛いなーこれ。

「それじゃ、勝負の報酬を貰うわ」
「あ、そういえば」
「なんや自分で誘っておいて忘れてたんかい」
「わ、忘れてないよ」

それに賭けをしようと言ったのは達人だし。
ま、勝負は勝負だから仕方ないけどさ。
どんとこい!

「じゃあ、言ってよ」

催促する私に達人は迷わず言う。

「相手のいうことを聞くとかいう賭け事すんなや」
「へ」

相手の言うことを聞くって奴だったからてっきり罰ゲームみたいな何かが来るんじゃないかと思ったからびっくりした。
達人の顔見たら私の反応に不満だったみたい。
頭を掴んでぐりぐり回される。

「相手が当真だったから良かったけど、
悪いこと考える奴だったらどないするん?」
「悪いことって何?」
「いろいろあるやろ」

呆れながらもそのいろいろを説明してくれる達人に私の体温が上昇する。

「そんなこと考えるの達人だけだよ、心配しすぎ」
「阿保か、男は皆下心ありまくりや。警戒しとけよ」
「……達人はあるの?」
「言わせんな」

だってだっていつも可愛いとか言ってくれるけど、
いつも頭撫でてくれるけど、
嬉しいけどそれだけなんだもん!
達人に下心あるとか想像つかない。

「あ、あと男から飲みかけのもん貰うのもやめとき」
「……もしかして達人妬いた?」
「自分の彼女やから当たり前やろ」
「嘘。だってキスされたことない」
「阿保か、したら止まらなくなるやろ。
高校卒業するまではこれで我慢してくれへんか」

達人がぎゅっと抱きしめてくれる。
彼女になって初ハグ。
どうしよう緊張してきた。

「わ、私は別に手を出されても……」
「阿保か、お前の父ちゃん怖いやろ。
節度守っとかなん、結婚できんくなる」
「け!?……してくれるの!?」
「してくれへんのか?」
「する!!」

私もぎゅっと抱きしめ返す。

「あーアキ可愛すぎやろ」

頭の上から声が聞こえる。
いつも聞く言葉より今日の言葉は凄く嬉しい。

――良いことがある――

ああ、そうか。そういうことなんだ。
なーんだ、やっぱり私の勘当たるじゃない!
だって良いことあったもん!!


20170610/2周年記念


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