私のお隣さん
お隣さんは羊かな


あー疲れた!!

そんな風に叫ぶ元気はとうの昔に終わっていた。
家に帰ってきたら余計に身体が重く感じる。
叶うことならこの場に倒れてしまいたい……。
だけどここはまだ玄関で……せめて布団のとこまで行こうと自身を奮い立たせたのはかろうじて残っているなんとやらっていう奴だった。
重い足を引き摺り念願の布団にダイブ。
素直にそのまま寝れたら良かったのに、なんだか心臓がばくばくいって眠れなかった。

「あ――……」

今、何徹目だっけ?

眠たいのに眠れない。これ如何に。
疲れている身体とは反対にテンションはハイなのか……そうだよね、そうじゃないと徹夜なんて何日もやってられない。
流石に疲れた、休ませてほしい。
そう思っているのに身体が休みを拒絶するとか、本当に信じられなかった。
とりあえずお風呂に入って……と思ってシャワーだけ浴びたら中途半端に覚醒した。
うん、これ今日眠れないんじゃない?
折角帰ってきたのに!
悔しさでもう一度布団の上に寝転び目を閉じる。

「羊が一匹、羊が二匹……」

時間が勿体ないからせめて羊でも数えよう。
そう思って数えだしたけど案の定眠れるわけがなく。……寧ろいつ止めればいいのだろうか。
疲労のせいかどうでもいいことばかり考える私は自分で自分が分からないと内心突っ込みながら永遠に羊の数だけを数える。
ああ、なんて虚しいのだろう。
自分の心臓の音が聞こえる。
時計の針の音が聞こえる。
そして……

「やぁんやぁんどないやねん」

聞こえてきた声に私の思考は完全にフリーズした。
男性の声。それは壁の向こうから聞こえてくる。
別に盗み聞きするつもりはなかったけど私の家には音を立てるようなものは何もない。だから仕方がない。これは不可抗力だと自分に言い訳をしたのは私が元気になった後のことで今はそんなこと考えられなかった。
リズムを刻んでいるような……あぁ、これ歌なんだ。
聞こえてきた歌詞は正直言って意味が分からない。
のんびりとした曲調にヒーリングソングとかそんなものだろうかと想像するけど歌詞が意味不明すぎて早々に却下した。
というか、歌っている男性の声が凄くいい声で逆に笑いをそそる。
思わずふっと声が漏れる。
そそるどころか事後。笑っちゃった。
気付いた時には私の耳には時計の針の音も自分の心臓の音も聞こえなくなっていた。

「イコさん、それなんやねん」
「この前、動画見つけたから歌ってみた」
「……俺の記憶が確かならギターやりはじめたのモテたいからじゃなかった?」
「せやけど、俺気づいてしもうたんや」
「……一応聞きますけどなんです?」
「かっこいい曲を歌ってかっこいいのはイケメン限定だってことや。……となると俺はやっぱり笑い担当になると思うねん」
「いや、そんなドヤ顔されてもな……」

ちょっ、ツボ!聞こえてきた会話がツボに入った!!
なにこれ可愛すぎでしょ。
男子高校生?それとも大学生?モテたいからギターって純粋でしょ。

胸がぽかぽか温かい。
こんな感覚久しぶりだ。

「じゃ真面目に二曲目いくで」

あ、懐かしい。これ少し前のアニソンだ。男の子向きのアニメだということもあって情熱的だ。うん、確かにさっきのよりかっこいい曲だと思う。
いきいきとした張りのある声を聞いてお隣さんはさぞノリノリで歌っているのだろう。
一体どんな子が歌っているのだろうと想像するけど、全然駄目。
私想像力なかったわ。

「面白い子なのは間違いないんだろうけどな――」

面白い顔って何だろう。
あれやこれやと考えているうちに瞼がどんどん重くなる。
ようやく浮かんできた顔にああ、なんかそれっぽいなと思って自然と口元が緩む。
お隣さんは調子がいいのか三曲目を歌い出す。
それをずっと聞いていたいと思っていたのに、気づけば私は眠りについていた。


20180513


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