私のお隣さん
お隣の献立


ただいま、帰りました。
ばたん。
私は思いっきり布団へ自分の身を預けた。
ぼふっと良い音がして数秒。少し名残惜しいけど私は身体を起こした。

「何食べよう」

最近、ようやく、プロジェクトに目処が立って早く帰れるようになった。
定時上がりじゃないの?とか言わないでほしい。
残酷な現実を突きつけられると回復しつつあるライフが再びゼロになりそうだから。
でも少しずつ眠れるようになってきている私は前に比べたら大分快適に過ごしているから別にいいかなーって。
それもこれもお隣さんから聞こえてくる歌のおかげ。
元気のいい歌や切ない歌。懐かしい歌や少しかっこいい歌。そしてオチと言ってもいいのか不思議な歌というか替え歌も歌うお隣さんはいろんなジャンルの歌を歌ってくれて、私はそれを聞いてリラックスするのだ。
なんというか彼の歌は肩の力が抜ける魔力があるのだと思う。
聞いてて飽きないし。
お隣から歌声が聞こえたら黙って耳を傾けるのが習慣になっているくらいに私はお隣さんの歌がお気に入り。
そんな感じで素直に楽しむことができる状態になって私にはある問題にぶつかっていた。

お腹が空くようになった。

健康体の人が聞いたらお前何言ってるんだって感じなんだろうけど私にとっては重要度高め。死活問題。
今までは適当に十秒でチャージできるゼリーとか栄養素はないけどお手軽に食べれるカロリーなんとかとかをつまんで頑張ってエネルギー補給していたんだよね。
身体に良くないって?知ってるよそんなの。
でも食べたい気分にならなかったんだから仕方なくない?
何か口にしないと身体動かせないの分かっていたから選んだのがそれだっただけなんだ。
うん、食べるの面倒な私何か作って食べる発想には勿論ならなかったよね。
コンビニで買えって?だめ。アレ食べるのに時間掛かる。
食べること放棄するなって言われたけどこればかりは私の意志でなんとかなるものでもない。
好きなものは唐揚げだけど食べたい気分じゃないし食欲って何?って感じだったんだけどここにきてようやく何かを食べたいと思えるくらいお腹の虫が鳴るようになった。
それは自分の身体的には凄く良いことだと思うんだけど、そう問題なんだよね……何がって聞かれたら素直に答えるけど、私、何が食べたいのか分からないんだよね。
食の関心が無さすぎたのかこれが食べたいというのが全くない。
適当に買って食べてもいいけど食べたいものがないのに無理に買うのもどうなんだろう。
いつも通りゼリーとかカロリーなんとかさんのお世話になるか。

のろりと立ち上がりいつもストックしている棚を覗いてみる。

「あ」

そう言えば切らしていたんだっけ。
買いに行くの面倒だし今日は食べるの諦めて――。

「いやあかんやろ」

突如聞こえてきた声に私の思考は停止した。
声は隣から聞こえてくる。
前回は歌っていたから聞こえてきたのかなとか思ったけどそうでもないみたい。
隣人の声が大きいのかそれとも壁が薄いのか……後者はあまり考えたくないなー。
聞かれて不味い音を出してることもないけど、気持ち的にね。

「男は黙ってナスカレーやろ」
「えーぼんち揚げも美味しいよ」
「ダメだ迅、ぼんち揚げは主食にはならない」
「せやせや」
「お前だって料理できないわけじゃないのに何故いつもチョイスがそれなんだ……」

聞こえてきた声は先日とは違う声だ。私の隣人は社交的なのだろうか。いろんな友達を連れて来ていて楽しそうだ。
だけど迅って子は駄目。ぼんち揚げはお菓子だから主食にならないよ。

「そうかな。ぼんち揚げって非常食にいいと思うんだよね。ほら、ウィン〇ーゼリーとカロリー〇イトと同じ」
「違うわ。俺は迅をそんな偏食になるような育て方しとらんで」
「生駒っちそのポーズなに?」
「おかんの真似。……こんなことせえへん?」
「さ、さあ……?」
「言われてみれば特徴を少し捉えているような?」
「嵐山変なフォローはしなくていいよ」

何ていうことだ。彼等に私の食生活を全否定された。
……そうか、ダメなのか――うん、知ってた。
隣から聞こえてくる男の子達の会話はテンポよく進んで聞いてて気持ちがいい。
っていうかお隣さん前回はイコさんって呼ばれてたけど、今の話を聞いていると多分生駒っぽい。
彼等の夕飯は生駒くんが茄子を買いすぎて困っているから助けてくれと泣きついた結果、ナスカレーに決まったらしい。
そんな楽しい会話を聞いているとぐぅと私のお腹が主張し始めた。
そうだよ、私はお隣の夕飯事情を心配している場合ではなかった。
臨界点突破する前に早く食べないと!

私は慌てて靴を履き外に出る。
するとお隣から玉ねぎの香りがする。
今彼等が仲良く?料理している姿を思い浮かべてみるとちょっと笑ってしまった。

「カレーにしよう」

今日の夕飯が決まってお隣さんには感謝するしかない。
心の中で頭を下げながら私はコンビニへ向かった。


20180526


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