17事変
わたしの欲しいもの

しおりを挟む


星を見るのが好きでよく空を見上げた。
大事なものがそこにある気がした。

探しているものが見つからない。
そこには何もないのだと知って空を見なくなった。


夢に出てくる自分に差し出される手に必死で手を伸ばした。

夢の中で自分を差し出す手が霞んでいく。
その手は掴めないのだと手を伸ばすのを止めた。


好きな人の話をした。
一途だと冷やかされるから言い返してやった。

好きな人の話をしなくなった。
心に誰かを住まわせる余裕なんてない。
この手は大切なものを掴むための手で、何かを抱きしめるために両手はあるのだ。
だったら私は今の仲間を選びたい。生にしがみつきたい。
どこの誰かも分からない、近くにいない人なら追い出して然るべきだ。

だから届け――……!

私は力を振り絞って手を伸ばす。
なのに上手くつかめない。
宙に舞うトリオン粒子を見つめる。
それは幻想的と言えばいいのかそれとも奇怪的だと言えばいいのか分からない。

「私達って親友だよね」
「急に何?」
「だってそうでしょ?襲われているところを助けて、フォローして背中を預けられる。
結構熱いんじゃない!?なかなか味わえないと思うんだよね!!」
「普通の人が命を懸けることなんて早々ないでしょ」
「うん、だから私たちはその辺の友達よりずっと友達。ほらそれって親友って言わない?」
「まぁ言うかも?」
「言う言う!私前のとこでも親友いたけどあなたが一番私を預けてられるもん、走れメロスって感じ」
「私、あれ嫌い」
「二人とも助かってハッピーエンドなのに?」
「過程が気に入らない」
「そっか」
「私達は一緒に走って行くのよ。おいて行ったりしない。裏切ったりしない。一緒に帰ろう」
「うん」

少しだけ先の未来の話をした。
戻ったら何をしようか。
学校の制服を見せあって、カラオケ行って、商店街にある幸せになるパンケーキを食べよう。
そう話したのは何時だった?
何故、今それを思い出すのか分からない。
トリオン粒子が拡散して天へと消える。
それでも諦めず手を伸ばす。
掴んだのに滴り落ちるそれは手の隙間から零れ落ちていく。
この手は大切なものを掴むための手で、何かを抱きしめるためのもので――……。
駆け寄って叫んだ。


帰りたいと願ったあの頃に、手にしていたもの。
帰りたいと考えなくなってから、手にしているもの。

そして今、手にしようとしているのは――……。


20180721


<< 前 | | 次 >>