現在と未来
明日のかけら

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ボーダー本部、会議室。
A級B級各隊の隊長が集まって行われる定例会。
ここでは三門市の被害状況や近界民の近況報告や各部隊の活動成績及び今後の動きなどについて話し合うのが主になる。
前回はイレギュラー門の発生の確認と調査が議題として挙がっていたので今回はその調査結果や対策について話されるのだろう。
少なくても部屋に入るまでは王子一彰はそう思っていた。
しかし入室してみればそこにいたのは部隊に属さない迅と桜花の姿。そしてよく見れば全ての隊の隊長が集まっているわけではなく恐らくB級の中位クラス以上しかいない。つまり今回の定例会はただの連絡事項ではなく何かしらの任務が絡んでくるということだ。これだけで今回がいつもの定例会ではないと知るのは難しくなかった。


「はぁ信じられねぇぜ……」

先日ボーダー内で悪目立ちしていた桜花が実は任務でボーダー内に潜り込んでいたスパイを探るためのもので迅と一部の者を巻き込んで該当者の洗い出しだけではなくイレギュラー門が開く原因まで突き止めた。
事の顛末を聞いて自分の隣に座っていた荒船の言葉と同じ感想を抱いたのは他にもいただろう。
荒船が影浦に向かって「お前が極秘任務とか合わねぇな」という褒め言葉に影浦はそっぽを向く。最終的には任務遂行のための頭数に入れられたが、それまで桜花の独断によりただ難癖をつけられて勝手に巻き込まれていた影浦は被害者だ。
影浦のサイドエフェクトを知り騒ぎを起こすのに都合が良かったと詫びることなく平然と言い放った桜花に大半の者は呆れたくらいだ。

忍田本部長から今回の事件の報告と今後の対策について話が行われる。
まさか近界民を相手にするのではなく同じこちら側の人間を警戒しなくてはいけない日が来るなんて……想像していた者はどれだけいただろうか。
そしてこちら側の人間を敵だと認識して対応する覚悟を持つ人間がどれだけいるのだろうか。
今回集められたのはその覚悟を持ち得る者だと判断した隊の隊長だけが集められたのだろう。
そこからチームメイトに伝達するかは上層部が指示をするらしい。それまでは口外するなという極秘任務はB級にいる人間があまり知らないだけで実際は多く存在するのだろう。
極秘ならば情報が漏れないように人数を最小限にするものだが素人目に見ても今回は人数があまりにも多い。
それだけ人数を割かなくてはいけない重要案件とは一体何かと王子は説明される言葉に耳を傾ける。

「仕掛けるには証拠が不十分であり、彼等の動きを止めるのは現在難しい。
準備が整うまで君達には率先してイレギュラー門の対応にあたって欲しい。
今まで防衛任務の範囲を立入禁止区域のみとしていたが今回の件が解決するまでは見回り範囲を拡大し――」

忍田の言葉をそのまま受け取るのであれば今までの任務と同じだ。それを敢えていうのは今まで以上に気を引き締めて……なんて安直なものではないはずだ。
聞こえる言葉とその裏側に隠された意味を王子は考える。
スパイ活動を行っていたのはボーダーの技術を盗むため。
意図的にイレギュラー門を開こうとする目的はボーダーの信頼を落とし自分達の組織を立ち上げる下準備。
分かりやすい構図だ。
「――そして、防衛任務と並行して君達にお願いしたいことがある」
忍田の声を聞きながら王子は手渡されている資料のページを捲りながらある一点に目に留まる。

『帰還者リスト』

そこには今回の第三次大規模侵攻で救出したことになっている帰還者達の名前が載っている。
リストに載っている名前の数はとても少ないがあらためて知る名前が幾つかある。
王子が知っている帰還者はボーダーにそのまま入隊した春川青葉だけ。それは彼女の姿を見た者が多数いることと本人がそれを隠していないからだ。彼女の方ばかり目が向いてしまい忘れがちになっているが他にも帰還者は存在する。だが彼等の場合ボーダーが世間にも公表していないこともありボーダー隊員にも知られていない。もしかしたらA級レベルの人間は知っている情報なのかもしれないが少なくても王子は知らない。
それが今回初めて知ることになる。
「そこに書いてあるリストは社外秘だ。くれぐれも外部や他の隊員には漏らさないように」
帰還者が無事にこちら側の世界で生活できるように見守り、何かあった時はフォローして欲しいと告げる忍田の声がなんだか遠い。
王子はリストに載っている名前を見て思考が停止する。

「君は――……」

零れ落ちた言葉は誰にも拾い上げられることはない。
それよりも確認したいと答え合わせをしたくてたまらない子供のように気持ちばかりが急ぎ、反射的に視線を向ける。
「んだよ」
反応した影浦に王子は一言だけ告げた。
「終わったらいいかな?」
王子の言葉……というよりは突き刺さってくる感情に反応して影浦は舌打ちした。

to be continued...



20180128


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